見出し画像

ドキュメンタリー「乳牛たちのインティファーダ」をオンラインでみんな一緒に観て、見えたこと

こんばんは。先日期間限定で配信されていた超貴重な映画「乳牛たちのインティファーダ」のオンライン同時鑑賞会と感想のシェア会を行いました。あらすじはこんな感じ↓

パレスチナの小さな町で飼われていた18頭の牛たちが、「イスラエルの国の安全を脅かす」として指名手配になった!?1987年に始まった民衆の占領抵抗運動、第一次インティファーダを、アニメーション仕立てで振り返る異色のドキュメンタリー。観終えるころにはあなたのなかの「パレスチナ」の印象が変わっているのでは。

以前にコロナの今おすすめのパレスチナ映画として記事も書いています。それくらい好きで心に刺さる作品。以下、鑑賞後の質疑や意見交換を掲載します。修正補足、個別で受け取った感想も付け足しています(5月5日2度目の感想シェア会後加筆)。

ズームに集まってこられたのは総勢13名(両日併せて)。

Qそもそもインティファーダってなに?

インティファーダは、パレスチナで初めてごく普通の人たちが決起して、占領されていることに反対しようと起こした非暴力の運動です。パレスチナの子供が武装したイスラエル占領軍に向かって石を投げている写真が世界に拡散したあの運動のことです。1987年に始まって1993年まで続きました。

Q(主人公の)牛たちはイスラエルの農場から買ってきていた。当時そういうことは可能だったの?

正確にはわからないですが、イスラエルのトップが考えることと一市民の農場主が考えることは違う訳で、経済的に利益があるなら売ることもあったのではないでしょうか。※この乳牛たちを買ってくるまで、パレスチナでは牛乳はすべてイスラエルのメーカーのものを購入していました。でも、経済的に占領国への依存を強いられているじゃないかと、自給自足に舵を切った先駆例がこの乳牛でした。

Q映画の中で、ある日道を掃除していた医者が軍に呼び出しを受け、仲間らとともに毎日出頭させられていた。なぜか。

イスラエル軍は、医者が掃除をするなんてなにかの兆候に違いないと踏みました。そのため、その戦意をそぐために、また男手の労働力を断って一家の収入を不安定にさせるために毎日呼びつけていたんです。こうした理由なき拘留は今も行われていて、「行政拘禁」として国の法律上合法な行為とされています。

Q呼びつけられた人たちは工夫を働かせて、新聞や食べ物、バックギャモンを持ち込み楽しんでやり過ごした。こうしたことは今でも可能なのか。

残念ながら分かりません。パレスチナの人に聞き、分かり次第お伝えしたいと思います。ただ、私がパレスチナで持った肌感覚では難しいように感じます。

Q映画のなかの時代(80‐90年代)ではパレスチナ人には自立・自助的なコミュニティが根付いていたが、それが大きなインティファーダが終わってしまってからはどうなったのか。

今コミュニティベースで活動する団体や個人、また占領からの自由を求めて動いているところもありますが、こうしたコミュニティを分断しようとするイスラエルの力の方が優っている印象です。例えば、町と町を行き来する道がイスラエル人専用道路で分断されています。町のなかに入植地というユダヤ人が住むエリアを作り、そこでも分断を図っています。また、オスロ合意のあと国家安全保障のためという理由で建設が始まった分離壁(アパルトヘイトウォール)はパレスチナの村内部に食い込み、村にあったコミュニティをも分断しています。

Qオスロ合意ってなにが起こったの?なぜオスロ合意が結ばれた後、映画では急に暴力的なシーンになったの?

1993年、インティファーダが続いていたパレスチナとイスラエルの間をアメリカが取り持って、平和に向けた指針が定められました。でもそれは有名無実なものでした。取り決め自体がかなりイスラエルの主張に偏っていただけではなく、決められたことさえ守らず、パレスチナ自治区とされるところに検問と兵士を設置し移動を制限したり、入植地の建設を続けたり、パレスチナ側の要人を国外追放したりしていたんです。映画の中でそれがどこまで民衆に知れ渡っていたかは描かれていませんが、「私たちがインティファーダで望んだものはこんな結末ではなかった」と町のリーダーたちは最後の抵抗運動に打って出ることを決意したのです。結果、イスラエル軍は銃で応戦し、町に死者を出すことになりました。そもそもオスロ合意は、外国にいた指導者が西側と交渉して決めてきたこと。草の根でコミュニティを築き上げ、乳牛の飼育をはじめとしたイスラエルに頼らない暮らし方や教育の充実、外出禁止令下での結束の維持などに努めてきた地域のリーダーたちにとっては、本当の自由を掴むはずの運動を良いところで止められてしまったものなのです。その後パレスチナはどうなったのか。2000年代のドキュメンタリーもオンラインで見ることが可能です。今度こちらの上映会もしたいと思っています。(5つの壊されたカメラ"5 Broken Cameras" on Vimeo)

Qアラファト議長はどういう存在だった?

正確には私はわかりませんし、映画では描かれていません。アラファト議長はオスロ合意の立役者でパレスチナ自治政府の初代リーダーですが長らく亡命生活を送っていた人物です。偉大だったという人もいれば、判断能力を失っていたと考える人もいます。これもパレスチナ人に尋ねてみるべきですね。

Q大国は何をしているの?イギリスは?

パレスチナ問題をはじめとする中東の問題は19-20世紀の大国の帝国主義や自国の利益優先で事をはかってきたことにも由来します。イギリスはなかでも1918年にバルフォア宣言を出してパレスチナにもっとユダヤ人移民してきていいよというお触れを出して火種を生んだ国ですが、その100周年を記念して「当宣言がイスラエルの建国に果たした先駆的な役割を誇りに思う」という声明を出しています。嘘だと救われるのですが、朝日新聞デジタルに掲載の記事でしたから本当でしょうね。ちなみに、ヨーロッパの国々は第二次世界大戦でのユダヤ人迫害の歴史を背負っているため、不用意にこの問題に関しての発言が出来ません。政治家、また特にドイツでは個人でもそうだといえます。パレスチナ寄りの発言や政策をすれば「ユダヤ人差別」「ユダヤ人アンチ」と叩かれるのが実情。イスラエルが国として人道に背く行為をしていても、それがあるが故に口に出せない面があります。でもここでは「ユダヤ人」と「イスラエル国家の行為」が完全に混同されて、議論が極端になっていますよね。本当はそんな話じゃないんですけど、その型に嵌まってしまうんです。

Qパレスチナの経済は今はどれほど自由なの?

乳牛のことでいえば今でも大きな農場を持つことは許されていませんし、飼料をイスラエルに管理されるなど制約があります。国連でも占領によるパレスチナ経済への影響は見過ごせないという報告書が出ていて、イスラエルがパレスチナへの物の出入りを管理下に置いて貿易を掌握し、税金なども追加徴収していることを指摘しています。

Aさん

パレスチナの芸術センスの高さに驚いた。パレスチナ音楽が好きでよく聴いているが映画もこんなに趣向が凝らされているとは。

Bさん

映画の中のイスラエルの手法をみていて、ナチスの対ユダヤ人政策がいかに巧妙に、そしてじわじわと包囲網をかため、気づいた時には手遅れだったかの過程を記録したドイツ、ミュンヘンの博物館を思い出した。ルールによって、段階を追うごとにあれよと人権がはく奪されていく。その怖さを感じた。考えたくないが、もしかしたら、イスラエルのやり方にはその影響があるのかもしれない。

Cさん

牛乳など生活必需品をパレスチナで生産できないようにして相手の経済を破壊しつつ依存を強いていたり、家から出られないようにして交流を断ち刑務所にいるかのような状態にしていたり…イスラエルの戦略が本当に徹底していると同時に、パレスチナの存在を本当に恐れているのだと感じた。また道を掃除していただけでインティファーダの呼びかけなどイスラエル側にとって何か悪いことが起こる予兆と受け止められて軍に呼び出されるシーンもあって、イスラエルが本当にパレスチナ人のふとした日常生活をも自国への脅威となるかもしれないという感覚を持っていると感じた。 イスラエルの圧力がある中でもコミュニティを築き上げていたり、外出禁止令のなか同じ音楽を聞いたりしているパレスチナの人達のたくましい姿も印象的だった。

Dさん

パレスチナ問題はある程度基礎知識があったが、映画を通して描写としてすごく自分の中に入ってきて、何が起こっているのかがよくわかった。同じ人間。私たちは平等であるべきなのに、どうしてこうなる?政治の事情はあるかもしれないが、人道の観点から見たら、こんなのはおかしいでしょう?(トルコ人なので筆者和訳)

他にも日本と比較してこの時のパレスチナの人の政治意識がいかに高いかを指摘した方もいました。

一年前に観て深く感動した映画が、今度は別の人を感動させる。参加してくださった皆様に感謝するとともに、より多くの人にこの映画が届くことを願っています。

補足:2回目でヨルダン在住のパレスチナの方が参加してくれました。以下コメントです。

この映画は知らなかったし初めて見たが中身も良く気に入った。インティファーダのことは勉強するが乳牛を育てるアイデアはユニーク。今ヨルダンではイスラエルとの間でガスの協定を結ばせようとするアメリカの圧力があり、政治家は成立させまいと必死になっている。ほんの3か月前には市民も声を上げてハッシュタグをつけてフェイスブックで発信し、自分たちの意思を示した。インティファーダから今までも、人々の抵抗は続いている。でも一方でヨルダンでは、今年イスラエルを擁護するようなテレビドラマが作られて物議を醸したりもしている。

この映画および週替わりでパレスチナの映画を配信しているのは、こちらのサイト→https://www.palestinefilminstitute.org/en/pfp/

------------------------------------------------------------------------------------
アカウント登録なしでもスキできます!よろしくお願いします!
架け箸Facebook https://www.facebook.com/kakehashi.notwall/
Instagram(作成中)https://www.instagram.com/kakehashi0212/
--------------------------------------------------------------------------------------






この記事が参加している募集

私のイチオシ

架け箸はこれからも継続的にパレスチナを訪れ、日本に出回らない生の情報を発信したいと思っています。いただいたサポートは渡航費用や現地経費に当てさせていただきます。