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本で巡る狩猟世界 【食編】

『猟師食堂』

田中康弘/著
エイ出版社 1,620円 ISBN:978-4-7779-3990-9

猟師自らが獲った動物を捌き料理して自分の店で提供する。そんな猟師食堂を紹介する本。
獲物の死体、美味しそうな料理、そしてまた死体、それらの写真が交互に差し込まれる本書は、どちらか一方の写真だけでは決して感じることのできない「生き物を食べる」ということを強く思い知らされる。そして決して良くはない野生動物料理のイメージを、猟師が料理することで格段に美味しくなるということ知る。猟師の子どもはそれらを日常食べているのでスーパーで売ってる牛肉や豚肉が食べられなくなるという。
佐賀県の山本さんの猟犬ドンちゃんのエピソードから猟を通して犬と猟師の関係の深さを感じるなど、登場する猟師それぞれのお話も面白い。


『日本人は、どんな肉を喰ってきたのか?』

田中康弘/著
エイ出版社 1,620円 ISBN:978-4-7779-3161-3

 西表島のカマイ(猪)から始まり、大分の鹿とアナグマ、高知のハクビシン、して北海道礼文島のトドまで、日本人と野生獣の関わりと肉食についてのレポート。
著者が各地方に訪れ、その地の人々が捕獲した野生動物の解体から調理までを紹介するとともに、
狩猟と食が地域の結束に重要な役割であることや、駆除動物を捕獲した場合の補助金の制度など様々な効果や問題が挟み込まれる。
 特に礼文島のトド猟は圧巻。
極寒の海原に一艘の小型ボートで繰り出し、片手にスロットル、もう片手にライフルを持ち、トドを探し、揺れるボートに仁王立ちでライフルを構える俵静夫さん七八歳。
掲載されている写真はまるでアクション映画のような勇ましさ。海のギャングと言われるトドは有害獣と位置付けられていて、その昔はトドの生息する島に自衛隊が砲撃を加えたという。
ミカン畑の害獣駆除(箱罠がアマゾンで格安で買えるというのは驚き)から、なんともワイルドなトド猟まで、今、この日本で行われている狩猟の実態を知るにはもってこいの本である。


『食の人類史 ユーラシアの狩猟・採集、農耕、遊牧』

佐藤洋一郎/著
中公新書 994円 ISBN:978-4-12-102367-4

人類の食を考えることは、そのまま人類史の考えにつながる。
本書は、狩猟・採集、農耕、遊牧という三つの〝生業〟を軸に人類史を紐解く。
食というと農耕を自然と思い浮かべてしまうが、
我々は農業のシステムが狩猟と採集に及ぼした影響や、自然環境にどう作用したのかを想像はしない。
農耕とは独占の生業であるという視点が新鮮に感じるほどに食=農耕と自然と考えてしまう。しかし土地や水が占有され、里が作られ野生動物の活動範囲は狭められてきた。現在、国内の里山はそれらの農耕による独占が弱まり、野生動物と人間との活動範囲が重なりつつあることに思いを馳せる。
ユーラシアという大きなスケールで俯瞰する食による人類史考は、狩猟と食の議論においても役に立つ面白さである。


『山のお肉のフルコース パッソ・ア・パッソのジビエ料理』

有馬邦明/著
山と溪谷社 1,512円 ISBN:978-4-635-45018-8

イタリア料理のシェフ、有馬氏のレストラン「パッソ・ア・パッソ」のジビエ料理の紹介。
キジ、エゾシカ、アナグマのレバーペースト、マガモのロースト、ツキノワグマのアイスクリーム・・・。いつかは訪ねて食してみたいと思わずにいられない、国産の野生動物を食材にしたジビエの数々。
食材としての野生動物が生産者から料理人へとわたり、我々の口に入るまでの、プロフェッショナルな食材の流れに溜息が出る。
有馬氏は「野生の動物を丁寧に扱っている人たちの肉は良い」と言う。国産ジビエの質は人と産地で決まるとも。
お付き合いのある猟師から送られてくるジビエの素材の扱いの丁寧さを褒め讃える。料理人としてそれが味に直結することを知っていることに他ならない。
本来の猟師の腕の良さとは食までの気遣いであると気付かせてくれる。


『ジビエ教本 野生鳥獣の狩猟から精肉加工までの解説と調理技法』

依田誠志/著
誠文堂新光社 3,456円 ISBN:978-4-416-61623-9

フランス料理のシェフである著者依田氏のジビエの教本。
狩猟の解説から美しい写真とともにジビエのレシピが紹介され、解体から精肉加工の手順までも解説
依田氏はレストラン『LA CHASSE』を営む。「ラ シャッス」とはフランス語で「狩り」を意味する通りジビエ専門のレストランである。
しかも食材となる国内の野生鳥獣は依田氏自らが狩猟に出かけて仕留めてくる。
料理人としての顧客目線の狩猟は、単に食するという目的でなく、食事という娯楽への満足度やクオリティまでも追及するプロフェッショナルな哲学に溜息が出る。
本書は狩猟から食までが高次元で完結するものが「ジビエ」であると教えてくれる。


※ムック『狩猟生活 vol.1』地球丸(2017年2月)に掲載されたものです。
地球丸より 現在(2018年10月)VOL.4まで発売中



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