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再掲載:短編小説「機械化」



 〝機械化の波がすぐそこまできている〟〝近い将来、ほとんどの仕事が機械に取られるだろう〟そんな言葉を耳にしたのはいつ頃だろう。自宅で祖母の淹れてくれたぬるいお茶を飲みながら、新聞を読んでる時だろうか。それとも会社の食堂で流してるラジオで聞き流していたのだろうか。やはりどれも確信を持てない。しかし、そのとき抱いた感情だけは覚えている。【有り得ない】その短くシンプルな感想であった。




 そんな感想が間違っていたのを知ったのは、つい先日だ。就業場所の倉庫。終礼が終わったタイミングで車内放送が流れた。言葉の端々にノイズを混ぜながら、私の名前とその他20名近い社員の名前が呼ばれた。〝今すぐ管理室に来なさい〟呼ばれた者たちは老若男女入り混じっており、一見すると共通点はない様に思われた。私は先月に続き、きっと誰かが大きな失敗をしたのだと思った。その犯人探しなのだと。しかし、そんな予想は大きく外れることとなる。




 「すまないが、君達がやってる作業はこれから機械が担うことになった。だから自主的に辞めてくれ」30分近い工場長の話をまとめるとそういう事であった。工場長の話の最中、呼びつけられた人間の顔を見渡した。(ああ、なるほど)私はそんなことを思い、納得した。共通点などないと思われた私たちは全員、ピッキング作業員だった。言われた商品を言われた場所に運ぶ仕事。機械化するにはうってつけの仕事であると、私自身納得してしまった。




 「——その様な過去があり、御社の業務内容は今後、機械化される心配はなく安心して勤めることができると考え志望いたしました」私は部屋の端に座る三人の面接官に、志望動機の経緯を溌剌はつらつと答えた。面接官たちは、何やら話し合いその後1番右の男性が私に質問を投げかけた。




 「確かに、我が社が提供している機械は君の前職の会社にもおろしている。そして、機械の不備があれば回収して自社の工場で直す。この仕事は確かに専門性があり、機械化されることはまずない。だが、直す機械は言ってしまえば君の仕事を奪ったかたきでもあるわけだ。そこについてどう思う?」私は少し考えてた。そして、取りつくろった意見を伝えるのではなく、素直な気持ちを話すことにした。その気持ちを伝えれば、機械に対するリスペクトへと繋がるとも考えた。





 「敵だなんてそんな。むしろ機械化を私は推進したいくらいです。だってそうでしょ?機械は事故を起こしません。私の不注意による事故をうけて、前職は機械化の波が進みました。でも、それにより事故がなくなると考えると、私は素晴らしいことだとさえ考えております」私のそんな答えを聞いて、面接官は3人ともキョトンとした表情を浮かべた。その3人の表情こそ、私がこの会社に勤める機会を永遠に失ったサインであった。機械的に答えた方がいいことがあることを、私はこの時ようやく学んだのである。



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