エッセイ◆夜の時間◆
子供の頃は、夜はただ怖いものだった。
怖がりのくせに怖いもの見たさで、ホラー漫画なんぞを読んだりするから、夜になってから後悔をする。
『楳図かずお』さんの絵は未だにトラウマだ。ギャグ漫画として一世を風靡した「まことちゃん」も、わたしにとっては絵柄故に怖かった。それほどのインパクトがあるという事は凄い作家さんである証拠だろうけど。
吸血鬼ドラキュラのことを知ってからは、枕元にお手製の十字架(割り箸で作ったり、手芸で使うモールを使ったり)を寝る前に並べて置いておくということをしていた。
感受性が豊かというと聞こえがいいが、なに、ものすごく気が小さくて臆病者だっただけだ。
そんな数限りないホラー(というか怪奇)漫画は大抵、近所の貸本屋さんで借りていた。
大体がちょっと覗いてみてみたいだけで、購入して手元に置いておくなどという恐ろしいことはできぬ。
まかり間違って我が身に降りかかったりしたら堪らない。
あくまで絶対に安全なところから片目を瞑りながら覗くだけ。お猪口の器と卑小さは幼少の頃からであった。
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そんなわたしが夜に惹かれるようになったのは、いつからだったろうか。
本当の意味で何かを失うということを知った時。
待ったもやり直しもきかずに、瞬間は呆然とするばかりで実感など湧かず、それは静かになった頃にやってくる。
気が付かないフリをしてやり過ごそうとしても、決してやり過ごせないことを思い知る瞬間。
その時に初めて、寄り添ってくれる夜の顔を垣間見れた気がした。
昼間は騒がしすぎて太陽は強く眩しすぎて、目を開けているのが辛すぎた。
静謐な夜の闇と仄かな月の明かりが心に沁みた。
怖いのは夜の闇ではなくて、自分の寄る辺なさだった。陽の光の下に剥き出しにされたものに耐えられなかった。
眠れない夜の時間。
夜空を見た。星を見て、月を見て、街の灯を見た。
沢山の本を読んだ。絵を見た。静かな時間の中、本の世界を旅してまわった。
イヤホンをつけて小さく音楽をかけた。
色々な曲を聴いた。
繰り返し同じ曲ばかり聴いたりもした。
夜は優しかった。
優しいばかりでなく甘やかな腐敗の匂いもして、それがまた、わたしを惹き付けた。
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「うつし世は夢 夜の夢こそまこと」
◆◆◆◆◆◆ 江戸川乱歩 ◆◆◆ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
とても好きな言葉。
まさに、わたしの夜の時間は此処にあった。
それから、わたしは密かに夜の住人になった。
夜の端っこで丸くなって眠る。
月が時々、頭を撫でてくれる。
「いつかこんな冬の終わりに─心象風景の欠片たち─」つきの より
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