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クリエイティブジャンプ 話題のホテルプロデューサーに学ぶ

コンセプチュアルなホテルを生み出してきた話題のホテルプロデューサー龍崎翔子さんの書籍【クリエイティブジャンプ 世界を3ミリ面白くする仕事術】を読了しました。
龍崎さんは、以前参加したTHECREATIVEACADEMYにも講師として登壇され、ずっと注目していた方。以前、龍崎さんがプロデュースされた金沢のホテル「香林居」も足を運びましたが、穏やかな時間が流れる空間、佇まいに美意識を感じました。

特に新規事業や企画を仕事にする方のヒントになるエッセンスが詰まっているので、ぜひ読んでみて頂きたいです。
本書の一部と感想をシェアしたいと思います。


クリエイティブジャンプとは

本書では、クリエイティブジャンプを以下のように定義しています。

目の前の難題を突破していく不思議な力の正体ーそれが"非連続な思考"から生まれる『クリエイティブジャンプ』です。
目の前の逆境に屈せず、仕事をするうえでたちはだかる壁を一足飛びに越えていくための翼であり、『持たざる者』たちが限られた手札でゲームチェンジを起こすための武器であり、課題に立ち向かい挑戦している全てのビジネスパーソンに活きる考え方なのです。クリエイティブジャンプは5つの要素から成り立つと言います。

①本質をディグる アセットの再定義
②空気感を言語化する 文脈の理解
③インサイトを深掘りする 顧客心理の観察
④異質なものとマッシュアップする アイデアの後配
⑤誘い文句をデザインする UGCを生む仕掛け

①本質をディグる

ディグるとは、dig(掘る)という英単語に由来する「探す、掘り起こす、発見する」という意味のスラングです。
まず最初に自分が軸足をおいているアセット(資産・資源)が何なのかをよく知ることが大事になってきます。
この時、アセットを真正面から捉えるのではなく、他の定義に読み替えることができないかという視点で眺めてみることが重要になります。既存の概念から離れて「見立て」をしてみることで、アセットの新たな価値や事業ドメインのポテンシャルも見えやすくなります。ホテルの場合、「旅先の寝床」という定義から「旅のセーブポイント」「オールナイトで過ごせる箱」「人が人をケアする場所」といったように新しい定義をつくることで新しい価値が生まれます。本質をディグる時に重要になるのが「そもそも」アセットがどんな要素からなっているのか「因数分解」することです。図書館であれば、本がたくさんある、子どもが利用しやすい場、地域の拠点になる、無料で利用できる、等多くの要素で成り立っていることがわかります。その他にも、軸足とするアセットと近しい「仲間」を探しその共通点を言語化する方法や顧客の観察から新しい価値を発見する方法などが本書に記されています。

②空気感を言語化する

良いクリエイティブとは、お客さんとのコミュニケーションであり、社会に対する意思表明。人々がどんな時代を生き、どんな空気を感じ取っているのか、そんな人々にどんなメッセージを伝えてどんな気分になってほしいのか。そんな世間に漂うムードを踏まえて社会とのコミュニケーションをとることが重要です。そして、良いクリエイティブとは常識に対する「裏切り」によって成り立っているという視点も重要です。アイデアに驚きや為害性がなければ人の心に残りません。時代の空気を掴むのに重要な視点は「比較し相対化する」「象徴的なキーワードを掴む」「時代の変遷を踏まえて解釈する」という3点です。過去の出来事や価値観を紐解くことで今の人々の「気分」の方向性が見えてくるのです。ホテル開発においては、土地の空気感を把握することも重要です。土地のブランドイメージを考える上では、土地ならではの個性や空気感を探しどのベクトルで突出しているのかを発見し言語化するアプローチが大切です。街の歴史や現地の人の声、実際に足を運んだ際のインスピレーション、、様々な観点から土地の魅力を発掘し、「ここでなければ得られない」唯一無二の宿泊体験が生み出されているのです。詳しい具体事例はぜひ本書をお読みください!

③インサイトを深堀りする

自分達の事業がどのような課題を抱えていて、誰をターゲットにするべきかのアタリをつけ、ターゲットとなる方々が「思わず動いてしまいたくなる」心の中のツボがどこにあるのかを探ります。人が商品を選ぶ時、行動を突き動かすのは無意識であることが多いのも事実です。そのため、顧客の無意識下にある行動や欲求のツボ(=インサイト)が一体何なのかを仮説とともに探っていくことが重要になります。インサイトの発見には、日頃から自身の無意識を言語化していくトレーニングを積むことが重要です。洗剤の商品開発におけるインサイトの発掘においては「行動シーンを想像する」「行動の背景を言語化する」「なぜ?を問い直す」という視点が重要です。ライオンの事例では、消費者調査により、洗濯の判断基準は汚れではなく匂いというインサイトを発掘し、CMでは匂いを落とす洗剤という打ち出し方をすることで目標の130%を達成したといいます。このことからも、いかに顧客目線でリサーチを行い、表現のクリエイティブと連動させていくかの大切さがわかります。

④異質なものとマッシュアップする

インサイトに対する企業やブランドから消費者の提案をプロポジションと言います。プロポジションをもとにアイデアが、広がっていきます。牛乳を飲みたくなるのはクッキーを食べて口がパサパサした時というインサイトに対し、お菓子やクッキーで水分を持っていかれた口を潤すために牛乳を飲みませんか、という提案がプロポジションです。
世の中にあるアイデアのほとんどは掛け合わせでできています。事業の渋い局面を打開していくアイデアの多くも掛け合わせ(定数×変数)でできています。定数は自社の事業。変数は新しいワード。ホテル×時計、やホテル×薬など、たとえば生活の要素とのかけ算で意外性のある組み合わせを考えるとアイデアが生まれます。常識を裏切る組み合わせになっているか、意識することで人の心が動く企画になっていくと言います。

⑤誘い文句をデザインする

PR戦略において大切なのは「どう発信するか」ではなく周りの人に「どう発信してもらうか」UGC(User Generated Contents=利用者が生み出すコンテンツ)が生まれやすい環境をどう整え、どうパッケージとして実装するか、が重要になってきます。UGCの効果は質×量の2つの軸が重要と言います。体験を想起でき、特異性をシンプルに理解できる説明しやすさ、飲み会でつい友人に教えたくなるようなフレーズをどう設計するか、そこから逆算してアイデアをブラッシュアップさせていくことが大切です。

スモールスタートではじめよう

「ひのきの棒と布の服で旅を始めよう」そんなメッセージから本書は始まります。東大卒、19歳で起業、そんな肩書きから、龍崎さんは天才だったから成功したのだと思いがちですが、「ゲームを始める時、最初から最強の剣や盾を持っているプレイヤーはいない」と言います。龍崎さんのホテル経営のスタートは、北海道富良野の中古ペンションからだったと言います。当時は「資金もない、スタッフもいない、お客さんも来ない、知識や経験ノウハウもない。そんな中でこれからホテルを運営し、会社を育てていかないといけない」という状況だったようです。このような決して全て条件が揃った状況ではないところから、物語は始まったのです。

誰しもが初めはひのきの棒と布の服で大地を踏みしめ弱い敵を倒しながら経験値や装備を獲得してゆくもの。今有名になっているブランドも、みな最初から多くを手にしていた訳ではなく、自分の手の中にある限られた素材を組み合わせ、価値を生み出し、目の前に立ち塞がる壁を打破してきている。手元にある持ち物を組み合わせて、本来のポテンシャル以上の力を生み出す、それこそがクリエイティブジャンプの本質である。

そんな龍崎さんの起業エピソードから、大事なのは恵まれた条件やスキルの武装以上に「何もないところから一歩踏み出す勇気」なのだと感じました。

挑戦する全てのビジネスパーソンの武器になる「クリエイティブ」な視点

本書を通じて、改めて感じたのがクリエイティブな視点は今後正解のない問いに挑む全てのビジネスパーソンに役に立つ力だと確信しました。
今私は「デザイン経営」という分野を学び直しているのですが、これまで学んできた知識の繋がりを実感しています。経済産業省が出している「未来人材ビジョン」からも2050年に求められる力は「問題発見力」であり、それには常識にとらわれず本質を問い直すクリエイティブな視点が活きてくると感じます。

経済産業省 未来人材ビジョンより引用
経済産業省 未来人材ビジョンより引用

電通においても、広告領域にとどまらず、事業を拡大していく姿勢を示しています。看板を「広告・マーケティング会社」から「Integrated Growth Partner(IGP)」に掛け替え、「企業の成長」を統合的に支援していくというのです。

私自身の実体験としても、営業の場面で顧客とコミュニケーションをとる中で、顧客の抱える課題・ニーズは多様化しており、自社の事業領域を越境した解決策が必要になってくることが多々あります。
専門分野を強みに持ちつつも、業界の枠を超えたアンテナを張っておきたいものです。
変化が激しくVUCAの時代。幅広い視野と知見、クリエイティブな視点と野望を胸に、今日も課題解決に挑んでいきましょう!

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