「この道の果て」
むかし
わたしがまだちいさかったころ
おばあちゃんと
おとうさんと
おかあさんが
そこにいてくれたころ
すべてはあたりまえで
そのなかでなんのふしぎもなく
わたしはわらっていた
それから
わたしは、おさなごから少女になり
死という言葉を知る
それでもそれは
まだ言葉でしかなくて
怖いものだと思っても
身に迫るものではなかった
大切なひとがいなくなるという
たまにみることのある悪夢で怯えはしても
時は過ぎ
ああ、人生の砂時計の、この一粒が
落ちていく速度はこんなにも早かったのか
居なくなるということ
家族の誰一人が欠けても
耐えられるはずがないと思っていたのに
一人、また、一人と逝く姿を見送り
わたしはそれでもまだ
こうして立っているのだった
むかしには絶対に耐えられないと
そう思っていたことに
何とかでも、こうして耐えている
みんなこんなふうにして
生きているのだと他人(ひと)は言う
そんなことはわかっているけれど
足元のグラグラするような
この心細さとやるせなさに目が眩む
むかし
わたしの世界はまだ始まったばかりで
わたしは本当の寂しさも怖さも
痛みの逃げ場のない行き止まりも苦しみも
知らなかった、わかっていなかった
おさなごのわたしが無邪気に笑っている
もう還れない遠い遠いこの道の果てで
今
わたしは、それを見つめながら
ただ立ち尽くして
ほろほろと涙の滴をこぼしている
【詩集】「黄昏月幻想」つきの より
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