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音楽評論家 柴崎祐二さんによる"Tampopo*2○2●"ライナーノーツ

音楽ディレクター/評論家の柴崎祐二さんに、影山朋子のセカンドアルバムのライナーノーツをご執筆いただきました。
こちらはCDのブックレットにも収録されています。

『Tampopo*2○2●』 影山朋子

楽器の音と、声、そして世界の再調和 ――マリンバの響きに乗せて飛びゆく 『Tampopo*2○2●』

影山朋子と初めて会ったのは、私が制作ディレクターを担当していたバンド、「森は生きている」のライブ現場だったと思う。確か 2013 年から 2014 年にかけて、バンドがセカンド・ アルバムに向けて様々な音楽を吸収し、ステージでも果敢な試みを続けていた時期のこと。 彼女の弾くヴィブラフォンが加わったことで、バンドのアンサンブルは飛躍的に色彩を増し、立体的なものになった。スケールの大きな演奏で、各楽曲に繊細な音色とハーモニーを付け加えてくれたのはもちろん、⻑尺曲ではライブの見せ場ともいえる闊達なインプロヴィゼー ションを披露し、サポートメンバーという役割を超えてバンドの音楽になくてはならない存 在となってくれた。 もちろん、レコーディングの現場でも大きな役割を果たしてくれた。森は生きているのセカ ンド・アルバム『グッド・ナイト』(2014 年)における彼女の演奏は、それなしではアルバムが成り立ち得ないほどに重要な要素として、素晴らしい響きを担った。

その時点で、ジャズ、ポップス、即興など、彼女が様々なアーティストの作品/ライブで演奏しているのは知っていたし、ソロ・アーティストとしてマリンバとヴィブラフォンの弾き語りという珍しい形態でライブ活動を行っていることも本人から知らされていた。初めてのソロ作品『眠りにつくまえに。』(2015 年)のリリースを知らせてくれたのも、彼女自身だったはずだ。サポート・メンバーとしてのプレイとはいい意味で異なるその内容に、驚きとともに、爽やかな感動を覚えたのを記憶している。

その才能への新鮮な驚きが確信めいたのへ変わったのは、少しの間を経てリリースされた 2019 年のアルバム『光の速度、影の時間』だった。総勢 19 名ものミュージシャンをゲストに迎えたバンド編成による同作で影山は、それまでの音楽活動を集大成するように様々な要素を盛り込み、豊かなアンサンブルを出現させた。変幻自在な演奏には、ジャズ等の即興 演奏に取り組んできたしなやかな肉体性が映し出していたし、美しくも力強いメロディー /歌声からは、彼女が優れたコンポーザー/シンガーでもあることの証左となっていた。このアルバムは、その後折に触れて親しむ私の個人的な愛聴盤となった。


今回登場したセカンド・アルバム『Tampopo*2○2●』(「タンポポ に まる に まる」と読むのだそうだ。なんと自由な!)は、前作と打って変わって、自身のマリンバとヴォーカル を主軸に、曲によってヴィブラフォンやシタール、クラリネット等が加わるのみのごく控え 目な編成となっている。何よりもまずはそのシンプルさに興味を惹かれるわけだが、だからといって、単に「基本に戻った」と表現するだけでは足りない、明らかな音楽的深化を感じさせる。

先に述べた通り、そもそもマリンバという楽器を「弾き語り」形式で用いる例はかなり稀である。ギターやピアノなどと違って、(複数のマレットを同時に用いて和音を表現できる とはいえ)サステインを伴った「コード弾き」を簡単にできる楽器ではない。アタックのインパクトや音の減衰速度からすると、打楽器とメロディー楽器の中間というべきハイブリ ッドな性質を特徴とするものであり、この楽器の演奏に違和感なく歌のみを乗せる(しかも 飽きずに聴かせる)というのは、素人の感覚でも、かなり難易度の高いことだと推察できる。 しかし彼女は、そうした楽器特性を十二分に掌握し、他にない響きへと転化することに成功 している。

各曲で聞ける流麗なマレットさばきは、リズムの律動感を確実に作り出しつつも、一定のBPM にこだわることはなく、実に当意即妙的なものだ。自らの身体的リズムと楽器の持つ響きの速度を巧みに止揚し、有り体な言い方をあえて用いるなら、まさに「語る」ように音を鳴らすのだ。ミニマルな反復フレーズを繰り出す場合でも、あくまで身体の運動や歌声の ダイナミズムと絡み合う形でゆらぎ、流れていく。印象的なメロディーを奏でるときにも、 逐次的に音符を追うのではなく、その豊かな倍音を伴った音それ自体に導かれるように、つまり、「アフォーダンス」的な関係の中から音符が立ち現れるような、すぐれて有機的な感覚を抱かせる。

マリンバの音色に身を浸すと、他の楽器にはない得も言われぬ心地よさを覚える。私が感じているこの心地よさは、いったいどこからやってくるものなのだろうか。サステインはた しか短いかもしれないが、同時に、ハッとするほど豊かな倍音を伴ってもいる。ピアノやバイオリンのように、打弦/擦弦を通じて胴を鳴らすのではなく、木の素材そのものを打撃することで、木を鳴らし、空気を揺らす。そのプロセスは、いうまでもなく直接的に身体と連結したものだ。このシンプリシティを通じて、私達はそこに「音を奏でる」という行為の根源性へと誘われる。打つことと、奏でることが同時的/同義的に機能し、その機能が直接的に身体へとフィードバックされていくこと。もしかすると、奏者と楽器に結ばれるそうした関係の豊かさを、音に浴する私達もまた、直感的に感じ取っているのではないか。マリンバと歌声の響きに身を浸す行為というのは、そうやって私達自身を、「音」や「環境」、「モノ」 へと再接続させてくれる体験なのかもしれない。

本作『Tampopo*2○2●』を聴くと、随所でそういう体験をすることになる。紡がれるメロディー、コーラス、吐き出される歌声とマリンバの響きは、このアルバムが存在するよりずっと前から、ごく自然な様子で結びつきながら、大気の中を漂っていたかのように再生され る。その上、さり気なく付き添う追加楽器たちも、そういう印象を決して乱しはしない。風のように私達の頬を撫でていくそれらの音は、このアルバムに漂う悠久の感覚に品よく彩を添える。

本作の音楽は、悠久の昔からこのメロディーがあり、この響きがあり、この歌があり、彼女の身体が存在していたかのように、あまりにも自然にそこにある(あった)ふうだ。
こうした感覚は、影山が歌う言葉の随所へも溶け込んでいる。自らの回りに存在する自然に驚き、ときに慄き、親しみ、感じること。彼女の言葉は、その喜びに満ち溢れている。
以前。影山は私に、新たな住処となった新居を取り囲む環境の中で、自然の美しさ/尊さと再び出会い直した体験について教えてくれたのだった。そのときに得た感動をどうにかして音楽へと昇華させたいという彼女の願いは、ここで見事達成されている。
おそらく、ふと目と耳を開いてみれば、私達の誰もが彼女と同じような体験をできるはずなのだ。このアルバムは、たしかにシンプルで、パーソナルなものなのかもしれない。しかし、決して「孤独」なものではなく、むしろ、思い切り開放的で悠大だ。私達が知らず知らずのうちに通り過ぎている身体と世界の再調和へと誘ってくれるという意味で、全ての人たちに開かれた音楽であるともいえるはずだ。タンポポの種が風に乗ってどこへでも飛び上がっていくように、この音楽があらゆる人の耳へと運ばれるよう、願いたい。

2023 年 8 月 音楽ディレクター/評論家 柴崎祐二


【アルバムリリース情報】
New Release: 2023.11.15
影山朋子 2nd album “Tampopo*2○2●”
1.ひとりのひかり
2.いとなみ
3.微風
4.波間にて
5.空の散歩
6.タンポポ
7.それぞれの光
8.陽の光
FLFF-001 (税込3000円)
発売元 flaffy seeds records /販売元 PCI MUSIC /配信Distribution FRIENDSHIP.

🎧配信スマートリンク
https://friendship.lnk.to/Tampopo_2020
🎬アルバムティザー映像
https://youtu.be/OTjuEq-DOsU

CDはタワーレコードディスクユニオンHMVAmazonhontoなどなど、各SHOPにて販売中!!

【ライブ情報】→live
11/24(金)東京・恵比寿KATA(LIQUIDROOM2F) w/kiss the gambler, 田井中圭sitar,渡邊一毅clarinet
​12/9(土) ヨコハマミライトCHRISTMAS FESTIVAL w/ 蔡忠浩
12/14(木)名古屋・金山ブラジルコーヒー w/磯たかこサウンズ/Eri Nagami
12/16(土)神戸元町theater jazzy w/ Suomi Morishita Strings Trio /DOGU (from Colloid )
12/17(日)大阪studio T-BONE w/ゑでぃまぁこん(バンドセット)/関谷友加里(pf)&大塚恵(b)DUO/ 由中小唄(cho) / 音響 西川文章

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