見出し画像

海外で日本人だとバレる。街中で新卒社会人だとわかる。

 街に繰り出すとそこには新卒入社のサラリーマンがいっぱいいた。べつに「あなたは新卒ですか?」と聞いてもいないのに、なぜそんな事が分かるのかというと、新卒社会人はなぜか一目瞭然でわかるオーラみたいなものがあるのだ。それはスーツの着こなしだろうか、髪型などから溢れる若さか、それともどこかフワフワした雰囲気だろうか。なぜか街に出てみると、「あぁ、あなたはぼくと同い年で働き始めたばかりの方ですね」とわかる。

 これと似たような現象は海外でも起こる。ほんとうになぜなのか理解に苦しむが、海外では日本人を見つけることが比較的に容易い。そしてぼく自身もすぐさま、日本人だよね、と言われてしまう。そしてそれがなんだか恥ずかしい。

 以前、台湾に行ったとき。ぼくはそれがほぼ初めての海外旅行だったから、ちょっくら自分の英語力を試してやろうと思って現地の人々に英語で話しかけることを積極的に試みた。「Where is the bus station?」。我ながらよどみなく言えた。それなのに現地のおばちゃんは、ぼくの試みをねじ伏せるかのように、あっさり「出口、出て、左」と日本語を使ってぼくの英語に返答してきた。それまでぼくは日本語を一言もそのおばちゃんに聞かせてもいないのに、おばちゃんは瞬時にぼくを日本人だと見ぬいてしまう。韓国人でも、モンゴル人でもなくて、ばっちりとぼくは日本人に見えるらしい。

 同じようなことはつい先日訪れたロサンゼルスでも起こった。ハリウッドのチャイニーズシアター前で、ぼくが往年のムービースターたちの星形に興奮しながらパシャパシャやっていると、一人の黒人がずけずけと話しかけてきた。

 彼は開口一番に言った。「Oh, You are Japanese?」。

 なんでわかるんだよ!ぼくはロサンゼルスというシティのなかで浮いているのだろうか、それとも田舎くさいのか。見事に言い当てられたことに腹が立って、違います、と言いたくなったが、すぐさま彼が「写真を撮ってくれ」と言うもんだから、その言葉は引っ込み、ぼくは手渡されたカメラで彼のことを撮ってあげた。

 「これが日本人の優しさだよ」。そんな想いで異文化交流の悦に浸っていると、その黒人が「おれラッパーなんだ、お礼にサインあげるよ。マイYouTubeも登録よろしくな!」と言ってきて、彼の顔がドでかく描かれたサイン入りプロマイドみたいなやつをくれた。正直いらなかったが、彼はスターの地・ハリウッドで夢を見ているのだろう。せっかくだから、応援の意を込めて受け取ってやろうじゃないかと思い、それを笑顔で受け取ってぼくは立ち去ろうとした。

 するとその瞬間、彼が形相を変えて言ってきた。「マニー」。

 そういうやつか!日本人の優しさに付けこみやがって。ましてや、ぼくは日本人だと自分から名乗ってもいないのに!ここでも日本人はカモなんだろう。先ほどまで抱いていた異文化交流の悦はすぐさま消え去って、ぼくは騙されたということよりも、日本人であるという確証を持たれて近づいてきたという事実に余計腹が立った。

 「じゃあ、いらねぇよ」。ぼくは両手を広げて、肩をすぼめるという、すっかりアメリカンな動きで呆れたことを表現し、そのプロマイドを突き返した。幸い、マニーは取られずにすんだが、人の気がないところだったら危なかったかもしれない。自分が日本人であることが、久々に嫌になる、そんな出来事だった。

 おそらく、街で見かけた新卒社会人に、ぼくが「あなた新卒社会人ですよね」と聞けば、彼らもムッとするんじゃないだろうか。少なくともぼくだったら嫌だ。自分の青臭さや、まだ大人になり切れていない感じを見透かされたような気がするから。「あなたロサンゼルスの人かと思ったわ」なんて言われてみたいように、「もうバリバリの社会人かと思ったよ」なんて風に言われたい。

 人には、どうしてもぬぐい切れないオーラというか、雰囲気があるのだろう。ぼくが海外で日本人だと気づかれたように、大量のサラリーマンがいる街中では、今日からその世界に飛び込んだような人間が放つ異なった雰囲気があるのだ。でも、きっと、それらもいつかはなくなっていく。海外はわからないけど、少なくとも日本の新卒社会人たちは、いつか街と同化していくだろう。夏頃になれば、街で新卒社会人を見つけることは難しくなるのかなあ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?