神谷竜介@俯旗軒

東京・京橋交差点の角っこで、90年以上、学術書、教養書を作り続けている小さな出版社の編集者。こんな本に関わってきた(https://booklog.jp/users/kamiya-works)。

神谷竜介@俯旗軒

東京・京橋交差点の角っこで、90年以上、学術書、教養書を作り続けている小さな出版社の編集者。こんな本に関わってきた(https://booklog.jp/users/kamiya-works)。

マガジン

  • 漂う編集者

    千倉書房という地道(地味?)な出版社のお世話になっている編集者が、本と編集にまつわるエピソードを紹介します。普段は鍵のかかった別ブログのエントリから、差し障りの少なそうなモノをアップしています。

  • 愛書家の楽園にて

    丸善ジュンク堂書店(池袋、名古屋、京都、福岡)と有志の出版関係者が協力して選書する企画棚「愛書家の楽園」。2017年に参加して以来、お手伝いしてきた企画に寄稿した文章を掲載します。

  • いくつかの点鬼簿

    幽明の世界を隔てた懐かしい顔、お世話になったかた、そんな人々への哀惜をつづります。

  • 神谷学芸賞・新書賞やってます

    自分が面白いと思った学術書、教養書をお勧めしたいだけのために作ってしまったprize。読むに足る「学」と読ませるに足る「芸」のバランスを求めて今日も私は書店をさまよう…。

最近の記事

著者の思索の原点へ

(2024/11/06記)  ついに完成。昨日見本が納品され、無事検品を終えました。  岩谷將先生の『民主と独裁の相克――中国国民党の党治による民主化の蹉跌』(千倉書房)は、国家統一を目的とする軍政から新たな段階(民主化)を目指した国民党政権の挫折の歴史を描いただけに留まらず、そもそも大陸中国を統治するとは如何なることなのか、という問いにまで思索の及ぶ、著者の原点の書です。  何故そうなるのか、何故そう考えるのか、広大な国土故の為政者の懊悩に思い至ると、今般愈々難しい隣

    • 引くべきか、留まるべきか…

      (2024/11/03記)  鹿島茂さんのプロデュースで、2022年3月、神田神保町はすずらん通りにオープンした書店“Passage(パサージュ)”。棚を借りることで、誰もが神保町で書店主になれるという夢のような企画だった。 ■Passageの概要    その後、切通理作さんの“ネオ書房@ワンダー店”、樋口尚文さんたちの“猫の本棚”、今村翔吾さんの“ほんまる”など、陸続と開店することになる、いわゆる「シェア型書店」の先駆けである。  「街の本屋さん」の衰退や「ひとり書店

      • 人名の母国語読みについて

        (2022/07/18記)  一九七〇年代に小学生、八〇年代に中高生であった私にとって、李承晩は「りしょうばん」である。「李承晩ライン」は「りしょうばんらいん」。受験勉強のとき、そう習った(笑)。  「いすんまん」と言われると、誰のことだったか思い出すのにちょっと時間がかかる。同じく朴正熙は「ぼくせいき」で、「ぱくちょんひ」だとピンとこない。全斗煥も「ぜんとかん」だ。意識の中で「ちょんどふぁん」が先に出てくることはない。  しかし一九八八年に大統領となった盧泰愚は「のて

        • 学会・研究大会のこれから

          (2024/06/24記)  この週末参加した日本比較政治学会で、ちょっと驚くような発表がありました。  来年以降、研究大会を対面とリモートの交互開催にするというのです。  最初は「えー」と思いました。しかしよくよく考えると、中小規模の学会の今後を占う上で、これは大英断となるかも知れません。  コンベンション方式でない大会は主催・開催校に大きな負担をかけます。数百人単位の会員の受け入れ、会場の設営・管理、受付業務や懇親会の準備もあります。  先生も学生もたくさんいる

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        記事

          難しくなる歴史研究

          (2005/07/30記)  七〇回、足かけ七年に及んだ立花隆さんの連載「私の東大論」が文藝春秋二〇〇五年八月号で最終回を迎えた。東大の先端研に客員教授として招かれた体験をもとに高等教育の問題点を指弾し、教養とは何かを説いた『東大生はバカになったか』(文春文庫)に端を発した連載で、立花作品としてはやや地味な部類に属するだろう。たしかに当初の教育論はどこを目指すのかわかりにくいところがあったのだが、東京帝大の歴史を掘り下げるようになってからは、じつは結構面白かった(第二工学部

          難しくなる歴史研究

          『国際経済と冷戦の変容』の読みかた

          (2024/05/28記)  いまどき「カーター・ドクトリン」と言われて「あぁ、アレね!」と膝を打つ人はいないでしょう(苦笑)。  カーター・ドクトリンとは、1980年1月23日、当時の米国大統領ジミー・カーターが一般教書演説のなかで宣言した外交政策のことで、「ペルシャ湾における米国の死活的利益(national interests)を守るため、同地域を掌握しようとする外部勢力の試みは、必要とあらば軍事力の行使を含むあらゆる手段で撃退する」という、なかなか激しい内容となっ

          『国際経済と冷戦の変容』の読みかた

          15年かかりました。

          (2024/04/16記)  来月、再来月と叢書の新刊が続く。15年かかったが、ついに10冊を迎えることになる。  学生時代から恋い焦がれ、目指し続けた中央公論社の「叢書国際環境」に冊数で並ぶ。  水本義彦、多湖淳、待鳥聡史、春名展生、白鳥潤一郎、若月秀和、高橋和宏、東島雅昌…。よくぞこれほどの書き手が筆を寄せてくれたものだと思う。  いまだにどれを読んでも面白い。編集者冥利に尽きる。  今でも君塚直隆さんがゲスト講師を務めた細谷雄一さんの学部ゼミの懇親会で若月さん

          15年かかりました。

          アメリカよ、君はいずこへ…

          (2024/04/10記)  2024年は、近年まれに見る世界的選挙イヤーです。  1月の台湾を皮切りにインドネシア(2月)、ロシア(3月)、メキシコ(6月)が総統・大統領選を迎え、韓国(4月)、インド(5月)、EU(6月)では国や地域の舵取りに影響を与えるであろう国政選挙が行われます(日本でも秋口に総選挙の可能性があります)。  なかでも国際社会の趨勢を大きく左右する可能性が高いのが、11月の本選を前に、現在予備選まっただ中の米国大統領選挙です。  しかし、来年2月

          アメリカよ、君はいずこへ…

          教科書販売の憂鬱

          (2022/06/07記)  この春の教科書販売の成績を分類すると「2020年並みの堅調だった大学」「2021年よりは緩やかに後退した大学」「2019年までと同じ元の木阿弥の大学」「コロナのない世界が続いていたとしか思えない論外の衰退を見せる大学」という感じである。  「コロナがなかった世界」の大学では、180送って152返品とか、15送って12返品とか、大反省会レベルの惨敗を喫した。こんな数字は久々に見た。  もともと小社の営業は実績重視かつ小出しがモットーの出庫ぶり

          教科書販売の憂鬱

          2022年の総括

          (2022/12/30記)  2022年、販売額、販売冊数いずれも前年度を上まわる成績だった当社も、取次通し、つまり一般市場での売上金額では久々のマイナスを記録してしまいました。  コロナ禍に入っても、全ての数字で前年度比プラスを続けていただけに、ちょっと全身から力が抜けるような無念さ、敗北感があります。  正直、数字上は秋口から危機感がありました。しかし、刊行点数が落ちているわけでも、重版がかからないわけでも、広告や販売展開に遺漏があるわけでもなく、ただただ書店の店頭

          生態系の変化

          (2023/05/28記)  出版業界や書籍の全般について語ることは出来ないが、とにかく我が身を置き管見に及んだ界隈の風景を同時代的に書き残そうとブログを続けてきた。  ところが長いスパンで読み返してみると、大学生を鑑にした日本人の思考力(学力ではない)低下の歴史をつづっているような気持ちになってくるから困ったものだ。  この一年を振り返るだけでも、読書しない・できない・教科書を買わない大学生に対するグチめいた書き込みの多いこと(苦笑)。 「教科書販売の憂鬱」でコロナ

          「巣鴨の父」の息子

          (2024/03/12記)  書籍の編集をお手伝いをするなかで、たまたま著者の思いがけない過去や一面に気づくことがある。  それは日頃、あまり他者に見せることのない姿だったりして、意外な発見に胸を打たれたりする。  先日、成城大学の田嶋信雄先生の新著『ドイツ外交と東アジア 1890~1945』(千倉書房)をお手伝いしている折、ネットで氏の著作歴を検索していると、そこに意外な文字列を見つけた。  『巣鴨の父 田嶋隆純』は文藝春秋の企画出版から2020年に刊行されており、

          「巣鴨の父」の息子

          懐かしい作品に還る昼下がり

          (2024/03/30記)  嵐が去った土曜日、春(初夏?)の陽気が心を誘うが、ここ十年で最もひどい花粉症に見舞われている私は、固く窓とカーテンを閉ざし、一日一錠で効くと言われているクスリを朝晩二錠ずつ飲み、なんなら部屋の中でもマスクをしようかという勢いである。  こんなときは薄暗い書斎にこもって歴史に逃げ込むに限る。  細谷雄一さんの『外交による平和――アンソニー・イーデンと二十世紀の国際政治』(有斐閣)。  君塚直隆さんの『パクス・ブリタニカのイギリス外交――パー

          懐かしい作品に還る昼下がり

          勝手なアンソロジー

          (2019/10/15記)  無謀なことを思い立ったものだ。  何しろ池内紀さんには、すでに『池内紀の仕事場』(みすず書房)という、辻井忠男さんの手になる全八巻にも及ぶ選集がある。  しかも、ご自身アンソロジストとして様々なテーマや著者を切り口に数々の書物を編んできた、まさに「名人」なのである。  そんな人のアンソロジーを目論むなんて、身の程知らずにもほどがある。確かにその通りである。  しかし、池内さんの急逝(昨年来、体調を崩されていたことを知らなかったため実感と

          勝手なアンソロジー

          三つの叢書

          (2023/11/24記)  2000年代の終わり頃、NTT出版に叢書「世界認識の最前線」というシリーズがあった。  国際政治学者の猪口孝さん、猪口邦子さんの持ち込み企画で、世界的に定評を得ている基本書にもかかわらず日本に紹介されていない書籍をピックアップし、解題を付けて翻訳出版するという触れ込みだった。私はその前半部の刊行に、サポート的に関わっている。  ラインナップを挙げてみよう。 ◆叢書「世界認識の最前線」 池上英子(森本醇訳) 『名誉と順応――サムライ精神の歴

          五百旗頭真先生の訃報

          (2024/03/07記)  Tさんからメールが届いたのは、そろそろ床に就こうかという〇時四四分だった。しかし件名が「訃報」となっていたため全身に緊張が走り、瞬時に覚醒した。  Tさんと私の共通の知人に不幸があったとしても、こんな時間にわざわざ連絡をしてくるほど重要な人物は限られるからだ。  悪い予感は当たる。それは五百旗頭真先生の逝去を伝える第一報だった。  まさか、と思った。最後にお目にかかった昨年の大晦日も、健康の陰りなど微塵も見えず、新しい企画の話で大いに盛り

          五百旗頭真先生の訃報