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書評とかレビューとか

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これまで各媒体で掲載された書評や本のレビューなどをアーカイブしております。
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2018年10月の記事一覧

本で巡る狩猟世界 【文化・民俗編】

『新編越後三面山人(やまんど)記 マタギの自然観に習う』 田口洋美/著 ヤマケイ文庫 1,026円 ISBN:978-4-635-04790-6 新潟県岩船郡朝日村三面(みおもて)。 現在は閉村した集落に、昭和56年から通い、山と暮らす人々を事細かに描いた本。 「山人」とはヤマゥドと言われ、山と関わり、生業にする人々全般を指す言葉である。  その中で猟師は、古くから作法や決まりがことが継承され、厳しい戒律が存在する。「スノヤマ」というカモシカ猟は、伝統の継承や猟師の育成と

本で巡る狩猟世界 【食編】

『猟師食堂』 田中康弘/著 エイ出版社 1,620円 ISBN:978-4-7779-3990-9 猟師自らが獲った動物を捌き料理して自分の店で提供する。そんな猟師食堂を紹介する本。 獲物の死体、美味しそうな料理、そしてまた死体、それらの写真が交互に差し込まれる本書は、どちらか一方の写真だけでは決して感じることのできない「生き物を食べる」ということを強く思い知らされる。そして決して良くはない野生動物料理のイメージを、猟師が料理することで格段に美味しくなるということ知る。猟

本で巡る狩猟世界 【猟師編】

『けもの道の歩き方 猟師が見つめる日本の自然』 千松信也/〔著〕 リトルモア 1,728円 ISBN:978-4-89815-417-5 『ぼくは猟師になった』の著者第二作。 前作は狩猟の世界に足を踏み入れその経験を書き記したものであったが、二作目となる本書は狩猟に対して俯瞰した視点が印象的だ。現在の狩猟を形作った国の方針や行政の対策など社会的な経緯や、野生動物と自然環境の変化への眼差し。これはひとえに東日本大震災と福島第一原発の事故の後であるからだろう。 豊かな狩猟文化

本で巡る狩猟世界 【動物編】

ムック『狩猟生活 vol.1』地球丸(2017年2月)掲載 『イマドキの野生動物』 宮崎学/著  農山漁村文化協会 2,592円 ISBN:978-4-540-12116-6 無人カメラで野生動物を取り続ける宮崎学氏の写真ルポ。 日常、野生動物を目にすることはほとんどないが、里山や登山道の昼と夜の写真から人は動物という同じ場所を行動圏にしているということを実感する。 本書はそれだけにとどまらず、外来種であるハクビシンやヌートリア、新宿に現れるアライグマなど都市に住みつく

本で巡る狩猟世界 【入門編】

『これから始める人のための狩猟の教科書』 東雲輝之/著 秀和システム 3,024円 ISBN:978-4-7980-4642-6 本書は「教科書」というタイトル通り、散弾銃、エアライフル、ライフル、罠、網とすべての区分から、獲物の回収から解体、動物の習性や銃の歴史、ロープワークなども網羅。 これから狩猟を始めようとする人や、興味のある人には必読の本。まずは本書を熟読し狩猟の全容を頭に入れてから狩猟の世界に踏み込んで欲しい。 ただ、これが全てではない。各地域のルールやマナー

ダルトン・トランボの抵抗と半生

『本の雑誌』2016年9月号〈特集=映画天国!〉掲載  90年代のビデオレンタル店は雑居ビルの1フロア、五坪や十坪の怪しげなスペースで映画のビデオを貸し出していて、『悪魔の毒々モンスター』('84年)や『カブキマン』('90年)といった作品で僕は映画の鑑賞眼を磨いていた。そんな当時、市内にオープンしたツタヤで手に入れたビデオソフトカタログから僕の映画観は一変した。カタログの作品紹介欄にはご丁寧に鑑賞済のチェックを入れられる欄が設けられていた。ならば、と僕はこのカタログに掲載

黄金期ヨセミテに集った 二人のライバル

『本の雑誌』2017年6月号〈特集=そこに山の本があるからさ!〉掲載  活字の登山で満足している“活字登山家”の僕が山の本で心から感嘆し尊敬し打ち震えるのは、肉体的な能力とスキル、そして頭がおかしい(褒め言葉)人たちである。  ドキュメンタリー映画『VALLEY UPRISING』は、ロッククライミングの聖地であるアメリカのヨセミテ渓谷から生まれたクライミングカルチャーを描く。  1950年代のアメリカは戦後の平和と安心を享受した時代であった。しかしジャック・ケルアックを

ヒッチハイカー

借りていたDVDをTSUTAYAへ返却しに行った帰り、国道4号線の高架に入るところで「大阪」とスケッチブックに書いたヒッチハイカーを拾った。 ヒゲを生やしてはいたが20代の青年で、リュックを背負い、薄汚れたグレーのTシャツにカーゴパンツとサンダルという出で立ちだった。  スペインで放浪の旅をしていたがビザが切れて日本に帰ってきた直後で、今度は友人のいる大阪まで行こうとヒッチハイクを思いついたという。昨晩に地元福島から長距離トラックに拾ってもらい、ここ小山市で降ろしてもらった