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Lokaler Fußball

隣から聞こえる「ジャキッ」という音が止まらない。初老の男性が、自分の車とクラブハウスの鍵を手揉みする音。
言葉こそ少ないが、なぜか副審がいないこの試合と、言葉の前にイエローカードでコミュニケーションを取ろうとする審判と、自分のクラブのフットボールに明らかに苛立っている音。

そして、どう考えても足元がおぼつかなかったキーパーがビルドアップを試みようとして2失点目を喫した時、その鍵はついに数メートル先へ飛んでいった。
…そして、しばらく後に自分で鍵を取りに行く。また手揉みの音が始まる。タバコのペースもどんどん早くなる。

駒補みたいだった(オリンピック公園だし)

クライスリーガ(ドイツ8部)の公式戦、Olympiadorf MünchenとDJK Münchenの試合。なぜか副審がいないためにオフサイドをまともに取れなかった(ほとんど近くの観客の怒鳴り声次第)ゲームは、イエローカード14枚くらい、PKは3つくらい、そしてスコアは3-4と、めちゃくちゃ荒れた。選手のど付き合いを何度見たことか。

50人くらいのファン(もとい関係者、揃いも揃って強面)は判定に怒り、たまに近くの選手としゃべり、点の取り合いとPKの判定に散々一喜一憂して、選手である息子や家族や友達と一緒に帰っていった。ちなみに審判は真っ先に帰った。

いくら息子や友達や近所の人がプレーしている草サッカーとはいえ、根底のモチベーションには何か極端な感情がある。怒り悲しみ、怒り怒りがっかり、たまの喜びと見せかけて怒り。

横断幕なんてないし、ウルトラスやフーリガンを名乗る人たちもいなかった。組織化しなくても立場を表明しなくても、気持ちを言葉にできる安心感。SNSや掲示板に書かれない、ありもしない噂が噂を呼ばない、「よりよい日本サッカー」のために除け者にされない安心感。もしくは、それを大して気にしなくてよい安心感。この気持ちを何と言えばいいのか。

審判はある意味気の毒だったけど、最後は何人かのファンに労いの言葉をかけられて、ちょっと首を振ってピッチを出た。

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