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1996年のロサンゼルス Skateとタバコとエア・ジョーダン『mid90s』

『ミッドサマー』や『Waves』などの「映像と音楽」が最高に気持ちいい映画を連発して、日本でもヒットを飛ばしているA24というスタジオの新作が公開された。Appleとも複数年契約したことが2019年末に発表され、そういうテイストのスタジオだといえばわかりやすいだろうか。

この『mid90s』は、90年代に青春を過ごした人が、再現された空気をまた吸い込むための映画だし、それを知らない人にも、その空気を吸わせたいという制作者の気持ちが伝わってくる映画だった。90年代に流行ったスケートブランドのTシャツやエア・ジョーダンⅤ、スーパーファミコンやハンディカムと魚眼レンズの歪んだスケートビデオの質感。完璧に美術で90年代の若者たちのファッションやガジェットを再現している。

音楽も1996年に監督のジョナ・ヒルが聞いてたものが使われてるんだろう。ウエストサイドのバリバリのギャングスタラップではなく、ウエストサイドのグループでも、イーストサイド風のクールなヒップホップが多く選曲されている。もちろん本家のATCQも使われているし、劇中でもメインキャストがウータンクランのロゴが入ったTシャツを着たりしている。

こんな感じで、90年代の『relax』というマガジンハウスの雑誌が、マーク・ゴンザレスについて特集してたけど、そういう思い出も含めて、全てがこの映画の作り出す空気を吸って僕に蘇ってきた。

警備員役のジェロッド・カーマイケルとスケーターたちがフェンス越しに絡む場面があって、ここが最高に笑えるのだが、映画館ではそれほどウケてなかった。「黒人のくせにシェリル・クロウを聞いてんのか?」みたいなことや、「お前は黒人じゃなくてサモア人か?」っていうのは、僕がニューオリンズに留学していたときもよく聞いた。要は「色が黒いだけで黒人のカルチャーがわかってない」っていいたいんだね。「差別だ」って騒ぐ人がいるかも知れないけど、これ、リアリティのある会話なんだよね。俺も黒人の友達に「ブランニューへビーズなんて聞くなよ、あのバンドには白人が入ってるぜ」って言われたことがある。本当に「こういうのあったな」って感じの場面で、面白かった。

この映画には、ストーリーと呼べるほどのものはなく、そこがこの映画のいいところでもある。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のように、思いっきりあの時代の空気に浸りきればいい。青春映画というのは、「俺は稼げないけど、俺の自由に生きたい」というのが型で、これもそう。稼いで自由になるまでの葛藤を描いている。稼げるようになり、家を出ていけばこの物語は終わる。だからシーンごとに細密に再現された90年代の空気を吸って楽しんでみるといい。それが最高なんだよ。

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パンフの表紙にもなってる大好きな場面、ロサンゼルスの夕暮れの坂道をスケーターたちが下っていく姿がめちゃくちゃエモーショナルだから、ここ見逃さないように。

まだ、マーク・ゴンザレスとかスパイク・ジョーンズの特集の『relax』って買えるんだ。この映画を観たあとに読むとまた格別だろうね。Amazon万歳。

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