ブランディングにおいてお客様の声は毒である2-1

#7 ブランディングにおいて、お客様の声は“毒”である


Voice of the customer is a poison in branding.


一般的に、お客様の声というのは貴重な情報だ。お客様の声から新たなニーズを発見することもできれば、不満を察知することもできる。
そのお客様の声を取るために企業は数百万、数千万、時には数億円払うことだってある。

しかし、そんな欲しくてたまらない貴重なお客様の声が、ブランディングにおいてなぜ“毒”になるのか。そのことについて今回説明したいと思う。


なぜブランディングにおいてお客様の声は“毒”なのか?


それは、「ブランディング=自問自答」であるからというのが自分の解である。
自分はブランディングとマーケティングの違いを簡単に表現するとしたら、

ブランディング = 自問自答(自分との対話)
マーケティング = お客様との対話


であると考えている。

言い換えると、ブランディングの解は「自分の頭の中」、企業や組織の場合はそこで働く人たちの頭の中にあり、マーケティングの解は「お客様の頭の中」にあると思っている。

ブランディングは自分と向き合うこと、そしてマーケティングは顧客や市場と向き合うことだ。


このように考えると、自分の頭の中に答えがあるブランディングにおいて、お客様の声を聞くことは“毒”であると言っている意味が分かってもらえるのではないかと思う。

ただ、ブランディングにおいてお客様の声が“無意味”であるとは考えていない。“無意味”ではなく、“毒”という言葉にしたのには理由がある。

“毒”は多量に摂取すると死に至らしめる恐ろしいものであるが、微量であれば細胞の回復力や免疫力を高めることもあり、薬であるという考え方がされている。
“毒”にはこのような二面性があることから、この言葉が自分の考え方に当てはまると思い、“毒”という言葉を用いている。

つまり、お客様の声は無意味ではなく、幾らか取り入れるのであればプラスに働くこともある、ということだ。

例えるなら、大学生が就職活動の際に「自分が将来やりたいこと、やりたい仕事」について、他人に意見をもらうようなものである。
先輩や友達といった他人にそのようなことを聞くことが無意味だとは言わないが、参考程度として聞くべきで、大切なことは自分が何をしたいのかを自問自答することだ。


マーケティングドリブンな時代に、あなたのブランドは自問自答できているか?


テクノロジーが驚くべき勢いで進歩している今の時代、お客様の声をより簡単に、より多く、より具体的に、そしてよりリアルタイムで聞くことができるようになってきている。企業や組織のテクノロジーやデジタルへの関心が高まり、それらをどんどん取り入れ、マーケティングのケイパビリティを強化してきている。

お客様が求めているものをより深く知ること、そしてそれを満たすことに企業は熱心になっている。まさにマーケティングドリブンだ。

このようなマーケティングドリブンな時代に、あなたのブランドは自問自答できているか?

ブランディング = 自問自答(自分との対話)
マーケティング = お客様との対話

と表現したが、別の観点で考えてみると

ブランディング = “Why”を形にする仕事
マーケティング = “What / How”を形にする仕事


とも言えるのではないかと思っている。



もし、「あなたは何の仕事、どのような仕事をしているのか?」と聞かれたら、あなたは簡単に答えられるだろう。
では、「あたなはなぜその仕事をしているのか?」と聞かれたら、多くの人は答えに窮するのではないかと思う。

これは企業や組織にも同じく当てはまる。
後者の質問にしっかりと迷うことなく答えられるようにするのがブランディングであり、そのためには自問自答するしかない。

お客様の声を聞いても、そこに答えはない。

あなた自身、そしてあなたの企業や組織といったブランドはこの質問に答えられるだろうか。日々の仕事の中で自問自答しているだろうか。


スティーブ・ジョブズ率いる最強のブランドAppleの強さが垣間見えた瞬間


アップルから追放されたスティーブ・ジョブズが1996年にAppleに復帰し、翌1997年に世界的に有名な“Think different”のキャンペーンを打った。この60秒のCMは多くの人が一度は見たことがあるだろう。


実は、このキャンペーンを打つ直前に、このキャンペーンに至った背景や理由、Appleとは何者なのかをスティーブ・ジョブズが従業員に語った映像がある。

これを見ると、スティーブ・ジョブズは後者の質問(なぜAppleが存在しているのか)に対する明確な答えを持っていることが分かる。つまり“Why”の部分が非常にクリアになっている。

世界で最も強いブランドの1つであるAppleがなぜ強いのかが垣間見えた、とても示唆に富んだ内容だ。

スティーブ・ジョブズはAppleについて自問自答した結果、明確な答えを得たのだろうと想像している。


マーケターと呼ばれる人間は、時より「お客様の声」や「顧客視点」といったマーケティングにおける正義の刀をブランディングというフィールドにおいても振り下ろしてくることがある。

ブランド、ブランディングというものに本気で取り組んでいこうと考えているのであれば、マーケティングから振り下ろされる正義の刀を打ち返して欲しい。

「ブランディングにおいて、お客様の声は"毒"である」という考えは、1年半ブランディングという仕事に浸かってみた経験からの自分の中での「解」だ。

「正解」ではない。あくまでも自分の中で今そう信じているという意味での「解」である。

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