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第十話 昼下がりの誘惑(大人の切ない恋愛短編集(官能小説) 1)

【18歳未満の未成年が読むには不適切な性的表現が随所に含まれる官能小説です。 切ない恋愛短編集のそれぞれの話のアフターストーリーになっています。切ない恋愛短編集「第十話 いつかの花火大会」を読んでからこのお話を読むと更に味わい深いと思います】

 もともと独立志向の強かった梶田勇樹は、会社を辞めて整体師となる。不安がなかったわけではないが、妻の美穂が「きっと大丈夫」と言ってくれたのが後押しとなった。初めは店舗を借りていたが思ったほどに利益が上がらなかったので、自宅の一室を店にして出張施術せじゅつを開始する。

 まずは知人友人に紹介してもらい、顧客を獲得する。根が真面目で正直者であるが故にお客から信用された彼は、次々と紹介を受けて顧客を増やしていく。体力仕事で前職よりも重労働ではあるが、頑張った分だけ収入になる事が励みになった。

 ある時、常連客の一人が尋ねてきた。

「私の友人の知り合いが、あなたに教えてもらいたいと言うんだけど」

 勇樹はお客に施術をする整体師であり、整体の技術を教える先生でもある。今までにも学びたいという生徒たちに出張で教えてきた。

いですよ」
「千葉の〇〇市だから、ちょっと遠いんだけど」

 確かに近くはないが、そんなに遠くでもない。技術を教える事で授業料を頂く。施術に比べればかなり高額なのだから行かない手はない。

「大丈夫です。是非、行かせてください」

 平日の午後、紹介を受けたお宅に車でやってきた。広い敷地に立派な邸宅。かなりの資産家のようである。お金持ちと知り合いになるのは悪くない。期待を膨らませてインターホンを鳴らす。

「どうぞ。鍵がいてますから、中にお入りください」

 この家の奥様だろうか。少しつやっぽい声にうながされるまま、玄関を開けて中に入る。長い廊下の奥の方からスリッパの音が聞こえる。重厚感のあるその音から、ふくよかな婦人を想像する。

「お待たせしました。ごめんなさいね、火を使っていたものですから」

 聞き覚えのある声が耳に届く。

「え?」

 笑みを浮かべる顔を見て、思わず驚きの声が出る。

「やっぱり、勇樹さんだと思った」
「君はもしかして、美奈子?」
「そうよ。お久しぶりね。どうぞ、入ってくださいな」

 美奈子は膝をつくと、スリッパを差し出した。暑いからタンクトップに短パンなのは理解できるが、前が大きくひらけているので豊満な胸がこぼれそうに見えている。勇樹は彼女の母親を知っており将来は太るだろうと想像はしていたが、まだ三十代のはずなのにと思ってしまう。

 広い座敷に通されると、畳の上に分厚いマットレスと布団が敷いてある。

「ごめんなさいね、まだ施術用のベッドを用意してないの。今日はこれでお願いします」

 そう言って、美奈子は布団にうつぶせになる。

「美奈子、君が整体を学ぶの?」
「そうよ。田村さんからあなたの事を聞いてね。せて背が高くて眼鏡かけてるって言うから、きっと勇樹さんじゃないかなって思ってたんだけど、やっぱりそうだったわね」
「君は、この家の奥さんなのかい?」
「そうですよ。あなたと別れてから夫と出会ってね。一回り年が離れているけど、親の跡を継いで会社経営している結構やり手なのよ。先祖代々からの不動産もあるし、お金には困らないわ」

 良く見ると、着ているのはブランドもの。部屋にある調度品も高そうなものばかり。

「そうなんだ。お金に困らない君が、どうして整体師になろうと思ったんだい?」

 金持ちをひけらかす美奈子に少し苛立いらだちを覚えながら、率直に疑問をぶつけてみる。

「整体師? そんなのどうでもいの。あなたに会いたかったんだから」

 長いまつ毛エクステンションで飾った大きな瞳を細め、薄ら笑いを浮かべる。

「それって、どういう意味?」

 彼女の真意を測りかね、彼は困惑の表情を浮かべる。

「あー、今日は一段と暑いわね。ちょっと脱いでも良いかしら」

 言うが早いか、勇樹の目の前でタンクトップと短パンを脱ぎ下着姿になる。小さな布切れでは隠しきれない大きな胸を、惜しむ事なく勇樹にさらしている。

「どう? 前より大きくなったと思わない?」

 恋人同士だった二人。彼の脳裏に愛し合った思い出が蘇る。あの頃はもっと慎み深かった気がする。ここにいるのは本当に美奈子なのか。可愛かった美奈子の思い出が音を立てて崩れていく。

「美奈子、早く服を着てくれ。こんなところを旦那さんに見られたら誤解されるじゃないか」
「大丈夫よ。あの人は愛人のマンションに入り浸りで帰ってこない。お互いの事は干渉しないようにしているの。だから私も遊ばないとね。ほら、見て」

 そう言って、ブラジャーを外す。以前よりも大きくなった二つの乳房が露わになる。腹の肉も増えているのは気にならないのか、誇らしげに乳房を揺らす。

「触っても良いのよ」

 何度も触れた事のある美奈子の乳房。以前のそれに物足りなさを感じていたからか、触り心地の良さそうな獲物を前に心が揺れてしまう。彼女の誘いに思わず手を伸ばしたくなるが、手に力を込めて思いとどまる勇樹。

「昔はあんなに触ってたのに。じゃあ、こっちはどうかしら?」

 パンティーに手をかけ、ゆっくりと下ろしていくと、綺麗に整えられた逆三角形のアンダーヘアが目に入る。そして足を開いてから、両手で花弁はなびらひろげてみせる。過去に何度もれたからか、彼の下腹部が反応して隆起しそうになっている。

(このままではヤバイ)

 妻と子どもたちの顔を思い浮かべ、覚悟を決めた勇樹は彼女に告げた。

「美奈子、僕は君の期待に応える事は出来ない。悪いがこれで失礼するよ」

 揺れる思いを断ち切るように勢いよくきびすを返し、早足でその場を離れて外に出た後、急いで車を走らせた。

(あれは美奈子じゃない。美奈子のはずがない)

 あれは白昼夢なんだと自分に言い聞かせながら、勇樹は一路、家族が待つ自宅を目指す。

大人の切ない恋愛短編集(官能小説) 1
第一話 男の後ろ姿
第二話 夏の日の公園
第三話 懐かしい再会
第四話 日向の女
第五話 先輩が彼女
第六話 二人で掴んだ幸せ
第七話 初恋の人
第八話 彼女が帰る場所
第九話 十年越しの恋
第十話 昼下がりの誘惑



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