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掌編小説

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Twitter300字SS(https://privatter.net/p/310549)ほか、突発掌編をまとめたマガジンです。
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#ファンタジー

伴侶に



 ルルヤを伴侶に、と望んだのは自分だ。部族は違うが互いに族長筋、歳も近かったから気が合った。日が暮れても二人で遊び回って叱られた。草原を転がり、水切りをし、狩った兎や鳥を捌き、星を数えた。長として立つとき隣に望むのは、ルルヤ以外にない。
 そう思ったから婚姻の話を持ちかけたのだが、気取らない付き合いを続けてきたがゆえに、改めての場は気恥ずかしかった。晴れの装束に曲刀を提げ、珠と羽根飾り、五色の

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星見先生とぶどうパン



 学者先生はいつも、夕どきの鐘が鳴る頃に来店し、星見塔に出勤する。ぶどうパンをさっと買い、お釣りを受け取るのは上の空。彼の眼が焦点を結ぶのは天上ばかり。
 けれど私は、変人だと囁かれる先生の浮世離れした眼差しが好きだ。星を見つめる先生を眺める私、というわけ。
 先生は不意に「今夜は星が降ります」と呟き、返事も待たずに人通りに紛れてしまった。
 ……夜って、宵? 深夜? 明け方?
 流れ星は先生

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母の遺言



 凍えるような戦争が終わって緩やかに日常が戻り、けれども母は戻らなかった。国仕えの身である以上、出征も戦死も予期されたことだとはいえ、骨が灰になるまで守護術を行使したがゆえと言われれば涙に溺れるほかはない。
 役人が遺書を持ってきたのは、ようやく混乱と悲愴と欠落が凪いだ頃合いで、平常心を総動員してそれを受け取った、のだが。
「呪いの書並みに厳重な封印なんだけど」
 学生の僕、料理人の父。当然な

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