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「きみは地球だ デヴィッド・スズキ博士の環境科学入門」 ハイダ民族とレッド・シダー


カナダで1番有名な日本人をご存知だろうか。

知り合いからふと、この本、おもしろいよ、と手渡された。「君は地球だ デヴィッド・スズキ博士の環境科学入門」だ。

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前から自分のnoteの話をしていたので、参考になれば、と持ってきてくれた。
喜んで借りた。子ども向けの科学入門編、といった感じだろうか。とても丁寧に分かりやすく書いてある。

David Suzuki デヴィッド・スズキ財団共同設立者、生物学者、ブロードキャスター、環境運動家、自然エネルギー財団理事
カナダCBCテレビの「ネイチャー・オブ・シングス(The Nature of Things)」シリーズのホストを長年務める。1990年にNPO法人デヴィッド・スズキ財団を設立。カナダ勲章、ユネスコ・カリンガ科学普及賞、UNEPメダル、グローバル賞などを受賞。20以上の名誉学位を持つ。2004年には国民投票で「生存する最も偉大なカナダ人」に選ばれる。

「きみは地球だ」は彼の著書『生命の聖なるバランスー地球と人間の新しい絆のために』を元に特に未来の子どもたちのために、児童書作家として知られているキャシー・ヴァンダーリンデンの協力を得て書き直されたものである。彼は科学者であり、環境運動家でもあるが、子どもたちが進む、科学への第一歩として本書は書かれた。

中でも、カナダにあるハイダ・グワイ島(旧名:クイーンシャーロット島)の先住民であるハイダ民族の話が印象的だった。

ハイダは人々を意味し、グワイは島で、ハイダ語で人々の島、という。そこは人が近付くことができない海に守られた小さな国のようだ。そうしてそこでは独自の文化や社会組織が生まれた。豊富な天然資源(海洋生物、魚、木材)に恵まれ、時には他の部族との争いもあったが、一般的には平和な生活を営んでいた。先住民の居住地域としては唯一飢えを知らない地域として知られている。生活のゆとりはさらに高度な文化や政治を生み出した。

ハイダで有名なものがトーテムポールだ。お墓として、または家紋として、そして祭や記念にトーテムポールが作られた。今ではユネスコ世界文化遺産に指定されている。

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全てのトーテムポールには動物と人間が刻まれ、彼らはそれぞれの家系の始まりは動物が化身したものと信じられ、クマ、オオカミ、クジラ、サケ、ハクトウワシ、カエル、シャチ、といった生き物は今日でもハイダ族の社会を構成する母体となっている。

ハイダ族の世界観では、動物と人間の境目が曖昧で、動物はしばしば人間に変身し、人間は時に動物に化身した。そして動物は種類ごとにそれぞれ、人間と同じような社会生活を営んでいると考えられた。

何千年もの間、ハイダ・グワイの森は人々に家や食べ物など豊かな恵みをもたらしてきた。しかし、島外から来た木材会社の人々にとっては、森の木は材木として高額で売れる資源だった。そうして木材を求めて木を切る木材会社とそれを守ろうとするハイダ族との間で長く争いがあった。

デヴィッド博士は現地に住むグジャウという名の芸術家にこう尋ねた。

「ハイダ民族にも木材会社の仕事に就いている人が多い。木材業はハイダの人々にお金をもたらし、その生活を助けているのではないか。それなのにーなぜ木を切ることに反対するのでしょうか?」と。

そうするとグジャウは答えた。

「森の木が全て切られても、私たちハイダは生きているかもしれない。でも、その時にはもう、私たちは他の誰でも同じ、ただの人間になってしまうだろう。」

デヴィッド博士は長い間、この言葉について考えた。

ハイダの人々にとって木はただの風景の中の一部分なのではなく、人間というものを創っている一つの大事な要素であると。

ハイダ・グワイは太古の昔からハイダの人々が暮らしてきた『家』である。

彼らと共にそこで生きてきたサケやレッド・シダー(米杉)、そして海や山や空の全てがハイダ民族を創ってきた。

森の木々をはじめとしたハイダ・グワイの全てのものがハイダを他の誰とも違う特別な存在にしている。

それらの木々を切ってしまうことで、人々はもうハイダという特別な存在ではなく、他の誰とも同じになってしまう、ということか。デヴィッド博士はこのグジャウの言葉で世界観が変わったと言う。

その後、デヴィッド博士はいろんな先住民と出会った。彼らは一様にこういったそうだ。

「私たちはこの土地とつながっている。」

そしてこうとも言った。

「大地は、私たちのお母さん」

地球と私たちは別々に切り離されているのではない、ということ。

「私たち自身が地球なんだ」

と彼は気づいた。そして科学者である彼の活動はやがて世界的な環境運動家となる。

普段、毎日の生活に追われて自然と触れ合うことはなかなか難しい。
緊急事態宣言のため、自宅でいることも多くなり、それはより一層難しくなったけれど、心の中は段々と地球を感じるようになったような気もする。
地球と私は同じ。地球に生まれて地球で死んでいく。自然の一部になっている、そんなことを改めて考えた。

つづく


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