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恵まれなかったものたちへ【タイ移住日記2024/06/09】

今一時帰国して実家に滞在している。4月にも帰ってきていたので、日本食は特に恋しくなってはいない。母がおいしいごはんを用意してくれてありがたいのだが、やはり実家とは疲れるものである。


理由①いつの間にかなくなっている自分の部屋

第一に、一度家を出てしまうと、自分の部屋というものはいつの間にかなくなってしまう。残っているのは昔のゲーム機や着なくなった服、本棚に収められた本である。今は海外に持っていきたくても持っていけていない本たちが実家の他の家具の色と合わずに浮いてしまっている本棚に収められている。これは私が実家から遠く離れた京都の大学で学ぶことにし、大学時代に膨大に増えた蔵書を収めるためにとりあえずIKEAで2980円で買った本棚である。日本の本を収めるのに適しておらず、微妙にすき間ができてしまうため、本を横に差してスペースの無駄をなくしている。そんな愛着のある本棚だけが私がそこにいていいのだと思わせてくれる。パーソナルスペースがなくなっているため、私は普段使っていない和室の片隅にある、物置と化している棚の上で、仕事の原稿を書いたり、オンライン塾の授業をこなしている。居心地がとにかく悪いのだ。


理由②だれもが持つ生育家族における問題

第二に、それは場所の問題だけでなく、両親・きょうだいという生育家族に帰ってきたときの居心地の悪さのせいであろう。家族のことは嫌いではないが、一度独り暮らしを経験し、すぐに結婚した身としては、どこか恥ずかしさや、親・きょうだいの存在のうっとうしさを感じてしまう。

生育家族のうっとうしさは人口の9割が感じているだろうと思う。やはりそこは家族という見えないつながりと、自分が選んだ環境ではないからこそなのだろう。

母の話を聞いていると、自分の母親(私からみると祖母)やきょうだいの関係で悩まされているし、生育家族とはそういうものなのだと思い、誰もが受け入れるものなのだと諦めることにした。でも私は両親になんやかんやと言われるのが嫌だったから遠くの大学に通ったのであるし、若くして結婚したのだろうと思う。私の母もたびたび実家に帰るがすぐ帰ってくるのもそういうことだろう。これは人類史で脈々と受け継がれ、人類が克服できないものなのだろう。

理由③お金の話

第三に、最も鬱陶しいのは、私が大企業をやめて妻について海外に移り住んだ結果、現地の仕事を得るのも難しく、日本の企業から記事を書く仕事をもらって細々と稼いではいるが、結婚式費用を賄うことができずお金を貸してもらってからわーわーと言われていることだ。

両親は30代になって結婚しているので感覚が分からないのであろうが、どんなに頑張って働いても20代半ばで結婚した我々に結婚式費用をすべて賄うことは厳しい。ましてやコロナ禍の中で2割ほど減給されていた旅行会社社員にはそんなお金を作ることは難しい。実力不足だなんだと言われるが、なかなか不景気な中転職先も見つからなかった。学生時代のように何十社と面接をしたが、「職務経験が・・・」とかの一点張りで不可能。学生時代に取った資格と言えば、総合旅行業務取扱管理者という旅行会社でしか活かせない国家資格だけだったので、何にも活かせず。

国や社会のせいにするのは悪い事なのか

この文章を見た人の中には、視野狭窄だとか、実力不足だ、とか努力不足だとかいう人もいるだろうが、世の中はいろんなことに縛られている人たちばかりなのだ。第二新卒募集とかいっても結局は「経験重視」とか書いてあったりする。言葉の意味を取り違えている。

この話に共感してもらえるのは、新卒の同期たちだけだ。みんな国家資格をひっさげて大手旅行会社だけしか見ていなかったような人たちなのでめちゃめちゃ転職に苦労していた。そして配属された部署もカスタマーサービスだったので(旅行会社からすると企画と同じぐらい重要な部署)、市場価値が低いとみなされる。海外では立派な職業だが、日本では下に見られる職業なので、職を探すと非正規や今の給料よりはるかに低いコールセンターばかりだ。

なんでも国のせい社会のせいにするなとか、うちの家族はいうのだが、実際そうなのだ。同じ立場になってみなはれ。同じこと思うから。

私は比較的性格の悪いエッセイストなので言いたい事をそのまま言わせてもらうと、本を読まない両親(きょうだいは私同様本の虫)からすると、ものを書く仕事なんてクズ以下だと思っていると思う。多分直木賞をとったとしても、なにそれ状態。一生私は認められないのだろう。大手旅行会社に入社したときは「まあそんなもんだろう」という感じだったが。そこから出て海外に行き、しがないライターをしていて賃金が下がった私を見て、見下しているのだろう。私はあまり褒められたことはないので、常に「コドモ」として扱われているのだと思うが。


正直、休みもなく働いていて(大学院の課題も夜中までやっているし)、帰ってきてこんな環境にいるのがつらい。ただ、用事があるので2週間滞在している。関東にいて実家にいないのも何かといわれる種になるし、お金もないので実家にいるが、本当に疲れるのだ。


大金かついで実家に帰ってくることでしか私は認められないのだろうと思いながらこの文章を終える。



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