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「大ばあちゃんの戦争」

「あれは戦後すぐのことやった。敦子と典子は進駐軍のジープにはねられて。それがもとで死んでしもうたんよ。二人ともまだ、あんなに小さかったのに……」

八月が近づくと、いつも
祖母が話していたのは
敦子おばちゃんと典子おばちゃんのこと
母の幼くして亡くなった妹たち
詳しく話すわけでは無い
これだけのことを語っては
あとは黙ってしまう
その沈黙が余計に
祖母の何十年経とうと
癒えぬ哀しみを物語っているようだった


コロナ禍の中で
この国の政治家たちが
やっていることはなんだ
これを、わたしたちは
結局、許してしまうのか
それではまた
繰り返してしまうことにはならないのか

国の政治家と呼ばれる偉い人たちは
何故こんなにも簡単に
忘れてしまうのだろう

いや、忘れてしまうのは
今を生きるわたしたちも
同じなのかもしれない

多くの人たちの中の一人でも
誰かにとっては
かけがえのない、たった一人なのに

いつの間にか忘れて
自分には無関係だと思っていたら
当事者になっていたりする

それが戦争というものの
厄災というものの
恐ろしさではなかったか

戦争を知っていた祖母も
戦後の混乱を知る父母も、もう今はいない
わたしは戦争を知らない

でも大ばあちゃんの戦争の話を
わたしは忘れられないのだ
終わってからさえも失われてしまった命


命の重さの意味を
わたしたちは考えなければ

今、この時代だからこそ
目を逸らさずに

もう一度。


【詩集】「満月音匣」つきの より

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