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新卒採用に「学歴フィルター」=「品質ロット証明書」は存在するが、「異常値」も存在する。【メーカーのススメ】

私はメーカー勤務の就職氷河期世代・工場系技術屋兼中間管理職である。前職で外資系消費財メーカーにいたときに、大卒新卒、中途の採用試験を「中の人」として担当していた。その際特に大卒新卒の採用で強く感じたのが、「学歴フィルター」の存在である。本稿はこれから就職活動をするワカモノには刺激の強いオトナの世界の文章と思われるので、心臓の悪い人にはお勧めしない。メーカー志望者もそうでない人も、心して読んでほしい

1.私は見た!「学歴フィルター」の話。

私のいた外資系消費財メーカーは所謂人気企業で、会社説明会は常に満員御礼、エントリーシートも山ほど届く。就職活動を将来に控えた大学生に言うのは気が引けるが、率直なところ私を含めた「中の人」も選考作業が専業ではないので、内容が余程面白いか尖っていない限り、全ての応募者の記述を最後まで読み込んで評価するのは物理的にほぼ不可能である。人事の採用担当者は「全員分きっちり読んでます!マジです!!」と盛んに言っていたが、断言しよう。絶対嘘である

そこで「学歴フィルター」の登場である。「会社説明会で何か話してくれ」と呼ばれて行って出席者名簿を見たら、ほぼ東大、京大、東工大、一橋、早稲田、慶応、あと上智の英語が得意そうな人。次に面接に行ってみたらほぼ東大、京大、東工大、一橋、早稲田、慶応、あと上智の英語が得意そうな人。「?」と思い人事担当者にツッコむと、人事担当者曰く「ウチ、何故かこういう大学の人しか応募してこないんですよねえ」。再び断言しよう。絶対嘘である。ここが霞が関なら分からんでもないが、誰でも知っている系の消費財ブランドを扱っているメーカーなのに・・・?

当時私が担当したのは2次面接だったが、確かに受験生の皆さんは優秀であった。ケーススタディだのグループディスカッションだの面接だのと、よくもまあこんなつまんないものをこれだけ瞳を輝かせてテキパキこなしやがるなと思う。「ワタクシ、酒を飲むことと(弓道部だったので)弓を引くこと以外、お見せできる芸はございません」で就職できた氷河期世代・意識低い系中年の私(一応関東地方の旧帝大卒)とは、スペックがまるで違う。彼らより十数年早く生まれてよかった、と胸を撫で下ろしたものである。

因みにある年私が合格させ、その後入社してきたのは、東大、京大を始めとした最難関大学の並み居る意識高い系キレッキレな学生ではなく、とある大学の朴訥とした学生であった。具体的な大学名は伏せるが、その学生は少なくとも東大、京大、旧帝大でも早稲田、慶応、上智でもなく、関関同立でもMARCHでも海外大学でもなかった。

2.私は見た!「品質ロット証明書」の話。

私の稼業はメーカーの工場系技術屋兼中間管理職なわけであるが、工場にいると「品質ロット証明書」なるものに毎日触れることになる。原料・資材メーカーからは納品ロットの品質を証明する文書が毎日のように自社へ送りつけられ、自社から出荷する製品にはロットごとに自分たちで品質を証明する文書を付けて客先に納品するわけである。

「品質ロット証明書」には、製品ごとに定められた寸法だの、硬度だの、粘度だのと言った、様々な顧客要求項目のスペック上下限値と、当該ロットから抜き取られたサンプルを測定した結果が書かれている。まあ結果欄には普通、合格値しか書かれていない。そりゃそうです。不合格と分かってて納品するわけがない。ある意味プロレスみたいなものである。

とは言え、決して舐めてかかってはならない。「品質ロット証明書」という大げさな名前の割に、単一ロットにおける抜き取り検査の結果が記載されているだけなので、本当にそのロットの製品全数、例えば1ロット分の製品100万個が全て規格内品かどうかは「統計的にしか」保証出来ない。ましてや原料・資材メーカーの工程能力指数なんて普通教えてもらえないし、こちらから聞きもしない。工場系技術屋にはおなじみの正規分布、標準偏差や工程能力指数、AQLだのXbar‐R管理図だの、t検定だのF検定だのχ2乗検定だの分散分析だの重回帰分析だのと言った、バラつきを始めとした統計の眠たくなる話は置いておくが、要は大量に一度に生産した1種類のモノ(製造の最初から最後まで、或いは日替わりまで等、ある定義に基づいた「1ロット」)を1つ1つ全て見たときに、規格外品が100%存在しないとは決して言えないのである。

だから、原料・資材メーカーの「品質ロット証明書」では合格となっていても、いざ製造に使用したら規格外の不良品が出てきたということも普通にあるし、自社が顧客宛に発行している品質ロット証明書も、合格印が押されているのに客先で迷惑を掛けてしまうということは十分あり得る。原料・資材メーカーに指導しつつ、自社内でも工程能力を改善してそう言った不具合をなくすのが私、工場系技術屋兼中間管理職の仕事です。すみません。

3.学歴フィルターという「品質ロット証明書」を無視して私が見つけた「規格外品」

勿論、最難関大学という名の「品質ロット証明書」の製品=人を1,000人連れてくれば、997人までは何らかの基準を満たすといったことはある程度予測できるだろう。だから、(何の根拠もないが)取りあえず統計的に基準を満たしていそうだから、という気分の下、人事担当者は学歴フィルターを使って東大だの京大だの早稲田だの慶応だのといった「製品」を「ロット単位で購入」するのである。

しかし、私には商売柄、「品質ロット証明書は必ずしも当てにならない」ということが体に染みついているので、学歴フィルターという「品質ロット証明書」もやはり当てにならないと考えている。東大生1,000人のうち3人、所謂3σは基準から外れる可能性もあるのである。逆に、余り名前の売れていない大学(失礼)という「品質ロット証明書」を持つ人を1,000人連れてきても、同じく997人までは今ひとつかもしれないが、3人は全く規格外、ということも十分あり得るし、母集団のバラつきが大きい場合規格外は更に上側にも下側にも増えるのである。

先に述べた、私が合格させた学生の「東大、京大、旧帝大でも早稲田、慶応、上智でもなく、MARCHでも海外大学でもない」大学は、必ずしも「最難関大学」というスペックを持つ「品質ロット証明書」ではない。しかし、彼の通う大学の「品質ロット証明書」の中では、彼は明らかに「上側の異常値」であったし、その数値は十分「最難関大学スペック」の品質ロット証明書でも上限側の合格品、ひょっとすると上側の異常値でもあった。「数値」と言っても、超人強度やドラゴンボールのスカウターがはじき出す数値ではなく、単なる主観的な定性評価ですが。

狭い経験上、私はこういったことには学生時代よりも社会に出てから頻繁に出会ってきた。私は工場での勤務経験が20年近いのであるが、「工場の現場で働く、工業高校卒のお兄ちゃん・おっちゃん」という「最難関大学意識高い系学生」の対極にありそうな品質ロット証明書カテゴリーであっても、関東地方の旧帝大卒である自分などより明らかに頭の回転が速い、キレがある、仕事が出来る、自分にない才能がある、と言う人は沢山見てきたし、一緒に仕事もさせてもらってきた。やはり地頭や才能というのはあるんだなと思うし、私は年齢、職位を問わず人間として彼らを尊敬している。何より品質ロット証明書=学歴フィルターに惑わされると、そう言った自分以外の地頭や才能を見逃してしまうため、結果的に自分自身もいい仕事はできないのである。意識低い系中年の老害、最難関大学品質ロット証明書のなれの果てである私としては、意識高い系のワカモノが足元をすくわれるとすると正にここだと思っている。書かなくてもいいのにこういうことをわざわざ書くから老害と思われるのだが。

冒頭で「ウチ、何故かこういう大学の人しか応募してこないんですよねえ」と言う人事担当者を嘘つき呼ばわりしてしまったが、山のようなエントリーシートの中から彼らなりに「品質ロット証明書」に収まらない「異常値」もきちんと嗅ぎ分けていたのだろう。既に転職してその外資系メーカーからは離れてしまったが、そう言う意味では懐の深い、いい会社だったと思う。人事も大変だったと思うけど。

4.就職活動をする人へのメッセージ(メーカーへの勧誘とも言う)

私は世間的には2000年頃に就職活動で苦労したことになっている就職氷河期世代だ(←どうでもいいと思いますが、暇な人はどれ位酷かったかググってみてください。因みに当時は世の中誰も「就活」とは略さず、皆普通に「就職活動」と言っていました)。それを経験した一人として、コロナの影響で今後自分たちの就職活動時以上に悲惨な状況がこの先発生するのではないかと、正直懸念している。そうならないよう、今は「中の人」として足元の業績を支えるのみである。とは言えnoteを観る限り、今の若い世代の皆さんは主体的に頭を使って行動することに慣れているようだし、就職するにしてもそうでないにしても、我々就職氷河期世代よりは上手くやっていけるのではないか、と意識低い系中年の私は老害として期待を持って感じている。

もしあなたが就職するのでれば、外コンだの投資銀行だの、ベンチャーだのスタートアップだのも面白いでしょうが、メーカーもきっと面白いと思います。メーカーなら私のような工場系技術屋兼中間管理職も人事も皆、「品質ロット証明書」に収まらない「異常値」の存在を普段から嫌になるほど知っており、きちんと嗅ぎ分けるのだから。そしてそれはきっとどこのメーカーでも同じだろうし、入社してくださった後も変わらないでしょう。品質ロット証明書のスペックに収まるあなたも異常値のあなたも、来たれ製造業へ!以上、メーカーへの勧誘でした。決して怪しい勧誘ではありません(多分)。【了】

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