星見先生とぶどうパン

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 学者先生はいつも、夕どきの鐘が鳴る頃に来店し、星見塔に出勤する。ぶどうパンをさっと買い、お釣りを受け取るのは上の空。彼の眼が焦点を結ぶのは天上ばかり。
 けれど私は、変人だと囁かれる先生の浮世離れした眼差しが好きだ。星を見つめる先生を眺める私、というわけ。
 先生は不意に「今夜は星が降ります」と呟き、返事も待たずに人通りに紛れてしまった。
 ……夜って、宵? 深夜? 明け方?
 流れ星は先生にとって特別な出来事で、だから教えてくれたんだろう。夜が早くて今回は見られないけど、いつかきっと、一緒に。
 明日は先生の好きな、干し葡萄のパンをたくさん焼こう。まだ星にはなれないから、たまには私自身やパンを見てもらえるようにね。


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「Twitter300字ss」企画参加作品 第68回/お題「夕」

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