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故障で苦しむランナーに僕が伝えたいこと

今まで僕は数多くの故障を経験してきました。その中で僕は数多くの間違った選択をしてきたように思います。故障との向き合い方がヘタクソだったとも言えるでしょう。正しい知識を持っていれば、もっと早く治すことができたケースも多かったはずだと反省しています。

なので今回は「僕が故障中にした3つの失敗」と、そこから学んだことをまとめることにしました。それが誰かにとっての「故障を乗り切るための指南書」になるかもしれないと思ったからです。

「再び気持ちよく走りたい」と強く望むランナーの方にとって、このnoteがそのヒントのようなものになれば幸いです。

このnoteの使い方と注意点

このnoteを読むにあたり、二つだけ注意点があります。

もし今、あなたがコーチやトレーナーとタッグを組まれて、復帰計画を立てているのであれば、これからここに書く内容はその方の意にそぐわないかもしれません。その場合は参考にしないで下さい。

このnoteの想定読者は「故障から復帰までのプランをご自身に一任されているランナーの方」です。

そして、このnoteはあくまで「過去の僕自身に向けた指南書」になります。ランナーのタイプは様々であり、僕のようなランナーは少数派かもしれません。その上で、「どうすればいいか分からない」「負のスパイラルにハマってしまった」という方の復帰の一助として参考になれば幸いです。

前置きが長くなりましたが、それらを踏まえた上で、無責任を承知で、書かせて頂きます。

以下、僕が故障した時の失敗を3つにまとめてみました。

【失敗1】故障の原因を見つけきれなかった

【失敗2】「コントロール出来ないこと」をきちんと考えなかった

【失敗3】脳と自律神経のダメージをなおざりにした

【失敗1】故障の原因を見つけきれなかった

故障には必ず原因があります。その原因の深さによっては「一定期間休んでも治らない故障」になると僕は思います。以前、「脚が痛くなるメカニズム」を2つのnoteにまとめました。

この中では故障までの過程を6段階(フェーズ)に分け、表現しました。

フェーズ0 フラットな状態(元の状態)
フェーズ1 単なる疲労・筋肉痛
フェーズ2 一箇所の強い張り(主原因)
フェーズ3 二箇所以上の強い張り(崩れた状態)
フェーズ4 軽度の痛み(主訴)
フェーズ5 故障

脚を痛めてしまった場合には、まず休む必要がありますが、それと同時にフェーズを移行させてしまった原因を考える必要があります。そうでないと、走っては足を痛め、走ってはまた痛めを繰り返してしまうからです(フェーズ2~5を行き来しているような状態)。

そもそも、故障(フェーズ5)は、崩れた状態のまま(フェーズ3)で走り続けていくなかで、痛みという信号を無視し(フェーズ4)、無意識のうちに「脚が痛くならないように走ろう」という思考になり、身体がそのバランスの悪さに適応し、特定の関節や筋肉にかかる負荷の許容範囲を超えた結果と言えます。(この思考自体が悪いのではなく、身体が崩れた状態になっていることに自覚していなかったことが問題になります。)

だからこそ、①フェーズを移行させてしまった原因を見つけ出してアプローチし、②現在の身体の状態を出来るだけ正しく把握して復帰計画を立てることが必要になります。それが完全な復帰へと繋がります。

過去を振り返ってみると、僕はどこか受動的に考え、「原因を見つけ出すこと」をトレーナー任せにしてしまっていました。セルフケアに関しても言われたことをやるだけになってしまっていました。そして、適切な復帰計画を立てられないまま走り始め、何度も同じような故障をしてしまっていたように思います。

ですが、結局大事になるのは「故障の原因が見つかり、復帰までの道筋が立つこと」です。

つまり、僕には主体的に故障の原因を見つけにいく姿勢が足りなかったのだと思います。ひとつのアプローチがダメなら別のアプローチを試して原因を探しに行く。それは決して、複数の治療院に行くという意味ではありません。

復帰計画を立て(Plan)、アプローチを行い(Do)、記録することで客観的に自分を観察し(Check)、今の自分の身体に合ったアプローチを見つける(Action)。そのようにして主体的にPDCAサイクルを回すような姿勢が足りませんでした。

【Plan】復帰計画を立てる。いつまで安静にするのか。いつ治療に行くのか。どんなリハビリトレーニングをするのか。

【Do】治療に行く。リハビリトレーニングを行う。セルフケアを行う。

【Check】今までどのような身体(before)でどのような身体になったのか(after)。現在、故障個所は何%回復しているのか。それらを記録し、振り返る。

【Action】その行動の効果を確認し、アプローチの方向性を定める。

確かに、トレーナーは身体のプロフェショナルですが、自分の身体を一番よく理解するのは自分でなければなりません。大変失礼な言い方かもしれませんが、ドクターやトレーナーの診断が100%正しいとは限らないからです(僕はドクターに痛み止めの注射を打つか打診され、断った2日後に痛みが引いたことがあります)。つまり何が言いたいかというと、答えは必ずしも他人が教えてくれるものではないということです。

僕には、誰にどう思われても主体性を貫く強さが足りなかった。むしろ、もっと主体性を持って臨んでいれば、狂ったように通っていた治療院に行く回数も減っていたと思います。

おかげで今は治療中のトレーナーとの対話は相当マニアックなものになり、僕とトレーナーの共同作業で僕の身体を治療しているという感覚が僕の中にはあります。(面倒くさい奴だなと思われているかもしれませんが笑)

【失敗1  まとめ】
“故障の原因を見つけきれなかった”

→結局、故障を治すには原因を見つけ、適切なアプローチをする必要がある。

→その原因は誰かが見つけてくれるものではなく、自分で見つけるもの。だから様々な角度から主体的に原因を追求する必要がある。

→原因を見つけたら、その対処を考える。PDCAを回して、身体の状態をできるだけ正しく把握する。

【失敗2】「コントロール出来ないこと」をきちんと考えなかった

故障を完全に治し、復帰するためには、適切な復帰計画を立てることが重要になります。しかし、ここで伝えたいのは、「慎重に復帰計画を立てましょう」ということではありません。まずは、「コントロールできない状況や感情を認知するメンタリティを持った上で復帰計画を立てましょう」ということです。

なぜなら、選手は「いち早く復帰したい」と望むからです。そのような強い願望から生まれる不安や焦りによって、選手は不都合な事実を見ようとしなくなります。そして、「主原因」や「現在の状態」を短絡的に決めつけてしまい、「分かったつもりの選択」が間違った方向進んでしまい、故障を長引かせます。僕は不安や焦りから、適切に状況を把握出来ず、復帰計画を見誤り、故障を長引かせてしまっていました。

この動画では、為末大さんがスポーツでの身体の使い方について「予想もつかないバランスの上で人体は競技を行っている」と表現され、人間の複雑性を完全に理解することは難しいと語っています。

為末さんは、現役時代、何をしてもアキレス腱の痛みが引かなかったそうです。そして、ある時「アキレス腱の原因は肩にある」と気づかれ、適切なケアと矯正をしたところ、痛みが引いたたそうです。

つまり、短絡的に故障の原因を決めつけてしまい、本来の原因にアプローチ出来なければ、「頭の中のイメージの動き」と「実際の身体の動き」のギャップは埋まらず、故障(痛み)を根本的に治すことは出来ないということです。

また、ランニング(長距離)という種目は長時間の連続した動作であり、ある意味ではバランスを取り続けている(ことができる)スポーツと言えます。つまり、「主原因」だった筋肉の張りをかばって、代償運動を生みやすいスポーツとも言えるでしょう。

それに加えて「故障」という状態は、既に身体や精神がコントロールできない状態に陥っています。そもそも、「答え(原因)や道筋が容易に見つからない状態」と言ってもいいでしょう。そんな先の見えない暗闇の中にいきなり放り出されれば、手当たり次第に動き、安心感を得たいものです。しかし、じっと待てば目が慣れて状況が把握できるかもしれません。

だからこそ、僕は故障中においては「まず、コントロール出来ないことを認識し、混沌とした状態に耐え、答えを出さずにじっと待つ」ということが求められると僕は思います。

そのような能力は、「ネガティブ・ケイパビリティ」と呼ばれ、医療、教育、芸術の現場で広く認識されているそうです。

「ネガティブ・ケイパビリティ」
・・・事実や理由を性急に求めず、不確実さや不思議さを認め、結論が出ていないなかを耐え抜く能力、宙ぶらりんで留まる能力

なぜ脚が痛くなるのか。

なぜ脚の痛みが無くならないのか。

まずはその不安や焦りをちゃんと感じる。

そして、その原因を分かったつもりにならない。

本質的には何も分かっていないかもしれない。

そんな考えを頭の片隅に置き、ネガティブ・ケイパビリティを持って、やれるだけのことをやる。その思考が復帰計画を立てる上では大事になると僕は考えています。そうすれば、為末さんのように、ある時ふっと、「これが原因だったのか」と気付き、「故障した身体」と「原因」が一本の線で繋がる瞬間が訪れるかもしれません。僕の場合もそうでした。

では、ネガティブ・ケイパビリティを身に付けるためには具体的はどうするか。やはり、自分自身を俯瞰し、メタ認知する必要があると思います。そして、そのためには「記録すること」がカギになると僕は思います。人間は感情に流されやすい生き物です。今現在の足の痛みによって、過去に何を考えていたのかを忘れてしまいがちです。

・過去の自分がどんな行動をし、何を思ったのか。
・トレーナーはどんな所感だったのか。
・故障の回復状態(主観、客観)はどの程度か。
・何をした時にどの箇所がどの程度痛むのか。
・走りの動作(動画、客観)と感覚(主観)はどんなものだったのか。
等々…

それらの記録されたデータを振り返ったうえで、現在の自分の感情(不安や焦りなど)をぼんやりと観察し、最終的に自分の「感覚」で復帰計画を判断することが重要なのではないでしょうか。その判断が絶対に正しいとは言えませんが、「成功確率をあげる、あるいは最短で復帰する」という意味では有効な考え方だと個人的には思います。

【失敗2  まとめ】
“「コントロール出来ないこと」をきちんと考えなかった”

→不安な気持ちによって、早急に「主原因」や「現在の状態」を決めつけてしまうことで、判断を誤り、結果的に故障を長引かせることがある。

→コントロール出来ないことや不確定要素をしっかり認め、宙ぶらりんの状態を耐え抜く能力(ネガティブ・ケイパビリティ)を意識することが大事になる。

→そのためには「過去の自分」と「事実」と「願望」を切り離して考える必要があるため、記録することが有効である。

→そうすれば、ある時ふっと原因が見つかり、復帰の糸口が掴めるかもしれない。

→だから、ネガティブ・ケイパビリティを持った上で、最終的には自分で判断して復帰計画を考える。

【失敗3】脳と自律神経のダメージをなおざりにした

先述している通り、故障中に感じる負の感情(不安や焦り)は、復帰計画を立てる上であまり良い効果を生みません。それだけでなく、そのような負の感情は、脳や自律神経にじわじわとダメージを与えていきます。それが回り回って故障からの回復を遅らせていきます。僕はそうしたダメージに気づかず、回復を遅らせてしまいました。

ではなぜ、①故障中の状況が脳や自律神経にダメージを与え、②それが回復を遅らせるのでしょうか。

まず、①を説明するために、外部刺激が脳内の扁桃体や自律神経を介して、内臓や血管などにどのような影響を与えるのかを説明していきたいと思います。

外部刺激によって受けた感覚や思考は、脳内の扁桃体で快・不快の判断がなされます。扁桃体はその判断に応じて、自律神経系に信号を送ります。自律神経は発汗、鼓動、呼吸など、無意識に身体をコントロールする機能に働きかけます。

例えば、「不安な感情」や「ネガティブな思考」が不快と判断された場合、交感神経が促進され、身体はアクセルを踏んだような戦闘状態になります。一方、「楽しい感情」や「ポジティブな思考」が快と判断された場合、副交感神経が促進され、身体はブレーキを踏んだようなリラックス状態になります。交感神経が過剰に促進されると、扁桃体や自律神経が乱れ、刺激に敏感に反応するようになります。

要するに、故障中に感じる負の感情が自律神経のバランスを乱してしまうのです。僕は脳や自律神経のダメージを故障の原因に上塗りしてしまい、余計に原因を見えづらくしてしまったように思います。つまり、自ら「原因を見つからないようにしてしまっていた」のです。

では、具体的な対策を考えるために、②故障中のどのような場面で自律神経に影響を及ぼし、回復を遅らせてしまうのかを考えてみたいと思います。

以下にまとめてみました。

❶不安、恐怖、焦り、ストレスを感じる
→扁桃体を介して、交感神経が反応する。
→扁桃体が過敏になる。
→交感神経が過剰に反応する。

❷運動習慣が無くなる
→運動中(交感神経)と運動後(副交感神経)のサイクルがなくなる。
→自律神経が乱れやすくなる。

❸体重を増やさないような食事、思考になる
→食事を楽しめない。リラックスできない。
→副交感神経が有意になりにくい。

❹人間関係の変化
→トレーニングに参加できないため、チームメイトとの会話が減少する
→ストレスを感じる、リラックスできない。
→交感神経優位、副交感神経抑制。

❺交感神経優位による睡眠の質の低下
→成長ホルモン分泌減少。
→回復効率の低下。

❻交感神経優位による筋肉の張り(脊柱起立筋・呼吸補助筋等)
→全身の筋バランスの歪み。
→血液循環の抑制。
→回復効率の低下。

このように、❶〜❻までの故障中の行動や考え方が、自律神経に悪影響を及ぼすことが考えられます。従って、故障中にはまずはこれらの影響を認識し、適切に対処する必要があると思います。

しかし、❶の「負の感情を感じる」を根本的に無くすためには「痛みが軽減し、復帰までの道筋が立つ」しかありません。なぜなら「故障箇所が良くなっている・前進している」という感覚が得られなければ、負の感情は無くなることはないからです。また、不安の感情を意識で抑える神経よりも不安の感情を伝える神経が太く、意識で感情を制御するのは非常に難しいともされています。

なので、❷〜❻のケースに対して、具体的な対策をする、あるいは「扁桃体が快と判断する刺激を意図的に増やす」ということが大事になります。

その手段についてはここでは敢えて触れません。なぜなら、僕は人によって「副交感神経を高める方法」は異なると考えているからです。また、「副交感神経活動を優位の状態に維持することが長距離選手のパフォーマンス向上に繋がる」と示唆する研究もあります。

以上から、故障中にこそ、自分なりの「副交感神経を高める方法」を見つけるチャンスであると僕は考えています。ひいては、それが復帰後のパフォーマンス向上にも繋がるはずです。

【失敗3 まとめ】
“脳と自律神経のダメージをなおざりにした”

→負の感情が脳や自律神経を介して、どのように回復効率を低下させるかを理解する。

(不安→扁桃体の異常→自律神経の乱れ→呼吸の乱れ、筋肉の張り、血液循環の抑制→回復力の低下)

→故障中にどのような場面で自律神経が乱れるかを認識する。

→交感神経の過剰促進を根本的に抑えるには「回復までの道筋が立つこと」しかない。一方、副交感神経を促進させる方法は人によって様々。なので故障中こそ副交感神経を高める(自分なりの)方法を見つけることが大事。

→そのアプローチは回復効率を早め、故障を早く治すことに繋がる。ひいては復帰後のパフォーマンス向上にも繋がる。

さいごに

アキレス腱を痛めて約4ヶ月。最近になってようやく復調して、このnoteを書くことを決めました。

もしかすると、ここまで読み進めて下さったあなたは今、故障に苦しみ、大きな挫折の最中なのかもしれません。

そんなあなたの気持ちは僕にはとても図り知れません。

でも僕は「徹底的に向き合えば、治らない故障なんてない」と思います。

『失敗は成功のもと』

僕の失敗がどなたかのお役に立っててくれれば幸いです。

応援しています。

最後に、改めて今まで僕を支えて下さったトレーナーの方々に感謝を申し上げます。(自分事となるとまだまだ冷静にいられないので、これからも何卒宜しくお願い致します…笑)

また、もし身近に「故障で苦しむランナー」がいらっしゃれば、その方にこのnoteをそっと送って頂くと嬉しい限りです。

それでは、最後までお読み頂きありがとうございました!

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