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北京首都国際空港にて 【ネパール紀行】

日付: 2019/02/19

日本を経って最初に口にしたのは、マクドナルドのフィレオフィッシュだった。

格安航空券を購入した僕は、カトマンドゥに着く前に北京と昆明で乗り換えする必要がある。北京にてグズグズ長い諸々の手続きと深刻な尿意から解放された時、この巨大な空港の中で一番最初に目を弾いたのがマクドナルドだ。そうだ、なんとかバーガーの味比較をしよう。味比較とか偉そうに言うが日本では滅多にマクドナルドに行かなかったため、基準となる味を覚えておらず、そもそもどんなメニューがあるかもはっきりしていない。そこで、一番安いフィレオフィッシュを買って頬張る事とした。激辛い。チェーン店にしては犯罪的な辛さであり、体が火照りに火照って熱くなり、うまく食べられない。基準となる味を覚えていないとしても、これは日本にはない事はよく分かる。死角からいきなり外国の洗礼を浴びてしまった。汗だく格闘しながら食べ終わって立ち上がる頃には、もう日付は変わろうとしていた。

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アホみたいに辛かったフィレオフィッシュ。

真夜中の空港は異様としか言い表せない。テカテカのフローリングの上を警察車両が巡視している。警備員もウロウロしており、なにやら物騒な雰囲気である。そんな景色を横目に自分は案内板に沿って第2ターミナル目指して移動していたのだが、自動ドアが開かずに第3ターミナルに閉じこめられてしまった。中国ではドアの権利が強く、時間外労働がキツく規制されているらしい。夜勤の自動ドアは探せど探せどなかなか見つからない。「 」マークの受付に聞けば間違いないと考え、夜勤中のお姉さんに尋ねた所、ダルそうにターミナル2の案内をしてくれたのだが、それらしき自動ドアも眠っていた。朝5:55の出航にさえ間に合えば良いため、時間にはかなりの余裕があったのだが、移動の検討すら立たず焦り始めた。余裕のあるうちに全ての自動ドアを試そうと回った所、「それらしき自動ドア」の近くのドアが開いてくれた。最初、北京首都国際空港は空港スタッフでさえ惑わすのかと思ったのだが、ただ単に僕が説明を理解出来ていなかっただけみたいだった。

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警備員と警察車両とテカテカのフローリング。滑りやすい訳ではない。

ターミナル間はシャトルバスで繋がれており、深夜帯でも比較的頻繁に行き来している。どうやらバスの権利はドアの権利より弱いみたいだった。異常に路駐が多い道路を15分ほど移動し、第2ターミナルに到着した。現代版の九龍城の如く迷路化した第3ターミナルとは違い、第2ターミナルではすんなりと目的のチェックインカウンターは見つかる。
3時間の余裕ある。色々あって疲れた。どこかで寝よう。そう思って寝心地の良さそうなベンチを探したのだが、どこもホテルを出す金を渋っている人に占拠されている。同胞意識が芽生えた。同胞意識が潰れないうちに、隠れた一角に空いているベンチを見つけた。近くには給水機もあり、なかなかの好場所である。固めのベンチではあったが疲れが溜まっていたんだと思う、その上で横になっているとうつらうつらいつの間にか寝ていた。

10分もしないうちに叩き起された。半ばびっくりして目を開けると、目の前には2人の警官が立っている。僕を中国人だと思っているのだろう、何やら早口の中国語で話しかけてくる。もしかしら、このスペースは立ち入り禁止区域かもしれない。法外な罰金を科されてしまったらどうしよう。外国人に対する処置はいろいろめんどくさいかもしれない。ビクビクしながら「私は日本人です」と伝えると、僕以上に警官が困った様子となってしまった。どうやら中国語しか喋れないらしい。しかし、すぐに英語を喋れる他の警官を近くから呼びつけてきた。「国籍は?パスポート見せて。どこに向かう予定だ?何しているんだ?」。ははぁ、これは職質だな。そうなると先ほどまでの違反罰金に対する怯えはなくなる。よくよく考えると人生初の職務質問であって記念すべき事態なのだが、寝起きのだるさが勝り、機械的に答えるだけになる。早く去ってくれ、また寝たいんだ。だが、最後の質問の後に警官はとんでもないことを言った。「ベンチで寝ないで、他の場所に行って」。え、どこにと聞いたが、警官はそのまま急ぎ足で隣に行き、他の人を起こし始めた。どうやらベンチで寝ている人を根こそぎ移動させまくっているらしい。別に反抗する気は全くなかったため素直に荷物をまとめて立ち上がる。さて、どうしたものかと言う気持ちで給水機まで行ってとりあえずの水を飲む。すると、まだまだ始発の時間は先なのに、昆明行きチェックインカウンターに列ができ始めている。並んでいる人が座っていたり寝転がって寝ようとしているのを見ると、どうやらベンチを追い出された人達らしい。自分もそこに加わる事にした。

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中国の紙コップ。置かせる気がない。

列の最後尾に並んでザックの上に座った時、ようやく、本当にようやく休める事ができた。長い1日だったなーとかなんとなしに思っていた時、今自分がここにいる事を発見した。つい半日前まで現実感がなく宙に浮いていたのに、今はちょっとしたハプニングをいくつも経験してここにいる。大発見だ。ミライのワタシが今の私になっていた。これから1ヶ月の旅行に出るのだ!

そんな事にしばらく思いを馳せ、気がついた時には列は後ろにグッと伸びていた。隣の方は持ち物を枕に寝ている。この国内線に並ぶ人のほとんどは中国の人だろう。また、みんな、僕のことを同国の人だと思っている。確信に近い気持ちが、心地良かった。この時、僕の気持ちは火照っていたけど、きっとそれはフィレオフィッシュのせいではないだろうなと思った。

次回「昆明経由 カトマンドゥ

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