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第六話 二人で掴んだ幸せ(大人の切ない恋愛短編集(官能小説) 1)

【18歳未満の未成年が読むには不適切な性的表現が随所に含まれる官能小説です。 切ない恋愛短編集のそれぞれの話のアフターストーリーになっています。切ない恋愛短編集「第六話 君が出て行く夜」を読んでからこのお話を読むと更に味わい深いと思います】

 長かった冬が終わり春を迎えようとする季節の変わり目、日本映画界最大の祭典である日本アカデミー賞授賞式が行われる。その賞を受賞する事は、映画に携わる者たちにとって最大の名誉に違いない。

 それまで賞レースに縁のなかった町屋雄大まちやゆうだいは、最優秀助演男優賞に選ばれた。受賞の際のインタビューで何を答えたのか覚えていないほど緊張していたが、一刻も早く家に帰って彼女と喜びを分かち合いたいと思っていた。

「ただいま!」

 玄関を開けた雄大を待っていたのは、満面の笑みで立つ谷川美波たにがわみなみだった。

「おかえり。最優秀助演男優賞、おめでとう!」

 そう言って雄大に抱きつく美波。

「美波があの時、俺を見捨てなかったから受賞出来たんだ」

 雄大が食事をしながら若手人気女優のサオリから悩み相談を受けていたところを週刊誌に撮られてしまい、それを誤解した美波が同棲した部屋を飛び出した。不器用な雄大はうまく説明出来ず、売れない役者の自分より堅実な男性との結婚が彼女の幸せだと思い引き止める事が出来ない。

 翌朝、静かに出て行こうとした美波に対し、朝まで眠れなかった雄大は自分の本音をさらけ出した。「男は言い訳なんてしない」が口癖の彼が、みっともないほどに彼女にすがったのである。

「君なしでは俺はだめなんだ。頼む。もう少しだけチャンスをくれ。俺は必ず君を幸せにするから」

 少しずつテレビに出れるようになったとは言え、まだまだ収入は不安定。美波に負担をかける事はわかっている。男らしく彼女の幸せのために身を引きたい。頭ではわかっている。

 でも、これから彼女以上の女性に出会う自信がない。美波と一緒なら幸せになれると断言出来る。飾りのない思いの丈を全て吐き出し、最後の決定は美波にゆだねた。

「私の方こそごめん。あなたを有名にするって誓ったのに、自信がなくなってた。あなたが認められる日が必ず来るって信じてるくせに。ごめんなさい。私やっぱり、あなたと一緒にいたい。あなたの成功を見届けたい」

 そうして美波は、雄大と一緒に生きる覚悟を決めた。その日以降、彼はより一層仕事に励み、彼女もまた彼を陰で支えてきた。あの日があったからこそ受賞出来たと、二人は思っている。

「今日はあなたの好きな焼肉だよ。高い肉、奮発しちゃった」
「嬉しいな。早く食べよう」

 あの日あのまま美波と別れていたら、雄大は俳優を続けていなかったかも知れない。夢を追い続ける事が出来たのは、美波がいてくれたから。美波は、彼が嫌いで別れようと思ったわけではない。好きだからこそ、重荷になりたくないのだ。

 この日の夜、二人はいつも以上に互いを求めた。一人では乗り越えらない辛さも、二人なら越えられる。もっともっと一つになりたい。ベッドの上で、激しく唇を重ね合う。もう既に知り尽くした互いの体であるが、何度抱き合っても飽きる事がない。

 美波の唇から発せられる言葉は、彼の気持ちを奮い立たせる。

「あなたなら大丈夫」
「きっとやれる」
「おめでとう。努力が実ったね」

 雄大を勇気づける魔法の唇。程良い厚みの唇。その唇に何度もキスをする。それがまた、美波の性的興奮を誘発するのだ。

 一年前、二人は入籍した。その頃には人気ドラマに欠かせない脇役のポジションを確立しており、互いの両親も二人の結婚を祝福してくれた。孫の顔を早く見せてと言われるが、こればかりは授かり物である。

 キスをしながら美波の胸を揉んでみる。大きくもなく小さくもない、標準的なサイズである。

「ねえ、大きくなるようにいっぱい揉んで」
「バストアップね。やり方聞いてきたよ」

 手の平で、胸の輪郭を丸く円を描くようになぞる。ゆっくりと優しく。次に、横から手の平で中央にギュッギュッと谷間が出来るように寄せる。力強く揉むと痛いので優しく揉む。

 それから、手の平で下からすくい上げるように上に持ち上げる。ゆっくりと優しく。そして、胸の上から脇の下へ向かって手の平でなぞりリンパを流す。

「こんな感じだって。どう?」
「うん、気持ちい」

 映画の濡れ場を研究するため、激しく揉んだ事もある。舞台女優だった美波は、彼の役作りのために協力を惜しまない。無理やり暴行されて嫌がるシーンも真剣そのもの。時には、妖艶ようえんな女に変身したりする。全ては彼のためだ。

 若い頃は性欲に任せて激しく求めてきた雄大。演者としての経歴を重ねるにつれ、感情のコントロールも出来るようになった。むやみやたらと挿入して果てれば良いものではない。相手があってこその愛の行為であり、自分さえ満足すれば良いはずがない。

 美波の秘部に触れる時も心遣いを忘れない。彼女が痛くならないよう適度に前戯ぜんぎほどこすが、し過ぎてはいけない。彼は口数は少ないが、その辺りのさじ加減が絶妙である。映画やドラマの現場に於いても、空気を読むのが上手い。それが重宝される所以ゆえんなのだろう。

 いつものように自然に結合し、いつものように絶頂を迎えた二人は、これまでと同じように幸せな日々をつむいでいくに違いない。

大人の切ない恋愛短編集(官能小説) 1
第一話 男の後ろ姿
第二話 夏の日の公園
第三話 懐かしい再会
第四話 日向の女
第五話 先輩が彼女
第六話 二人で掴んだ幸せ
第七話 初恋の人
第八話 彼女が帰る場所
第九話 十年越しの恋
第十話 昼下がりの誘惑



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