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建築レポ~アテネフランセ~

 建築学生が建築を見に行ってごちゃごちゃ感想を述べる記事です。読み辛い箇所もあると思いますが、最後まで読んでくれると私の課題のやる気が出るかもしれません。

 この前必要に迫られて建築模型の材料を買いに、そしてついでに近くの建築を見に行こうと御茶ノ水にあるレモン画翠へ行った。同じ画材屋である世界堂などの大きい店舗と比べると店自体の規模はこじんまりとしているものの、建築模型に特化しているレモン画翠はそれはもう楽しい場所で、だけどそれについて書くとこの記事の何が主題なのか分からなくなってしまうからそれはまた別に書こうと思う。

 さて、お目当ての品を何枚かのお札と引き換えに手に入れた私は次の目的地へと足を向けた。吉阪隆正設計のアテネフランセである。現在も現役でフランス語を学ぶ学校として使われている。ここで吉阪隆正とル・コルビュジエの関係を想起してしまうのは、きっと私だけではなくほとんどの建築学生や建築好きもだろう。

 レモン画翠を右に出て駅前の交差点を直進して数分歩くと、アテネフランセにたどり着くことができる。御茶ノ水駅から向かうとまず最初に建物の隙間からチラッと見え始めることになるが、外観を全く知らない人でも素通りしてしまうことはない。その理由がこれだ。

隙間から異色を放っているアテネフランセ

 黒と白の同じような建物たちの中に何やら可愛い建物があるではないか。ル・コルビュジエの代表的な日本人の弟子で、有名な昔の建築家吉阪隆正。その程度の印象しか持っていなかった私には、これはかなり衝撃的だった。高く評価されていたり有名な建築家の設計した建物なんて、大体壁が真っ白でガラスの張りの面積が異常なほど多いとか、コンクリートで覆われた重厚な印象をもつものとか、それか奇を衒ったファサードのものがほとんどだ。これには共感してくれる人が結構いるのではなかろうか。(実際吉阪隆正設計の大学セミナーハウスは最初見るとびっくりするような見た目をしている)

 とにかく、アテネフランセはそういう私の偏見を見事に裏切った。雨の日ということもあってなんとなくどんよりとしていた通りに、ピンク色や紫色に塗装された建物が佇んでいた。その姿はさながら裕福な家の少女が派手な格好をして学校の中で浮いているのに不服そうにしているようだった。(何を言っているのか俺も分からない) そしてピンクの壁にはこれまた可愛らしいアルファベットを模した図形が彫られている。これについてはまた後述する。


全体


 なんだ名建築といっても、こんなものがあるのか。名建築家でも可愛く設計することがあるんだ。素直にそう思った。これは本当にひどい偏見だけれど吉阪隆正という名前からもなんとなく古風な印象を受けるし(謝れ)、こんなにポップなものが現れるとは思っていなかったので驚いたけど、それと同時になんだかドキドキした。

 この色に驚いたのは我々だけでなく、当時の日本人とここで教壇に上がっていたフランス人教師も同じだったらしい。そして、当時この色について聞かれたとき、彼はこう答えている。

今後道路が舗装されて、ますます街が灰色になるから、これくらいで良いのだ

 実際、彼の言う通りになったのかもしれない。当時の様子がどんなものだったかは分からないが、今では道路は綺麗に舗装され、周りには白と黒と灰色の建物が並んでいる。ただ、街の景観を決めるのは建築物だけというわけではない。街路樹がたくさん植えられていて、実際受けた印象は灰色というよりは緑の方が強かったように思える。これは田舎出身の個人の勝手な印象だけれど、人口と建物の多い都市では緑に飢えてこういった街路樹などが多い気がする。鬱陶しいほどに生い茂る雑草や目の前いっぱいに広がる田園風景というものが、都市では普通ではないからだろうか。


アテネフランセのある通り 街路樹と灰色のビル

 実はこの日臆して受付に見学を申し出ることをしなかったため、建築レポと題しつつも実際は外から眺めて思ったことを打ち込んでるだけなのだが、ここからは外観についてもう少し近くで細かく綴っていく。初日に教授陣から、図々しいほど積極的に行動しろと言われたのに外から写真を撮って帰っただけなのが本当に恥ずかしい。

 そういうわけなので今回ここで書けることと言えば、本から仕入れた情報と外から分かることと感想くらいしかない訳だけど、ここから個人的に面白いなと思ったことを書くのでもう少しお付き合い頂きたい。

まずはこれを見て欲しい。

よく見ると左下から右上にかけて斜めに ATHENEE FRANCAIS と読める

 前述した通り、ピンク色の壁にはアルファベットを装飾化したものが彫られている。パッと見てすぐに何の文字かが分かると思う。

では次はこれを見て欲しい


至近距離で撮ったやつ


至近距離で撮ったやつ2


至近距離で撮ったやつ3

 どうだろうか。壁全体を遠目で見たときにはすぐに分かったアルファベットが、近くで見ると何の文字か理解するのに時間が少しかかりはしなかっただろうか。

斜めから撮ったやつ

 素人が思うに、遠くから見たり斜めから見たりすることによって彫られている部分(黒い文字の線にあたる部分)が繋がって見える、またはその彫られている部分が強調されることによって、私たちがより知っている文字として認識しやすくなっているのではないだろうか。建築のデザインとして大事なのはここからで、そのメカニズムがどうであれ吉阪隆正がこのデザインをこの壁に起用した理由があるとすれば、それは実際にここに行った人なら想像がつくのではないかと思う。アテネフランセ前の道は広いとは言い難く、歩道の幅も割と狭くて人が二人並んで丁度くらいだった。だとすれば、大抵の人間は私のようにアテネフランセの壁を至近距離でまじまじと見つめることなく、その通りを歩き去るか建物の中に入っていくことが予想できる。真正面から見る人間がいるとしたら、その多くが私がしたように道路の反対側から見るだろう。

 つまり壁一つをとっても、どのような条件で見られるかが丁寧に考えられてデザインされていることになる。将来自分が設計するとなったとき、建物の人に見られる部分について丁寧に考えることができるだろうか。私が通う大学は美術大学ではない。安全性や機能性、そういった工学的な物事を考えながら設計できるようになることが要求される。その一方で、それらを維持しつつもファサードが美しくかつ居心地の良い空間を創り出すことが求められる。それは建築学という括りの学問が工学と芸術両方の要素を併せ持つものである限り当然のことだ。建築を通してどう人と向き合い、どう支えていくのか。建築を学ぶ身として建築に訪れるということは、建築と向き合うことでそれらを学ぶことであって、こういうことを今考えさせてくれたこの建築に訪れて本当に良かったと感じた。これから建築の要素一つ一つについて感じたこと思ったことを積極的に言語化しようと思えた。見て写真撮って終わりにはしたくない。

ここまで読んでくれてありがとうございました。こういうのって一人称どうすればいいのか分からないので誰か教えてください。


オマケ

ギリシャ神話のアテネ
ちょっとロンシャンを感じる(かも?)


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