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「私どもはもう少し数理的の頭脳がほしい」

 家計簿をつけていると良いことの一つに、「数字が頭に入る」があります。たとえば光熱費。家計簿に毎月、電気やガスの使用量と料金を記帳していると、わが家の使用量はどれくらいで、どの月が一番多くて、どの月は少なくて済むのかが頭に入ります。節電・節ガスをしたいと思い立ったときに月々の光熱費を知っていてこそ、工夫する知恵も生まれてくるというものです。
 今回は、羽仁もと子著作集『家事家計篇』より「第九章 買いものについて」の一部を紹介します。

家政の統計

 私どもはとかく数理思想にとぼしいところから、わが家の生活に毎月なにほどの費用がいるということだけは分かっていても、米は平均何ほど、ガス電気その他の燃料は何ほど、味噌、醤油、砂糖、かつおぶしは何ほどというようなことまで、明瞭に分かっている方は少ないでしょう。衣服住居にいたっては、なおさらだと思います。

 まず何よりも目下の入用いりよう(必要な量)からして分かっていかなければ、どこをどう改良しようかということも分かりようはずはありません。私どもはもう少し数理的の頭脳あたまがほしいと思います。

 もしまた知り合っている二人または三人の主婦が申し合わせて、いろいろの統計をとってみたら、たいてい同じくらいの生活程度であるのに、自分の家では格別に燃料をつかいすぎているとか、また少ししかいっていないのは、平生こういうところに注意するためだろうとかいうことがわかり、家政をとる上に実に大きな利益があろうと思います。

 私の『家計簿』をお使いになっている方は、すでにひとりでに、各費目――すなわち交際のために何なにほど、衣服のために何ほどということ、米何ほど、味噌何ほどというだけのしらべは、月々の終わりおよび一年の終わりに『家計簿』の上に出てくるのですから、注意してその知識を活用していただきたいと思います。

 なお、このつけたりとして(付け加えるとしての意味)、手紙の来た数、出した数、客の来た数などを、子供たちにでもしらべさせたら、子供の統計的の考えを養うためにもなり、かつ楽しみにもなりました。

羽仁もと子著作集 第九巻『家事家計篇』第9章「買いものについて」より

 最近は政府が促進しているペーパーレス化の影響で、以前は郵便ポストに届くのが当たり前だった電気やガスの明細書が廃止されて、明細をWEB上で見る形になってきています。WEB明細はグラフまで見られて便利ですが、「家計簿に記帳(入力)する」というひと手間があればこそ、私たちの脳に数字を意識させ、数の変化に対するアンテナも冴えるというものです。

 家計簿ユーザーから「明細が届かないから電気とガスの使用量が家計簿に書けなくなった」と聞くことがあります。長年続けていた記帳習慣がペーパーレス化で途絶えてしまうほど残念なことはありません。手続きをするとLINEやメールで明細を知らせてくれる会社もあるので、契約会社のWEB明細の見方を今一度、調べてみるとよいかもしれません。

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