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【読書】外科室(泉鏡花・乙女の本棚)

 2024年3月3日(日)、泉鏡花の短編小説『外科室』を読み終えました。記録を残します。

■「乙女の本棚」シリーズ

 フォローさせて頂いている「G-darkさん」が紹介している本の中に、「乙女の本棚」というシリーズがあり、少し前から気になっていました。

 「乙女の本棚」は、明治以降の短編小説にイラストを交えて、絵本にしている作品群のようです。帯に「小説としても画集としても魅惑の1冊」とあります。
 シリーズに名のある作家を挙げると、太宰治、江戸川乱歩、芥川龍之介、泉鏡花、小川未明、坂口安吾、谷崎潤一郎、横光利一、梶井基次郎、等々。ミステリアスで幻想的な作風の作家たちと言えましょうか。

 購入して自分の本棚に並べてみたい気もしますが、既刊が40冊弱で、1冊2000円程度することから、取り敢えず断念し、図書館で借りることにしました。

■泉鏡花の『外科室』

 先日、「G-darkさん」の記事で、泉鏡花の『外科室』が取り上げられていたこと(↓)、そして、同書を学生時代の友人から薦められていたことから、今回手に取った次第です。
 因みに、同書の絵は、イラストレーターのホノジロトヲジさんでした。

■あらすじと感想

(1)あらすじ

貴船伯爵夫人は、うわごとで秘めた思いを吐露することを恐れ、手術の麻酔を拒む。執刀医・高峰と彼女の間にある秘密とは。

Amazon・青空文庫のHPより 

(2)感想①:男性の視点

 私は自分が男性だからか、高峰や友人の画家の視点が印象に残りました。冒頭を引用します。

 実は好奇心のゆえに、しかれども予は予が画師えしたるを利器として、ともかくも口実を設けつつ、予と兄弟もただならざる医学士高峰たかみねをしいて、それの日東京府下のある病院において、かれとうを下すべき、貴船きふね伯爵夫人の手術をば予をして見せしむることを余儀なくしたり。

泉鏡花『外科室』より

 高峰の友人の視点で物語は進んでいきますが、この「好奇心」「利器として」といった部分や、「見せしむる」「余儀なくする」といった部分を読んで、私は、悪趣味な友人のようにも思えました。男同士の友人関係とはこういう部分もあるのでしょう。他方で、その分、医学士高峰の純粋さや生真面目さが際立つような気がしました。

 次に、高峰医師についての描写を引用します。

 ときに予と相目あいもくして、唇辺に微笑を浮かべたる医学士は、両手を組みてややあおむけに椅子いすにれり。今にはじめぬことながら、殆どわが国の上流社会全体の喜憂に関すべき、この大いなる責任を荷になえる身の、あたかも晩餐ばんさんむしろに望みたるごとく、平然として冷かなること、おそらくかれの如きはまれなるべし。

泉鏡花『外科室』より

「宜しい。」
 と一言ひとこと答へたる医学士の声は、このとき少しくふるいを帯びてぞ予が耳には達したる。その顔色は如何いかにしけん、にわかに少しく変りたり。
 さては如何なる医学士も、驚破すわといふ場合に望みては、さすがに懸念のなからむやと、予は同情を表したりき。

泉鏡花『外科室』より

先刻さきよりとの身動きだもせで、死灰の如く、見えたる高峰、軽く身を起こして椅子を離れ、
「看護婦、メスを。」

泉鏡花『外科室』より

 医学士は取るとそのまま、靴音軽く歩を移してと手術台に近接せり。

泉鏡花『外科室』より

 医学士はちょっと手を挙げて、軽く押留め、
「なに、それにも及ぶまい」
 いふ時はやくその手は既に病者の胸をかきけたり。夫人は両手を肩に組みて身動きだもせず。
 かかりしとき医学士は、誓ふが如く、深重厳粛たる音調もて、
「夫人、責任を負つて手術します。」
 時に高峰の風采は一種神聖にして犯すべからざる異様のものにてありしなり。

泉鏡花『外科室』より

 手術前、手術中の高峰の医師としての行動に、(自分のボキャブラリーの貧困さを感じつつも)「格好良さ」を感じました。
 ネタバレになるので伏せますが、この後の行動にもつながっているようで、潔さや明治の男性についても考えさせられました。

(3)感想②:文章の美しさ

 その声、その呼吸いき、その姿、その声、その呼吸、その姿。伯爵夫人は嬉しげに、いとあどけなき微笑えみを含みて高峰の手より手をはなし、ばったり、枕に伏すとぞ見えし、唇の色変わりたり。
 その時の二人がさま、あたかも二人の身辺には、天なく、地なく、社会なく、全く人なきが如くなりし。

泉鏡花『外科室』より

 上記のように、文章のリズム感があり、他の文章でも一文が長い中に美しさを感じる部分が多々ありました。江戸時代からの繋がりも感じます。
 また、泉鏡花の美についての考え(美意識)を感じる部分があり、考えさせられました。

高峰はさも感じたる面色おももちにて、
「ああ、真の美の人を動かすことあの通りさ、君はお手のものだ、勉強し給へ。」
 予は画師たるがゆえに動かされぬ。

泉鏡花『外科室』より

(4)余談:坂東玉三郎さん

 私は、伯爵夫人の台詞や行動を追いつつ、「これは、坂東玉三郎さんで舞台化されたりしているかも!?」と思ったりしました。
 インターネットで検索すると、映画化されており、坂東玉三郎さんが監督、吉永小百合さんが主演のようでした。少し意外でした。

■最後に

 今回、かなり引用が多くなりましたが、この辺りで終わりにしようと思います。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
 また、「乙女の本棚」シリーズの他の作品も読んでみたいと思います。

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