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「工場の仕事」の面白さ(その②「人=ヒト、ひと」の管理)

「工場の仕事」の面白さその①では、「具体と抽象の振り子」と「検証サイクルの速さ」について触れた。

設備、原料、製品といった「ただのモノ」を科学上の原理・原則や論理で制御・管理するだけなら、それだけで十分だろう。しかし、決してそうは問屋が卸さないのが工場の仕事の面白いところである。何故か。工場の構成要因には、科学上の原理・原則や論理に必ずしも従わない性質のものが1つだけあるからだ。それはズバリ、「人」である。

「工場の仕事」の面白さ その②:「人」=「ヒト、ひと」の管理

ここでは「人」の捉え方を2つのカテゴリーで考えてみたい。1つは生産工程における作業プロセスとしての「ヒト」、もう1つは社会性と感情、知性と経験を持つ、血の通った人間としての「ひと」である。

1つめのカテゴリーの「ヒト」について。生産工程におけるヒトによる作業プロセスにはオペレーション、監視、トラブル対応等様々なものがある。現在のIoT、AI、ロボット技術が更に進めば、将来的には生産工程の自働化が極限まで進行し、完全無人の生産工程が業種を問わず実現する可能性も十分に考えられる(その場合、ヒトはより専門性を要求される、高次の工程管理・改善オペレーションに組み込まれていくはずである)。しかしながら、現在はまだまだ生産工程の自働化には課題が多く、作業プロセスとしての「ヒト」が必要である。

工程の制御プログラムであれば、一度インストールすれば間違えることなく確実に、繰り返しプロセスを処理していく。そもそもそれしか出来ないのであるから、ある意味当然である。しかし、「ヒト」は一度作業方法をインストール、即ち教えても、間違えることもあれば勘違いすることもあり、忘れてしまうこともある。理解力や判断力は個々人で異なるし、一人のヒトの中でも体調や気分といったものでパフォーマンスは変わってくる。つまり、プログラムと比べ、「ヒト」は極めて変動要因の多い作業プロセスなのである。

では、「ヒト」をどう制御し、確実にプロセスを処理させるか。工場技術屋としては「誰でも分かるシンプルなプロセス設計・誰もが陥らないポカよけ・誰でも出来る標準化・誰でも理解、習得できる教育」に尽きると思う。本稿の趣旨から外れてしまうのでこれらについて語ることは別稿に譲るが、「ヒト」は所謂機械設備や制御プログラムといったモノの管理とは全く異なるこれら4つの視点で管理する必要があることは、「単なる機械オタク・電気オタクの理系大好き人間では工場技術屋稼業は通用しない」という点で、職業人としての視野、幅を広げ、深みを与えてくれる要素になっている。この点が、「工場の仕事」の面白さと言える。

2つめのカテゴリーの「ひと」について。1つめとして生産工程における作業プロセスとしての「ヒト」について述べたが、ここでは社会性と感情、知性と経験を持つ、血の通った人間としての「ひと」である。個人的には、このカテゴリーの考え方が、職業人であると同時に人間として生きていく上で最も重要な部分に直結していると考えている。

工場の現場で働く「ひと」は多様である。派遣、正社員、嘱託。若者、中年、場合によっては高齢者。男性、女性。日本人、外国人。中卒、高卒、専門学校卒、大卒。職を転々とする人、今の職場でしか働いたことがない人。頑固な職人肌の人、言われた仕事を淡々とこなすだけのサラリーマンな人。地方なら兼業農家という人もいる。彼らに共通するのは、社会性と感情、知性と経験を持つ、血の通った人間ということだけである。

時に感情が原理・原則や論理を凌駕し、言わば「話が通じない」こともある多様な「ひと」達を工場技術屋兼中間管理職として管理し、組織業績を向上させ続けるには何が必要か。私は以下が肝だと考えている。

①「あいつは東京の大卒・院卒のエリート社員、違う世界の人」と思われている自分を、同じ「ひと」として信頼してもらえるような接し方

②組織の課題を自分事と考え、同じ方向を向いてもらえるようなコミュニケーション

③各自が主体性とモチベーションを持って自職場を改善していける環境・雰囲気作りと教育

これらも1つずつ語っていると終わらなくなるので別稿に譲るが、要は「人間力」「リーダーシップ」といった、一見曖昧で抽象的だが、実は人間として生きているなら誰でも感覚的に理解している極めて泥臭い要素なのである。そして、これらが現場でうまく回り始めた時、工場技術屋兼中間管理職の自分一人だけでは絶対に出てこなかった知恵や発想が職場から次々に湧き出て、皆がノリノリでやってみると滅茶苦茶改善した、皆で万歳!などと言う結果が得られてしまうのである。そんなことは年に数回あるかどうかであるが、その興奮があるからこそ、私はこの仕事が「やめられない、とまらない」なのである。

これまで経験してきた工場の現場で、どれだけ現場の「ひと」に励まされ、一緒に涙を流し、そして自分自身が成長出来たことか。また、随分前に転職したのにまだ付き合ってくれていて、10年振りに再会した現場の「ひと」たちと昔話を肴に飲む酒の美味かったこと。私の職業人としての最も大切な財産は、一人で勉強すれば身に付く「工場技術屋兼中間管理職として食っていくためのスキル」ではなく、こういった「ひと」たちに会えて一緒に仕事が出来た経験と記憶、そこで考えたり感じたもの全てだと思っている。【了】

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