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[小説]おばあちゃんとピアノ

ピアノを弾くおばあちゃんのストーリーがふと浮かんだ。

短編小説風に書いてみよう

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おばあちゃんが小さいころ、親に連れられ見に行ったピアノコンサート。

街でいちばん大きな劇場でやるというので、
少しおめかししてお出かけした。

慣れない人混み、厳かな劇場の空気になぜかこっちが緊張していた。

舞台は光で照らされ、客席は暗くなった。


みんなが静まりかえる中、
自分よりも10こくらい年上なのか、きれいなお姉さんが袖から出てきて、
ペコリと頭を下げピアノにすわった。

それはなんとも楽しそうに弾いていた。

会場中の拍手。


帰り道、両親に向かって
「わたしもいつか、おねえさんみたいにあの劇場でピアノをひくの!」
興奮をおさえられない様子ではしゃいだ。



年月は経つ。


ピアノの音が耳に入ってくる。

最近ピアノをはじめた、8歳になる孫娘。
リビングで楽しそうにひいている。


初心者向けの入門曲として有名な曲。
自分も同じくらいの年のころに何度も弾いてきたので、聴いているだけで思わず手元が動いてしまう。


左小指をつかう場面。
戦争の空爆による火事で失ったはずの小指が、ポンと音をはじいた気がした。



「まだ、とちゅうまでしか、習ってないの。」
そういって孫娘がこちらにかけよってくる。


「おばあちゃんもひいて!」と無邪気に手をひかれる


「・・・おばあちゃん、痛かった?ごめんなさい。」

おばあちゃんの顔が曇ったのをみて
孫娘が心配する。

「いや、大丈夫だよ。」
心を察されないように、やさしく言う。



そっと。

鍵盤に手を置いてみる。

50年ぶりの感触のはずだったが、
不思議と昨日まで弾いてきたような馴染みがある。


簡単な入門曲を、頭から。
驚くことに、指はよく覚えていた。


左小指を隣の指で代用するのが少しややこしい。


弾き終えると、孫娘が目を輝かせている。

「なんで弾けるの??わたしも、おばあちゃんみたいに弾けるようになる!」



あのコンサートの帰り道、
両親はこんな気持ちで、この純粋な希望に満ちた目を見ていたのかもしれない。


孫娘のはずむ声に相槌をうちながら、
まだ耳に残っているあの日の音を思い出す。

左小指で弾くはずだったその鍵盤を、しばらく見つめていた。

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