夜明けのすべて
私の心をほぐしてくれた、そんな本がある。
そう、「夜明けのすべて」という本。
私を瀬尾まい子さんと出会わせてくれたのもこの本がきっかけだ。
本の帯に心惹かれていつもは手に取らない単行本を、文庫本になるのを待ちきれずに図書カードで購入した。
開いてからはお得意のぶっ通し読みで、気がついたら陽は落ちていた。
主人公の山添くんと藤沢さんの関係は私の大切なあの子との関係に通づるものがあった。
あの子との出会いについては一度書いたので読まれた方もいらっしゃるかもしれない。
私は彼女に対して他とは違う。言葉にするのが難しい、なんだかそんな感情を抱いている。
本を読んでいて真っ先に思い出した彼女との日々は私にとって大切な、けれど誰にも見せたくないような、独占していたいような鍵をかけた宝物だ。
山添さんと藤沢さんの会話の中で、「病気にもランクがあったんだ」というのがある。映画で観たときに山添さんの表情、感情がとても理解できた。
障害だと診断がおりたばかりの頃、よくこの感情に包まれていた。
今もたまに浮き出てくる、なんだか醜い感情。
私の方が辛いのに。あんたはいいよね。
外から見たら普通に擬態できてるから。
障害を持たない人に対しては特に思っていた。
羨ましい、のだろうか。怒りから湧き出るものなのだろうか。
いや、都合のいい時に障害のせいにして毒付いているんだろう。
2人の会話でも、「PMSだからってなんでも言って良いわけじゃないですよ」「分かってる。言っても大丈夫そうだなって思ったから」というのがあった。
この会話が示しているのは2人の距離が縮まった証拠なんだろうけれど。
夜明けのすべてで気づかせてくれたことがたくさんある。
ときに障害のラベルを言い訳に行動したり、感情を認めたりしていたこと。
山添くんがパニック障害になって殻に閉じこもっていた時、なんだか自分の今までを映しているみたいだった。
楽しみ方は一つじゃないこと。
映画には無かったがボヘミアンラプソディのCDを2人が山添さんの家で鑑賞するシーンがある。
好きな時に好きなものを食べられて、好きに止められて、好きにお手洗いに行ける。
普通の映画館ではできないことができる。
聴覚過敏だと診断された時、お医者さんに「ライブに行くのは良くないよ」と言われたとき、目の前が真っ暗になって、悲しくてたまらなかった。
どうせ、観に行けないんだもん。そう言って大好きなアイドルにどっぷりとハマらないようにしていた。
ライブに行けない自分の身体が嫌で堪らなくて、時に大好きなはずのアイドルを嫌いになった。
だけどこの本に出会ってから、好きなアイドルのDVDを手に入れて何度も家で観ている。
好きな時間に止められて、好きなときに好きなものを食べられて、好きな格好でいれて、何回でも楽しめる。
ファンサとか臨場感とか、それは劣ってしまうけれどこれも悪くないな、と気づけた。
どうしても行きたい時は、グッズだけ買いに行ってついでに楽しそうなファンの人達の浮き足だった空気感を味わいに行く。
小さめの箱のライブなら少し無理をすれば行くことができた。
行動範囲が広がったこと。
電車に乗るのも、よく分からないところにいくのも、誰かと一緒には怖い。
家族となら行けるけれど、友人となるとなんだか気が引ける。
迷惑かけてしまうから。不安で不安で楽しむどころじゃなくなる。
だけどだからといって行きたいところに行かない訳じゃない。
1人で行ったっていい。疲れたら休めばいいし、
好きなペースでゆったり電車に揺られるのもいい。体調が悪ければ別の日に行けばいい。
見えなくなっていたものが見えてきた。
世界がほんの少しだけ違う目で見れるようになった。
心がほかほかしてじんわりと泣けてきた。
主演が上白石萌音さんと松村北斗さんだと知ったとき、本当に嬉しかった。観るのがとても楽しみで仕方なかった。
2人は本当に映画の中で生きていて、役として演じている感じがしなくて、日常を切り取ったような感じ。
すごく好きだ。
私の大切なあの子との日々を、あの子への想いを再確認した。
ものすごく会いたくなった。
なんてことない話をしたい。
あの頃のように。
伝えたいこともたくさんある。
だけどもう会えることはほぼない。
もう2度と会えないかもしれない。
そう思うと胸がぎゅっと苦しくなる。
不思議なことに私がつまづいているとき、あの子は元気で、私が元気なとき、あの子がつまづいていた。
だから、助け合えた。
少なくとも私はあの子にすごく救われた。
何度も全てを辞めてしまいそうになったけれど、
今だってそうだけれど、
あの子がくれた言葉、あの子の背中、あの子の笑顔が私を踏みとどまらせてくれる。
あの子を完全には救えなかった。
あの子が今どこにいて、どうしてるのかわからない。
だけど、出会えてよかった。
あの頃の記憶が私を生かしてくれる。
いつも何かあると夜明けのすべてを開いてはあの子との日々を思い出す。
あの出会いはある種の運命だったはず。
あの子の悲しんでる顔が笑顔に変わってほしい。
私のおこがましい、お節介なこともあったかもしれない。
ここまで書いて、終わりの言葉が見つからなくなった。
最近、夜空を見上げるようになった。
そして思う
あの子にもこの夜空は見えている。
生きている限り。
夜空にメッセージが書けたなら。
あの子にも届くかもしれない。
たとえどんなに貴方が貴方を嫌いでいても、
私は貴方のことが大切だ。大好きだ。特別だ。
私たちのが、寛解しますように。
夜明けに怯える日が減りますように。
私たちの波は自分ではどうしようもない。
その波に飲み込まれて、抜け出せない真っ暗な時間を過ごしても夜明けは必ずやってくる。
最近また飲み込まれそうになった。
もうだめだなぁって生きることをやめようとしかけてしまった。
だけど、貴方に無性に会いたくなって、
貴方と約束したことを思い出して、
なんとか踏みとどまれた。
私は自分のことが分からない。
苦しくてしんどくてたまらないとき訳の分からないことをしてしまいそうになる。
死にたい死にたい死にたい。
言葉の刃物に本物の刃物で刺してしまうことがないように。
だけどそうじゃないときももちろんある。
全てが闇なんじゃない。
ほんの一瞬のように短かったあの子との一年。
初めて苦しみを分かち合えたような心が通じ合えたあの時を。
この本はそんな私の拠り所。
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