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異語り 145 月明かりの下で

コトガタリ 145 ツキアカリノシタデ

30代 男性

珍しく早めに寝た夜
珍しく夜中に目が覚めた

ついでに用足しに階段を降りる。
トイレはリビングの先にある。


リビングのカーテンを閉め忘れたらしい。
ガラス入りの扉から青白い光が廊下に漏れてきていた
どうやら満月が近いらしく、明かりをつけなくても困ることがない。

ひとまず先に用を足し、戻るついでにリビングの扉を開けた。
庭に面した大きな掃き出し窓から煌々と月明かりが差し込んでいる。

小さな庭のしまい忘れた子供のおもちゃまではっきりと良く見えた。
まるで窓さえ存在しないように感じられる。


どれ、もしかして今夜が満月なのかな?

カーテンを引きながら夜空を見上げた。

青白く輝く球体




が、二つ?


光る球が人の頭上くらいの所に浮かんでいた。
その二つの球がくるくると踊るように空中を舞っている。

球一つはテニスボールぐらいだろうか?
それが二つ
20センチぐらいの距離を保って回っている。


くるくるくるくる


くるくるくるくる


球自体が発光しているようで、まわる軌跡が流れ星しか人魂のようにぼんやりと揺らめいている。
回転は盾になったり、横になったり。
じゃれ合っているように回り続けている。


何だあれは?


もっと上空であればUFOかとも思っただろう

けど、庭の上2・3メートルほどのところにあり、
機械的な雰囲気は全く感じられない。

……どちらかと言えば生物的な気配がする。


ただの用足しのつもりだったので、スマホも持ってきていない。
取りに行くために目を離したら消えてしまう気がする。


怖さはまったく感じない。
ただ無性に引きつけられるような、誘われているような、そんな心持ちになっていた。
そのままじっと球を見つめ続けていた。


もちろん空には本物の月も光り輝いている。

明るい月の光の中
その月光とよく似た光を放ちながら二個の球体は回り続けていた。


とても長く見ていた気がする。
でもきっと数分も経っていなかっただろう。

雲がかかり月明かりが陰るとその球体はぴたりと動くのをやめ、ぱっと消えてなくなってしまった。

突然のできごとに一瞬動揺が走る。
驚く程心細く不安な感じがする。
庭に出て探そうという思いがこみ上げてきたが、窓の立て付けが悪いことを思い出し踏みとどまった。

もしかしたら月明かりが出ればまた現れるかも。
と思い、しばらく庭を眺めていたが、
もう球が現れることはなかった。


昔話にはタヌキやキツネが月に化けて人を騙したなんて話もあるが、
もしかして化かされたんだろうか?

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