フリーモントの思い出
カリフォルニア州のサンフランシスコ南部に位置するフリーモント。西海岸の夜は遅く、日が沈むのが 20:30 頃になります。
そこから、サンフランシスコ・ベイに沈む夕日を眺めるのが好きでした。
フリーモントには、以前の仕事で何度が訪れました。とある企業の研究所に、電子ビーム装置を納めて所定の性能が出るように調整する仕事でした。
ESTAで登録をしただけでしたので、1回の出張期間は3ヶ月。その間に、装置の据付から、試運転調整、性能評価まで終えて帰ってくるという、なかなかハードなスケジュールでした。
カバー写真は、そんな仕事の合間に、リフレッシュのために散歩した、アラメダ川トレイルから撮ったものです。
●周りが必死な環境で成長できた
その会社はアメリカの企業であるにもかかわらず、私が関わったプロジェクトのリーダーは中華系マレーシア人。メンバーも、中国人、台湾人、韓国人、インド人と、皆アジア系の方でした。
特に多かったのが、中国人でした。私はアメリカを訪れたのは、その出張が初めてだったので、それだけ沢山の日本を除くアジア人が、アメリカで仕事をしているという事に驚きました。
私が滞在した、ウォームスプリングのあたりは特にそうなのかもしれませんが、よく行ったレストランもタイ料理、インド料理、ベトナム料理、中華料理など、アジア料理のバラエティが豊かでした。そのおかげで、食事には全く不自由しませんでしたが。
チームのメンバーと仕事をしていて特に感じたのは、みんな成果を出すのに必死だという事です。そもそも、全く土地勘のない海外に移住して職を得るということ自体、当時の私にはとても勇気があると感じていました。
そして、特に中国から来た人がそうなのかもしれませんが、おそらく自由と豊かさを求めてアメリカに移り住んだのだと思います。だから、仕事を続けるために、結果を出すことにこだわって、必死に働いているのです。
但し、仕事一辺倒というわけではありません。一緒に食事をするときは、美味しいものにこだわり、仕事を忘れているかのようにその時間を楽しみます。また、週末は金曜日の午後からバーベキューの準備を初めてしまうくらい、遊びにも真剣です。
つまり、一瞬一瞬の時間を常に有意義なものにしようとしていると感じました。そして、本来お客ではなく協力会社である私の事も、全力でもてなそうと色々なところに連れて行ってくれました。
それまで私は、日本でしか仕事をした事が無かったので、今までの働き方が、とりあえず時間まで会社にいて、真面目に仕事をしているふりをしていただけだったと感じました。そして、口を開けば上司がどうだ、部下がどうだという話ばかりだったのが、とても恥ずかしく思いました。
私もそんな雰囲気に刺激を受け、とにかく滞在期間内に装置の性能を何としても出すという覚悟を改めて決めました。結果を早く出せるように、前倒ししたスケジュールから逆算して手順を組立て、集中して作業に当たりました。
この経験が、おそらく私の仕事への考え方を180°変えたのだと思います。そして、自分でも成長を実感できた時間となりました。
●決められた事ではなくベストな手段を考える
その研究所には、私が納めた装置の他にもう一台、同じタイプの装置がありました。しかし、その装置はビームの絞りが安定せず、性能が出たり出なかったりする問題がありました。
私はそもそも、マニュアルに示されたビームアライメントの調整方法に疑問があったのですが、社内ではマニュアル通りで調整をして、性能を出す必要があったので、従来通りの出荷検査しかしていませんでした。
しかし、現地では私の責任で性能を出す必要があります。そのため、同じレンズ構成の装置で行っていた、別の調整方法を試すことにしました。
すると、私の予想通り、今までに無い程安定したビームの絞りを得ることが出来ました。それからは作業が順調で、リーダーが希望していた所定のパターンでの調整も行う事が出来ました。
プロジェクトメンバーの中には、日本から来た私を信用していないのか、新しい装置が信用できないのかわかりませんが、当初から悪態をついてくる人もいました。しかし、調整結果が出てリーダーが満足している様子を見ると、途端に態度を軟化させてきました。
結果にこだわり、何がベストかを考えて行動した事が認められたと感じ、それが大きな成功体験になりました。
●人よりも仕事に本気で向き合う
日本は、「仕事は人」という考え方が強いです。もちろん、人と関わらないで完結する仕事などありませんから、人間関係を構築するのも大事です。
ただ、それは目的ではありません。仕事の結果を出すために、チームワークだったりコミュニケーションがあるわけです。
しかし、結果を出す事よりも、人を思い通りに動かすことが目的となっているケースが多いように感じます。そのために、地位や立場を重視し、「忖度」という文化が出来上がってしまったのではないでしょうか。
その仕事の中で何回か会議があったのですが、プロジェクトリーダーの上司も、
「誰が発言したことか」
よりも
「その提案が結果につながるかどうか」
をとても重視していました。だから、まともに英語が喋れない私がたどたどしく話した内容も、現場の専門家の意見という事で、真剣に耳を傾けていました。(そのため、事あるごとに意見を求められたのがすごく困りましたが。)
●結果を出すためのプロセス重視
さらに得た気付きもありました。
「結果重視」についてよくある勘違いとして、
「結果が出ればその過程は問わない」
という意見を時々耳にします。特に、成果主義と言われる組織では、その傾向が強いようです。
しかし、私がこれまで関わってきた外資系の企業は、確かに「成果主義」ではあるのですが、
「結果につなげるためにプロセスにもこだわる」
という感じでした。フリーモントのその会社でも、納入した装置の性能検査が円滑に進められるように、何か問題があるかをリーダーが毎日のように質問してきて、改善してくれていました。
ある時、検査のために使用する設備が、他の研究と被っていて空いている時間がなかなか使えず、夜中に検査をして次の日に調整をするという作業のサイクルになった事がありました。そういう事があると、当然作業効率も落ちるため、相談をしたところ、研究所全体にプロジェクトの作業を共有し、必要な時に設備を使わせてもらえるよう、協力を呼び掛けてくれたのです。
おそらく日本の多くの会社であれば、
「そんな細かい事は当事者同士でうまく調整してくれ」
という事になりそうです。しかし、結果を出すプロセスを重視し、上から見ると些細な事ととらえられがちな問題でも、
まず目的意識を共有し、リーダーが率先して方向性を示す
ことで、解決に向かう姿勢がとても好印象でした。
これは、メンバーのモチベーションアップにもつながります。
その後、メンテナンスも含めて何度か出張したのですが、最後の訪問となった最終日にそのリーダーから、
"Do you want to work here?"
と言って下さいました。私は体が熱くなるくらい嬉しかったのですが、
"If so, I have to study English more."
と言って、言葉を濁してしまったんです。決断できなかったんですね。
もしあの時、
"Yes, I want to work with you!"
と素直に返事をしていれば、私の人生はもっと違ったものになっていただろうと、時折あの目がくらみそうな程眩しい夕日とともに、思い出すのです。
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