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【Netflix】「レベル・リッジ」専守防衛で知的なハードアクション 面白いアイデア!

【概要】

レベル・リッジ

Rebel Ridge

2024 | 年齢制限:16+ | 2時間 11分 | サスペンス

元海兵隊員の男は、従兄弟を保釈するために準備した現金の入った袋を警察に不当に押収されてしまう。小さな町にはびこる腐敗に立ち向かう男の運命はいかに。

出演:アーロン・ピエール、ドン・ジョンソン、アナソフィア・ロブ

(Netflix公式サイトより)

予告編


【評価】


9月6日に世界公開されたNetflixの新作映画。

元海兵隊員が、一人で腐敗した警察と戦う。

という、初代「ランボー」みたいな話だけど(アメリカでは「黒人版ジャック・リーチャー」とか言われている)、この映画は、基本にある考え方が面白い。

なるべくアクションを見せないアクション映画、という逆転の発想。

2時間超えの映画だが、アクション映画の定型を破る意外な展開で緊張が続くので、飽きさせない。

なるべく殺傷能力の低い武器を使い、なるべく撃たない、殺さない、という「自衛」に徹した主人公のルールで、どこまでアクション映画が可能か、みたいな実験作みたいな。

知的な新しいアクションのスタイルとして、アメリカでも好評のようだ。

日本でも、昨日はNetflix「映画」部門の人気ナンバーワンになっていた。

わたしの採点は100点満点で75点。


「自衛」に徹する、というのは、主人公の哲学でもあるけど、この映画では、警察も同じようなルールで動く。

両者に共通するのは、「なるべく違法にならないようにする」という配慮ですね。

つまり、暴力は振るうけど、「犯罪」にはならないよう気をつける。


暴力は必ずしも「罪」ではない。犯罪になるのは、法に触れる場合だけーーというか裁判で負ける場合だけだから、そうならないように暴力を振るえば、犯罪ではない。

これも逆転の発想ですね。


この映画に出てくる警察は、非常に暴力的だけど、一方では、「違法捜査」と言われないように、メチャクチャ気をつけている。

違法捜査で訴えられるくらいなら、市民にお金をあげて買収しちゃう、というくらい。

この映画での警察の「腐敗」は、映画でよく出てくる、警察官が私腹をこやしている、というのとはちょっとちがう。

(ネットでのこの映画のレビューを見ると、警察官が私腹をこやすために主人公の金を押収したと誤解している人がいた)

それ以上言うとネタバレになるけど、とにかく、主人公も、警察も、異様に「合法性」に気をつかう。


つまり、

反ランボー VS  反ダーティーハリー

みたいな戦いになっている。言ってることわかる?

合法性を気にかけるランボー VS  合法性を気にかけるダーティーハリー

になっている。

合法性を気にかけたら、もうランボーでもダーティーハリーでもなくなる、という・・


その結果、どうなるかというと、ドライブレコーダー(dashcam)の争奪戦になる。

カネや人質の奪い合いではなく、ドライブレコーダーの奪い合いになる。

なぜなら、暴力場面を記録したドラレコの証拠能力が、違法か合法かを分けるから。

面白い!

こういう発想のアクション映画は、これまでなかったと思う。


ただ、そういう映画だから、暴力合戦というより、法解釈合戦みたいになっている。

アメリカみたいな訴訟社会だと、みんな日頃から裁判で勝てるように行動するようになるんでしょうね。

その行き着く先が、こういう映画になる。

日常が、喧嘩ですら、もうすでに「裁判」になっている。

この映画も、形を変えた「法廷映画」と言えなくもない。


だから、この映画、アメリカの法律や警察の仕組みに詳しくないと、楽しめない部分があるかもしれない。

わたしも、全部理解した自信がないのだ。


たとえば冒頭、主人公は、警察に持ち金を没収されてしまう。

日本人の目からは明らかに不当だけど、アメリカでは必ずしもそうではない。

アメリカでは、「犯罪に関係しているかも」という疑いだけで、市民の資産を没収できる。

「民事没収 civil forfeiture」というやつで。この映画の観客は、それは正当か、という法律論議に、いきなり巻き込まれるんですね。


アメリカの多くの州では、正式な起訴が行われていない市民から警察が資産を没収することが可能であり、過去20年間で688億ドル(約7兆1000億円)もの市民資産が警察に没収された

市民の資産を「犯罪に関連した疑い」だけで没収することを禁じる法案がアメリカで提出される
(GIGAZINE 2020・12・21)


この「民事没収」制度は、「麻薬戦争」の副産物のようなものらしい。

「レベル・リッジ」は、まったくのフィクションだけど、この映画の脚本・監督のジェレミー・ソルニエは、「民事没収」制度への疑問から、このストーリーを発想したようです。


あと、軽犯罪の勾留と証拠の保管期間とか、一般のポリス(市や郡の警察)と州警察のちがいとか、日本にはない、あるいはあまり問題にならない設定が背景にあって、わかりにくい。


でも、細かいこと気にしなければーー気にしなくてもーー十分に楽しめる映画です。


*なお、タイトルの「レベル・リッジ(反乱軍の尾根)」とは、主人公と警察の決闘場所として選ばれるーーおそらく架空のーー南北戦争時代の砦の跡、という解釈でいいと思う。「レベル(反乱軍、反逆者)」が映画の内容を示唆している。



<参考>


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