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いいデザインからデザインを学ぶコラム①

現役プロダクトデザイナーが、良いデザインだと思うものを選定し、どこがどういいのかを文字にし、謙虚な姿勢で「いいデザインからデザインを学ぶ」コラムです。

コラムの目的。

自分自身のデザインの審美眼を養うこと。またそれらから学んだことやデザイナーとしての視点をデザイナーを志す学生や若いデザイナーに共有することで、学校や現場でなかなか学べないことを学ぶ環境を作ってみること。そこからさらに良いアイデアを創出・発展させることを願っています。もちろん自分も。

コラムを書く上でのルール。

・自分や知り合いがデザインしたものではないものを選定すること。
・投稿時点で自分に利害関係にない企業やブランドの商品を選定すること。
・投稿による収益を得ないこと。また、商品の購入サイトのリンクを使わないこと。
・かならず自分で使用し、その証明にコラム中に出てくる写真も自分で撮影すること。
・ジャンルは不問(基本的に物が多くなるとは思います)
・無理して書かない。ネタが無いならネタが入るまで書きません。

つまり、純粋にデザインだけで文字にするコラムです。
※問題になるようなことは書きませんが、それでも何か問題が起きたり単純に嫌になったらその時点でやめます。

今回選んだもの。

スノーピークのカセットコンロです。昨年販売され始めたものだと思いますが、今回の自粛期間の前に購入しスタジオのランチを作る時にはだいたい使っています。

使用していない時間のためのデザイン。

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このプロダクトデザインの一番すぐれた点は、立てて収納できるそのスタイルにあります。従来のカセットコンロは鍋を置く所を確保するために、薄い箱状になっていますが、それらの内部はほぼ空です。

ユーザーは賃料などを通じて空間を借りていますが、その空間を無駄にするということはプロダクトデザイン上よくないと考えます。カセットコンロの使用シーンは主に冬に集中しますが、それ以外の時間もユーザーや空間への負荷をかけない方法として、非使用時のプロダクトデザインを行い、狭い所にも入るし、棚に立てかけておいても様になる佇まいをしている。

単純にかっこいい美しいだけでなく、暮らしに大きなプラス要因を生み出していること。そして非使用時にカセットコンロに見せない工夫が多くされています。だからリビングに飾ったとしても問題がない。これは大きなプロダクトデザインの要素だと思います。

変形のための未踏のエンジニアリング。

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このスタイルを確立するために行われていることは、五徳と呼ばれる鍋をおく場所が変形し、カセットボンベを入れる場所に収納できてしまうことです。実際に使用するとこの機構設計はかなりすごいなと思います。

大きな鍋を置いたとしても安定するそのサイズと、カセットボンベの空間には差尺といって寸法上のギャップがあるのですが、それをうまく使い、折りたたまれた五徳が空間内で動かないようにロックされる機構が施されています。デザインエンジニアリングですね。

ギリギリの部品点数と剛性設計。

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紐解くほどに優れた点を発見できるのですが、アウトドアブランドであるために持ち歩く人のことも想定されていると思いますが、部品点数は極限まで抑えられています。プロダクトデザインの基本といえばそうなのかも知れませんが、余分な加飾はなく重いものを下に配置し良い重心バランスをしています。

また板金(金属の板)の知見がとても優れていて、このデザインは基本的には展開して使用するか、畳んで立てて置くかの二つのスタイルなのですが、その間の広げている間などはところどころたわみます。つまり、材料が少ない条件の中で板金がどのようになれば剛性がでるかを熟知し設計されています。そこから板金をどのようにすればいいのかを学ぶことができます。

購入した理由。

カセットコンロという世界は、カセットボンベというインフラに支配されている世界で、カセットボンベそのものが変わらない限り新しい価値創出はないと個人的に思っていた中に、突如出てきたのがこのプロダクトデザイン。単純に言えば「やられた感」です。最初に書きましたが、誰がデザインや設計をしたのかはわかりません。きっと社内の方だと思いますが、その方に直接お会いしてお話をより詳しくお伺いしたいと思うくらいの気持ちです。

突き詰められた新しいものは、後発の追従を防ぐことができる。これは自論ですが、真新しいものを考えるときは、形だけを考えるときの何倍もの時間と労力が発生します。その中で突き詰めた物を作るというのは、さらに難しい。なぜなら突き詰めるということは要素をギリギリまで減らさなければならないから。これ以上ないという所まで減らさなければ、それ以上減らした後発が入る隙間を与えてしまう。だけどこのプロダクトデザインはそうした隙を与えていない。

色のはなし。

この商品は、このシルバー色の他に黒とカーキ色があります。どちらの風合いも良さそうですが、なぜシルバーにしたかというと、私はこうしたNew Standardになるものを買う場合、色のエッセンスが無いものを選ぶ傾向にあります。色で選択しなくてもきっと飽きないからだと思うし、この三色では一番形状が認識しやすく、また素材そのものの色にも近いのでそこにも本物感を求めたのかも知れません。当初はカーキと悩みましたが、学ぶという視点で買ったので結果シルバーになりました。

何度か使ってみて。

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※何気にお気に入りの、めちゃくちゃ小さいアルミ鍋を載せてみた。小さい鍋の対策も五徳設計の難しいところですが問題ありませんでした。

使用上いいなと思うことは、カセットボンベを使用後に取り外すこと。つまり知らず知らず安全になるようになっている。吹きこぼれのことも懸念はあるものの、しっかり見ていれば問題ないし、気になる人は本体の下にトレーを使用すればよいと思います。

最後に。

ここまで話した中で、ほとんどが使用性や機能性についてのプロダクトデザインの話でした。形の話が出てこなかった理由は、形は個人の趣味が出るのでしなかったこと。また作者や作ったチームの意図として、加飾を避けるという意識を感じ取ったことから、そうした視点を書かなかった。

色や形以外でも十分に物を語れるのが優れたプロダクトデザインだと思います。それによって人にいい影響を与えたものであれば、何も最新の物でなくても豊かになれるし、デザインの正しい認識がそこに生まれれば世に出るデザインの質もどんどん向上すると思います。

この先に掲載しようと思ういくつかのネタはもうありますが、気長にお待ちください。

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