伝統をおさえる! 「ドラキュラ」的怪物のすすめ
この世で最も妖しく、美しい怪物とは何か?
人々を惹きつけてやまない、魅力にあふれた化け物とは?
雪女や魔女、インキュバス、サキュバスの類を挙げる人もいるだろう。
怪物は数多くいても、「吸血鬼」ほど人の心を掴んで離さない生き物は他にいない。
この21世紀においても、吸血鬼を題材にした小説、マンガ、ドラマ、キャラクターには事欠かない。
そもそも、吸血鬼とは何か?
「吸血鬼」に馴染みがないという人でも、ヴァンパイアやドラキュラという言葉は聞いたことがあるはずだ。
似た文脈で使われることの多い2語だが、実は意味としては異なっている。
ヴァンパイア=吸血鬼という種族のこと。
ドラキュラ=ブラム・ストーカーというイギリス人作家によって書かれた「Dracula」の登場人物、ドラキュラ伯爵。
つまり、ヴァンパイアとドラキュラは、人間と個人名くらいの違いがあるということだ。
しかしながら、ヴァンパイア種族の中で1番有名なのはドラキュラ伯爵なので、我々異種族から見れば「ドラキュラ」がヴァンパイアを総称してもおかしくはないだろう。
羽生結弦といえばスケート選手、スマホと言えばApple、遊園地と言えばディズニーランドというようなことだ。
19世紀から続く、吸血鬼に必要な3つの要素とは?
さて、ハロウィンということで、「ドラキュラ」あるいは「ヴァンパイア」に扮したという人も多いに違いない。
そこで今回は、伝統的「ヴァンパイア」に必要な3つの要素をご紹介したい。これさえ意識していれば、ハロウィンの夜に誰よりも吸血鬼に近づいているのは、きっと貴方に違いない。
①「野蛮さ」、すなわち「エキゾチシズム」
そもそも「吸血鬼」とは他の世界からやってきた、我々の安寧を乱す存在だ。
ステレオタイプな吸血鬼を思い浮かべてみても分かると思う。彼らは死人として土の中に葬られ、生者と一線を画す儀式が行われた後に現れる。
特にNetflixの「ドラキュラ」では、その野蛮さが濃厚に表れている。
見たことがない人でNetflixに入っている人はちょっと1話だけでも覗いてみてほしいのだが、最初のドラキュラ伯爵はRの発音を非常に強くなまらせている。
いわゆる主人公たちの言語を喋れていないのだ。言語の違いは、それだけで彼らを「野蛮人」たらしめるものなのである。
野蛮は英語で「Barbarian」というのだが、この語源はギリシア人たちが異国語を「バルバルバル」としか聞き取れなかったからだと言われている。
言語が違うということだけで、「野蛮」と認定されてしまう。しかし、その野蛮さは吸血鬼にとって必要なものだ。
なぜなら、彼らは我々とは違う世界からやってくる異端者なのだから。
我々と同じであってはいけないのだ。
②「優雅さ」
いや、ついさっき野蛮が云々と言っていたのに優雅とは真逆ではないかと思う方もいらっしゃるだろう。
それでも吸血鬼は優雅でなくてはならない。ドラキュラ伯爵も異国人ではあるが、貴族なのだ。
この優雅さこそが、吸血鬼をただの化け物とは言わせない理由でもあるだろう。
ドラキュラ伯爵だけでなく、彼の元となった「カーミラ」も貴族的な背景を持つ娘だ。
その貴族的な背景を活かし、獲物となる少女たちの家へ入り込むのがカーミラの常套手段だ。
詳細な手段については、ぜひ本編を読んでみてほしい。
③「セクシーさ」
これも面妖な、と思われるかもしれないが、伝統的な吸血鬼譚では非常に重視されているものだ。
ドラキュラ伯爵が襲うのはもっぱら女性だが、首に牙を突き立てて吸血するという行為が性行為と酷似しているというところは、数多くの論文で指摘されているところだ。
その他、吸血鬼には魅了などの人を操る能力も付与されている。「カーミラ」においても、体が熱くなる等々の少し性的なものをイメージさせる文言が盛り込まれている。
吸血鬼は死んでいる化け物なのにも関わらず、性と切っても切り離せない存在なのである。
吸血鬼が人間の心を惹きつける理由
さて、ここまで伝統的吸血鬼について語ってきた。
なぜ吸血鬼という生き物は我々を惹きつけてやまないのか。
彼らは我々と明らかに違う世界からやってきたにも関わらず、現世で通用するステータスを持っている。
人は皆、異世界からやってきたものに弱いのだ。ハロウィンに浮かれるのもそうだろう。
異世界からやってきたものが、不細工な怪物ではなく、美しい青年や少女だったらどうだろう。
美しいだけではなく、性と切り離せないという生々しい特性も持ち合わせている。
この生と死のバランスこそが、吸血鬼を不変の人気者たらしめている理由ではないか。
参考文献
ブラム・ストーカー、『吸血鬼ドラキュラ』、創元推理文庫、1971年
https://www.amazon.co.jp/dp/4488502016
J・S・レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』、創元推理文庫、1970年
https://www.amazon.co.jp/dp/4488506011
"Varney the Vampire", Hulton Archive
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