命の経済(ジャック・アタリ)

<本書の要約> 欧州最高峰の知性が訴えるのは、事実から目を背けずに向き合い、真実を語ることの重要性である。歴史を紐解き、現状を分析し、未来を見通す。傍観者でも、隷属者でもなく、みずから主体的に生きる存在となるために。

来るべき未来が分かっていながら備えていなかった、これを見事にパンデミックを経験して思い知らされたわけですが、本書では、医療制度の軽視、利己主義、貧困層など非持続的なシステムが故にパンデミックになったことに対する警告、資本主義の歪み、疲弊している民主主義、グローバライゼーションによる極端な依存社会にも焦点を当てています。社会(インフラ)設計では都市集中型から自律分散化社会・地産地消への移行を後押し。

パンデミックを戦争に例え、パンデミックが発生した背景分析は納得です。

パンデミックにより明らかになった2組は、経済的(株式市場)での勝ち組、大きな需要が明らかになった組。逆にパンデミックにより必要性を問われる自動車、航空、工作機械、ファッション、プラスティック、化石燃料、観光、贅沢品などは業界再編が必須、これらネガティブな影響を受けている業界・業態は全て環境の敵である。

<本書からの抜粋>

:パンデミックは既に進行中の変化を加速させ、それまで存在しなかったイデオロギーや合法権力を生み出し、新たな指導者の登場を促し、地政学を一変させる。

:疫病は、家族・都市・人民を破壊し、個人の命と死の尊さを否定し、王朝・宗教・帝国の消滅を加速させた。

:感染爆発を許した背景 - 1.医療制度を国の財産でなく負担だと見做すイデオロギー、2.相互依存が進んでいた (出張・会合・旅行は増加の一途を辿った)、3.自己満足し、自らを過信した人類は”悲劇は起こり得る”感覚を失った、4.利己主義、偏狭な視点、他人の考えを受け入れない態度が幅を利かすようになっていた。世界は、軽薄、利己主義、不誠実、不安定で溢れかえっていた、5.世界から見捨てられた層の存在。全てが非持続的であり、もはや許容しがたい状態にあると誰もが無意識の内に感じていた。抜本的な変革が必要だった。

:公的債務を削減するには、①借り手(納税者)がきちんと返済する、②借り手が借金を踏み倒す、③戦争、④経済成長、の4つ。どの手段も望ましくも可能でもない。そして、公的債務の責任を中央銀行に押し付け、中央銀行が国、銀行、企業に以前にも増して資金提供する。この場合、改革は行われない。

:保護主義への回帰は衰退への道。戦争が起きるたびに徹底した保護主義が導入され、殆どの場合覇権国家が表舞台から消えた。となると今回の危機を経験した後はアメリカ・中国が覇権国家となるのでなく、覇権国家の無い世界に向かう変化が加速する。

:今回のパンデミックは、長期的な問題を先送りすると、その準備不足により高い代償を支払うことになると思い出させてくれる機会でもある。

<私の所感> パンデミックを経験してパラダイムシフトが必要であることが認識から実行に移ったことは人類の進化。命の経済のコンセプトを自分の投資先の企業群や事業に当て嵌めてブレが無いか今後考えていかなければならないことは必須。成長や利益や株主のみ気にした企業経営は長く続かないし生存することでさえ許されなくなる社会になるはず。また、環境の敵とされ今回のパンデミックで需要が著しく落ちた業界は早急な再編が期待されるが、例えば観光業を高齢者向けの施設やサービスに変身させるアイデアは非常に画期的だし実現可能な領域だと考えました。プラスであれば継続、マイナスであればプラスに変換することをスピート感を持ってやるだけ。 



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