忘れないで、犬の毛並みがサラサラな事(HANAちゃんストーリー第4話)
ほんと、毎日仕事で忙しい。
平均睡眠時間も3時間だし、土日も自宅で仕事。ほとんど休みがない。
でも、女がバリバリ仕事をするにはこのくらいやらなきゃいけないし、遊びは「悪」だ。遊んでなんかいられない。
そんな生活が2年ほど続いたある日、どうも体の調子が悪いことに気が付いた。動悸がして息苦しいし、体はだるくて重たい。でも仕事に行ってしまえばいつの間にか治っていたりした。
更にそんな生活が1年ほど続くと、今度は本当に体が動かなくなる。当時、怒られてばかりいたせいもあるのか、周りの人間全てが敵に見えてきた。何をしても否定されていると感じるようになってきた。
いよいよ、会社に行けない日々が始まった。
最初は体調不良で何日が休みをもらったが、1日2日、休みをもらったぐらじゃ体調は良くなるわけでもなかった。
加えて、人間関係で悩んでいる旨を上司に伝えた。
そこで上司は「なぜ、もっと早くに言わないのだ」と言った。
この一言で私は絶望した。
「言わない私が悪いのか・・・」
心も体もヘトヘトになっていた私にはこの言葉か強く心に刺さってしまった。
実は違う上司にパワハラを受けていたのだ。そのことも相談したが、改善されるわけでも、「強くなりなさい」と言われた。
そんな事が重なり、私は遂に会社に行けなくなった。
何もかも無くしたい、全てぐちゃぐちゃにしたいという衝動にかられた。
そんな状態の時に出会ったのだ、1匹の犬だった。
何気なく入ったペットショップで、クリーム色の顔にこげ茶の耳が垂れている長毛の可愛い子犬がいた。
私が、ガラスの側に来ても、ぐっすり眠っていて気付かない。
店員さんに気づかれないように、少しだけガラスをコンコンっと叩いてみる。
手足を伸ばして気持ちよさそうに寝ていた子犬はむくっと顔を上げた。
眠そうにこちらを見つめる瞳がウルウルしていて、私の顔まで溶けてしまいそうだった。
見つめあう事、数十秒。
突然、子犬がしゃべった!!ような気がした。
幻聴かと最初は疑ったが、そんな事はないと店員さんが証明してくれた。
「あっ!もしかして、聞こえました?」
「えっ?あっ、はい。」
「この子の声、聞こえる人には聞こえるんですよ。私も聞こえます。」
と穏やかに笑っていた。
「なんか、YouTube見て!って言っているんです。犬がYouTubeなんて知っているのですかね?」
私はバカにされないか不安になったが、恐る恐る正直に質問した。
すると、店員さんはこう答えた。
「だまされたと思って、見てみるといいですよ。何かあるのかも」
と楽しそうに、なにかあったら教えてくださいと言っていた。
その夜、私は始めてYouTubeというものを携帯で見てみた。
何を見ればいいのかわからず、とりあえずおススメの中から気になるのをタッチしてみた。
それは6,7人のグループの動画だった。
その動画は愛犬とお散歩に行くという企画だった。
それぞれの個性豊かな愛犬が登場し、散歩を拒否したり、全く違う方向へ行ってしまったりと、犬ファーストのようなおもしろ動画だった。
私はこの動画を見て爆笑した。
何年ぶりだろう。
彼らは小学生の時の遊びやカードゲーム、鬼ごっこ、ガチャガチャなど遊びのジャンルは様々だったが「遊ぶ」ということをテーマにしている動画を投稿していた。
馬鹿笑いして、楽しそうに、本当に楽しそうに、遊んでいる彼らの姿を見た時、私の心はフッと軽くなった。
「遊び」というものはこんなにも人の心を暖かくして、幸せな気持ちにさせるのだと知った。
それから私はこのユーチューバーのファンになった。
このことがきっかけで、私は「あそび」の大切さを知った。
そんなこんなすると、体調もみるみる良くなっていった。
人生において、必死にがむしゃらに生きていくことは大事だが、楽しんだり、感動したり、笑ったり、立ち止またりすることもそれ以上に大切なのかもしれない。
いつの間にか忘れていたこと、テレビが面白い事、トランプがハラハラすること、走ると気持ちがいい事、オセロで勝負を決める事、お昼寝が気持ちがいい事、犬の毛並みがサラサラな事。
些細な日常が彩りを与えてくれる。
終わり
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