小論文特講 特別篇⑴


 以下の詩は東京メトロ主催の文学大賞募集 優秀賞作品です。この詩の問題点を上げなさい。また、可能な限り原作のコンセプトを生かしながら、より良い作品に改作しなさい。

画像1

<問題点>
⑴「出る」のは「地下鉄」ではなく、「地下鉄の駅」。
⑵「イチョウ並木」と「空」の間に視界の高低差があるにも関わらず、「に」で直結されている。「イチョウ並木の『向こうに』青空が…」など、高低差を感じさせる言葉が必要。
⑶「上昇」は時間の経過を伴う長時制の言葉。これと、短時制の「突然」を直結させてはならない。「風は上昇した。『かと思うと』、突然、青空に当って」が妥当。
⑷「風」が「砕ける」ことが、詩全体の情景を伝えることに機能していない。
⑸「風は…懐かしんだ」と擬人化する必要性がない。「風」は感動の焦点ではないはず。
⑹「と、」だけでは視点の変化を感じさせ得ない。「ふと、対面のビルを見上げると」などが妥当。ビル群を見上げた当初は、「ゴンドラ」は視界に入っていなかったはず。
⑺「登り」は過程。この情景下では、清掃員は既に「登って」いたはず。時制上、「ゴンドラに乗った清掃員」の方が適切。
⑻句点が用いられている点から、散文詩の形態を取ったと思われる。そうでなくとも、情景が一変する「陽が落ち」てからの夕刻の光景は、連、段落を変えて綴るべき。また、現実的に、同じビル群を昼夜を通して見上げるためには、近隣のオフィス等で仕事をするなどのシチュエーションが必要。
⑼「三日月」が「心を奪われた」と擬人化する必要性がない。


<改作案>
 地下鉄の駅の階段を上ると、銀杏並木の向こうに青空が広がっていた。天空を反射するビルの壁。ガラスキューブの鏡の中に青空が映る。
 向かいのビルの窓にはゴンドラに乗った清掃員たち。ガラスに映る白昼の三日月の磨き上げに余念がない。
 夕刻、所用を済ませ、地下鉄の駅に入ろうとした私の頭上に、三日月が輝く。昼間、窓ガラスの中に収まっていた月は、都会に煌めくネオンの銀河を従えて、天空から私を照らした。

                                                   studyliving

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?