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Kによる手記集(無料版)

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何気ない日々の出来事を書いています。
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#日常

門番

 だめでした、途中で心が折れちゃって、せっかく勧めて下さったのに、すみません……。厨房に…

石子犬太
5年前
49

琉金のポンヌフ

 或る夏の朝、夜勤を終え部屋で服を脱いでいると、ソファで寝ている女がクックと肩を顫わせて…

石子犬太
5年前
47

淵で睡る

 女がドアの隙間から顔を出した。鼠色のマフラー越しにはしゃいだような笑い声をだす。俺は原…

石子犬太
5年前
72

計らずも湯殿行

 アパートの前でトラックのエンジン音が鳴っている。ゴミ収集車だろうか。だとすれば、是が非…

石子犬太
5年前
44

めくら詣で

 午後に起きてから自瀆三昧だった。同窓らが開く連日の新年会も、野暮用があると言ってスッパ…

石子犬太
5年前
37

地上の楽園

 壁掛け時計の下に、小さな額縁に入った絵がある。ブリューゲルの、たしか次男坊が描いたもの…

石子犬太
5年前
43

茶番

  繁華街を、野良犬のようにさまよっていた。火照った顔を冷たい夜気が痺れさせた。忘年会帰りの酔漢たちで路地はあふれかえり、怒鳴りあう諍いの声や女の甲高い笑い声が響いてくる。ひと気のないドブ川沿いを歩いていると、寂れたラブホテルが林立している路地にでた。黒い車から、背広を着た白髪の男と短いスカートを穿いた若い女が出てくる。俺は黒いコートと黒いセーターと黒いジーンズと黒い革靴を穿いてドブ川の塀に寄りかかって二人を見ていた。白髪頭が警戒する目つきで俺を睨み、女の細い腰を抱えてホテル

洗濯日和

 洗濯機はベランダにある。無精な男ふたり暮らしゆえ、カバーなどなく雨風にさらされている。…

石子犬太
5年前
42

夢見るソファ

 この室での最古参、それは浅葱色の革のソファだ。とはいっても、アパートに越してきて買った…

石子犬太
5年前
36

聖コウモリ

 机に突っ伏したまま午後を迎えた。クリスマス・イヴだ。褒美に映画でもとチケットを購ってい…

石子犬太
5年前
44

天秤

 ねえ、何か肌黒くない? 三十だから? また、鼻がプツプツしてきてない? 女が俺の頰を撫…

石子犬太
5年前
46

燈らぬ光

 夜勤から帰ってくると、靴下から順に脱いでいくのだが、どうしてか洗濯カゴが冷蔵庫のまえに…

石子犬太
5年前
36

一廉の男

 変わらぬ朝だ。夜勤を終え、ジムで汗を流して帰って泥のように眠るつもりだった。上がりぎわ…

石子犬太
5年前
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日曜大工

 珍しく大家から電話があった。俺は夜勤を終えアパートに帰るなり、荷物を置いて三階の大家の部屋を訪ねて行った。三度も名を叫んでやっと重々しいドアが開かれ、桃色の頭皮が透ける白髪の老婆がヌッと顔を出して手招きした。まだまだ冷えるわねェ、と大家は擦り合わせた手に臭そうな息を吹きかける。俺が黙っていると、大家は唇をすぼめてポツポツと要件を話し始めた。一階の人がね、また水が漏れてくるっていうのよ、前にほら、お風呂場を直してもらったじゃない? それでまた埋めて欲しいのよ、わたしいまから買