生成AIサービスのUXデザインにおけるベストプラクティス | 豊富な実例付き
国内でも生成AIを使ったプロダクトづくりに取り組む企業は増えていますが、ユーザー体験の正解はまだほとんど体系化されていません。
そのため、サービスの実例を掲載しながら「生成AIサービスにおけるUXデザインのベストプラクティス」についてまとめました。
何でもかんでもチャットUIにしない
Webサイトノーコード制作サービス「Wix」のAI機能は、テキストや画像など編集したい箇所をクリックした際にAI機能のボタンが出現する。
このように、制作系のサービスにおいて生成AI機能を提供する際には、むやみにチャットUIにせず、対象箇所に紐づいてAIをアシスタント的に呼び出せるようにするのがポイントだ。
Wixの生成AI機能のUXには以下のようなポイントも押さえられており、非常に参考になる。
ユーザーにプロンプトエンジニアリング力を求めない。UIのインプットフィールド側で必要な情報を過不足なく吸い上げられるようにする。
(特にToB的なサービスにおいては) 単一の選択肢を提示するのではなく、複数の選択肢を提示してユーザーに最終選ばせる。
あくまで生成AI機能はタスク遂行のための機能の一部として提示する (生成AI機能1本足では話題は生むが実用制に欠ける)
UIすら自動生成して提示する
AIライティングツールのJasperに搭載されている「Dynamic Template機能」は生成AIサービスのこれからのUXを考える上で非常に参考になる。
「Dynamic Template機能」を使うと、契約書やProduct Roadmapの作成などAIにやって欲しいことを入力すると、自動で入力欄自体が生成されて、そこに情報を埋めてくとかなり精度の高い文書が生成される。
GPTに聞けば、プロジェクトロードマップや契約書などを生成してもらうためにどのような項目が必要なのか教えてくれるので、その項目の中から特に重要性の高い項目を入力欄としてUIに反映してユーザーに提示することでこのインターフェスは実現できる。
Discordで高速にインターフェイスを用意する
動きの早い生成AI領域において、生成AI機能を有したサービスを高速で公開したい場合は、インターフェイスをDiscord (Slack的なチャットサービス)にしてしまい、インターフェイス開発の工数を大きく削減するのも手だ。
実際に画像生成AIとして世界で広く使われている「Midjourney」のインターフェイスはDiscordだ。
Discord上のメッセージボックスに打ち込んだ文章が画像生成のためのプロンプトとなり、生成された画像に紐づくボタンや、特定の絵文字をリアクションとして押すことで様々な機能を最小の実装で実現している。
実際に私がいま顧問している先で新規につくっているサービスもDiscordをUIとして利用してスピーディーに開発を進めています。
データセキュリティはしつこいくらいユーザーに保障する
現時点で企業が生成AIサービスを導入する際に最も気にするポイントが「自社データが外部に漏れてしまわないか」だ。
現在はChatGPTをオプトアウトせずに使うなどしない限り、企業向けのGPTサービスでデータセキュリティの問題があるようなものの方が少ないが、特に大企業はそうしたデータセキュリティの問題に敏感なため、入力した内容がきちんと保護されていることをくどいくらい保障するというのも手だ。
Microsoftが先日発表した企業向けのChatGPT「Bing Chat Enterprise」では、以下動画の00:53あたりを見てもらうと毎回の回答でくどいくらいデータが保護されていることを保証するダイアログが表示されている。
一気に最終形を生成するのではなく、途中過程でユーザーが期待する方向性を聞く
ChatGPTで何かアウトプットを作らせる際に、プロセスのいくつかのステップに区切ってその度に微調整をしながら進めると最終的に理想とのズレが小さいアウトプットが手に入りやすい。
それと同じように、AIが成果物を生成する中で、途中段階でユーザーの希望する方向性をヒアリングして最終的なアウトプットを作るようにするというUXも有効だ。
リサーチAIツールの「Perplexity.ai」では、テキストボックスに知りたいことを入力すると瞬時に関連する30記事ほどを読み込んだ上で、ユーザーが特に気になる情報を問うチェックボックスを提示してくれ、そのチェックボックスに回答することでユーザーの興味関心とのズレの少ない回答を手に入れることができる。
また、プレゼンテーション生成AIサービスの「Tome」では、「◯◯についてのプレゼンテーションをつくって」と指示すると、一度下図のようにタイトルと章立てという粒度で生成してくれて、その段階で編集や並び替えをすることでユーザーの理想形に近いアウトプットを生成することができる。
こうしたインターフェースの開発まで手が回らない場合は、同じくプレゼンテーション生成AIサービスの「Gamma」のように、ユーザーのインプットエリアに構成の箇条書きを自動挿入してあげて、それをユーザーに編集してもらう、という手もある。
入力例を提示してWOW体験を確実に届ける
多くの人にとっては生成AIでどこまでのことができるのかイメージが湧きづらい。
そのため、サービスを利用するためのメインページにおいて、どういったことができるのかを提示するための入力プロンプト例をいくつか提示しておくことが重要だ。
さらには、その入力例をクリックすると実際にその入力例に対する回答が生成されるような体験が望ましい。それによってユーザーはまだ使い方に習熟する前から、AIが高度な回答を返してくるWOWな体験をすることができ、アクティベートされやすくなる。
インプットフィールドが複雑なサービスにおいては上記のような入力例を提示する形は難しい。
その場合は、下図のWebサイトやモバイルアプリなどのUIデザインをAIで生成できるUizardのように「Try example」などのボタンを用意して一発で生成のために必要な要素が埋められるようにして、とりあえず生成のWOW体験を届けるというのも手だ。
テンプレートは、とりあえず何でも入力できるルートとセットで提供する
生成AIサービスにおいて、テンプレート機能は有効だが、それだけでは柔軟性に欠ける。
また、テンプレートを探す手間がハードルになってユーザーが離脱する可能性もある。
そのため、以下のCohesiveのようにとりあえず何でも入れてみることができるボックスを用意しておくことが有効だ。
ユーザーにAI Botの回答を評価する手段を提供する
大規模言語モデルによるAI Botとの対話体験をユーザーに提供するにあたって、生成された回答がユーザーの期待する回答になる確率は残念ながら100%ではない。
そのため生成された回答がユーザーを満足させた比率をKPIとして計測し、その比率を高められるようにプロンプトや参照データを調整することが重要だ。
チャットボットをGPTで自動化するAdaやCommandbarのようなサービスは、AIの各回答が役に立ったかどうかをユーザーが評価できるようになっており、これによりサービス提供側は改善のヒントを得ることができる。
まとめ
以上、ざっと現時点でぱっと思いつく重要なポイントをまとめてみました。
本noteは生成AIサービスのUXデザイン理論におけるver0.1的な位置づけで、今後もっと色々なサービスを分析しながら考えを深めていこうと思います。
さいごに
生成AI領域を自社事業に活用したい企業の顧問・コンサルティングの仕事をお受けしております。ご興味がある企業の方はお気軽に会社サイトのフォームやTwitterなどでご連絡頂けますと幸いです。
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