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ショートショート【古賀のひみつ】

最近の古賀くんはなんだかおかしい。
いや、おかしいのが古賀くんなのだが。

僕たちは授業が終わってからいつもと同じ空き教室で二人でああでもない、こうでもないといつもと同じく毒にも薬にもならない会話を繰り広げていた。

すると、髪の長いすらっとした女の人が教室に入ってきた。

その女の人は古賀くんにむけて、手招きをすると古賀くんがぼくにちょっと、といって教室を出た。
古賀くんが、わざわざすいませんと珍しく敬語を使っていたので、恐らく先輩なんだろう。

信じられない。
あの古賀くんが女の人に呼び出された。

壊れかけたトートバッグの持ち手をホチキスで止める古賀くんが?

絶対に寝癖なのにあえてヘアセットしたと言わんばかりの物言いで教室に入ってくる古賀くんが?

古賀くんに限っては恋人ではないとは思うのだが。
いや、わからない。
たかだか半年後やそこらの付き合いで僕は古賀くんの何を知っているのだ。
もし、先程の女性が古賀くんの彼女だったら?

入学してから今に至るまで僕は友達と呼べるのは未だ古賀くんしかいないのだ。
もちろん僕には恋人もいない。

古賀くんはというと、挨拶やちょっとした会話を同級生と嗜むくらいには社交性を持ち合わせている。

が、しかし僕は違う。
やっぱり女子は少し怖いし、男子もあまりノリについていけない。大学生怖い。

20分くらいすると、古賀くんが戻ってきた。
何もなかったと言わんばかりに先程の話の続きを切り出した。

「やっぱり俺は目玉焼きは半熟派だね。まぁゆで卵はしっかり固まってる方が好みだが」

古賀くんは卵の固まり具合について熱く語り出したが僕の頭には入ってこなかった。

それから度々その先輩は姿を現し、古賀くんを連れていき、20〜30分程戻らない。

僕は半ば躍起になっていた。絶対に理由を聞いてやるもんか!いいさ、僕の知らないところでよろしくやっていればいいよ。
僕は机に突っ伏して寝たふりをきめこんだ。

高校生のころを思い出した。昔は友達がいないことが日常で、休み時間はこうしてよく机に突っ伏していた。
僕はあえて一人で過ごしているんだと周囲と自分に言い聞かせるように。

今では休み時間を過ごしてくれる友達がいる。
それだけのことなのにこんなにも考え方が変わってしまっている。
早く古賀くん戻ってこないかなぁ。

しばらくすると古賀くんが戻ってきて開口一番にこう言った。
「やっぱさ納豆には納豆のタレだよな。醤油とか入れる奴の気持ちわからん」

そういえば納豆に何を入れるかの話をしていた途中だった。
僕はポーチからハンドクリームを取り出して手にすりこませた。

***
その日の古賀くんは本当におかしかった。

リュックを前に背負い前屈みで歩いている。

「何?なんか大事なものでも入ってるの?」
「は、はぁ?入ってねえよ!」
ものすごく大事なもの入ってますと顔に書いてあった。

授業が始まってもノートも取り出さず、膝の上にリュックを置きリュックの中をずっと覗いている。

先生も訝しげに古賀くんを見るので僕は肘で古賀くんを突いた。

古賀くんの肩がびくっと反応すると同時にそのリュックは「ニャー」と鳴いた。

生徒全員が一斉に古賀くんに目を向けた。もちろん先生も。

「古賀、そのリュックは鳴くのか?」
先生の一言で笑いが起きた。

隣から覗くと子猫がリュックの中で、顔を赤く灯らせている古賀くんを見つめていた。

その後古賀くんは生物研究サークルに案内してくれた。
部室の中には件の女性が白衣を着て、ゲージに入っているモルモットに餌を与えていた。

「古賀くん、今日はごめんね!午前中のシフトでバイト入っててその子見てあげられなくて」
古賀くんは少し恥ずかしそうに子猫を手渡した。
散々教室でからかわれた古賀くんはまだ引きずっているようだ。

東條先輩は僕たちをパイプ椅子に座らせてくれ、コーヒーを淹れてくれた。

「古賀くんが拾ってくれたその子、貰い手見つかったよ」
「本当ですか。良かった。ありがとうございます。本当にお世話になりました」
古賀くんは立ち上がり45度のお辞儀をすると東條先輩はいいよと古賀くんを座らせた。

どうやら僕の見当違いのようだった。
東條先輩はラグビー部で肩幅が古賀くんの二倍はあるだろうというラガーマンと円満交際中とのことだ。

「何で僕に黙ってたのさ。もしかして東條先輩との密会を僕に邪魔されたくなかったとか?」
少しだけムカついていたのでわざと嫌味を言った。
これで許してあげるよ。

「お前猫アレルギーって言ってただろ?子猫拾ったって言ったら色々手伝うとか言いそうだし。俺のいとこも猫アレルギーで一度救急車で運ばれたことあってさ」
柄にもなく僕に対しても少し照れているような表情をするので僕は思わず目をそらした。

「僕は目玉焼きもゆで卵も半熟派。納豆にはキムチを入れるよ。」 

僕はこれからも古賀くんと毒にも薬にもならない話を延々としたい。

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