バンギャには、なぜメンヘラが多いのか
さて前にお知らせした「祝いと呪い」企画の第1段。今回は「V系にハマる人(通称・バンギャ)は、なぜ病むのか」という音楽史に残る命題について書く。
このために数年ぶりにV系のバンドのライブにいき、小動物のように震えながらファンの方におそるおそる声をかけ、新宿のカフェで座談会を催していただいた。バンギャからの生の声もほぼ無編集でお届けする。
バンギャとは?
私が初めてビジュアル系のライブを観たのは14歳でしたね。放課後、友人に誘われて制服のまま福岡・親不孝通りのライブハウスに行き、轟音のなかでほこりっぽい地下への階段を下りて受付にドリンク代を払い、ドアを開けた瞬間のショックは今でも覚えています。
舞台には2300年くらいに流行りそうな奇抜な衣装に身を包むバンドメンバーがいた。棘だらけの薔薇が巻かれたハンドマイクを持つボーカル。舞うことを優先するあまり運指が追い付いていないギタリスト。バスドラムにはミッフィーが貼り付けられており、踏むたびに大きく痙攣している。アンプの上には全身に五寸釘を指された忍者ハットリくんが息絶えている。そしてフロアにはバンドに向けて手をひらひらさせながら踊る50人ほどの若い女性たち(なぜかみんなクロックス)……。「帰ろう。ここ……だめだよ。これ……やばいよ。帰ろう」と涙目で懇願する私を見て友人は爆笑。結局ラストまでたっぷり観て、ぽけーっとした頭でふわふわママチャリをこいで帰ったことを覚えている。
今考えると、あれが「バンギャ」だったわけだ。フロアで手をひらひらさせて”咲いたり”、身体をガラケーの用に折り畳みながらヘドバンをする民族を、人は「バンギャ」と呼ぶ。彼女らのイメージとして真っ先に挙がるのは「メンヘラ」だ。なぜか。想像すると以下の3点が挙がった。
1.恰好が奇抜だから
バンギャは基本的に奇抜な恰好をしている。原色と黒の組み合わせコーデを恐れない。また人の4倍は身体に穴を開けている。耳だけではない。鼻や口、へそなどに数十のピアスがある。またボディステッチをしている率も高く、てのひらに六芒星がある。いったい何を錬金しようとしているのか。
2.なんかボロボロだから
バンギャは基本的に強靭ではない。マッチョはいない。痩せまくっている。またそれに輪をかけるようにボロボロだ。視力2.0あっても眼帯を付けたがるし、無傷で包帯を巻くのも好きである。手足に包帯を巻きつつライブ終わりに飲みに行く。
3.連帯感が強く孤独を嫌うから
基本的に同族意識が強い。仲間を見つけたら駆け寄っていくし、群れから離れることをよしとはしない。ただし群れでいてもあまり自分からリーダーシップを取る人間はいない。これはペンギンに近い。同じ氷山にいながら、ファーストペンギンを待つスタイル。
バンギャのステレオタイプを本人たちに聞いてみた
この3点は「バンギャ=メンヘラ」というイメージを植え付けるうえでは十分だろう。しかしステレオタイプというものは膨れるにつれて、だんだんと実体から離れてしまう。噂が広がるようなもので、本人たちにとっては「そんなことないわww」と思うこともあるだろう。
ということで某日。V系や声優系のライブが多いライブハウスを訪れてV系のイベントに参加した。そのイベントは10くらいのV系バンドが出るオールデイイベントで、オープン前からめちゃくちゃたくさんのバンギャが集まっていた。
終演までぜんぶ観て、出てくる人に声をかけることに。すると女子4人組が「やることないし、いいよ~」ってことでカフェまで来てくれた。4人中2人は黒目がなくなるカラコンを付けており、店員さんが一瞬「あれ、ゾンビを受け入れていいのか……」みたいな顔をしたのが印象的だった。「アイアムアヒーロー」を思い出した。
※「名前は出してほしくない」とのことで仮名でお届けする。
※できる限り温度感を出したいので過度な編集はしていない。
1.アイダさん(20歳の女性、好きなバンド「己龍」、職業:キャバ嬢)
2.ハラダさん(19歳の女性、好きなバンド「己龍」、職業:居酒屋店員)
3.ミヤタさん(20歳の女性、好きなバンド「R指定」、職業:キャバ嬢)
4.タカクラさん(21歳の女性、好きなバンド「NOGOD」、職業:一般事務)
私:今日はありがとうございます。じゃあちょっと質問していきますね~。まずは皆さんがV系にハマったきっかけから。いつごろですか?
ア:え~、いつごろ~? 気づいたら?みたいな感じ。
ミ:やばいね(笑)。マジで「気づいたら」だよね。
タ:あたしはナイトメアだけどね。高校とか?
ミ:古っ! やばい。
ハ:あ~、でもナイトメアは聞いてた。デスノート観てたから。でプラスチックツリー聞き出したのは覚えてる。
私:みんな高校生くらいから……?
ア:たぶん。16くらいじゃね?
ハ・ミ・タ:たぶ~ん。
私:V系のどこが好きだったんですか?
ミ:いや、もう尊い。顔が尊い。やばい。白い。
ハ:白い(笑)。女形ハマり過ぎな。でもファッションとかおしゃれでかわいいのはある。
ア:いや、でもやっぱ見た目の尊さじゃない? V系ハマってる人、基本そうだと思う。まず見た目が尊い。
タ:あと歌詞がいい。かわいい。
私:かわいい?
タ:え、なんかかわいくない?
ア:めっちゃ分かる。なんかかわいいし美しい。
ミ:なんだろ。「病みかわ」なんだよね。
私:服装とか世界観とか真似したくなる?
ハ:したくなるってか、もう推しになりきる。
ミ:あと、ノレるからハマれる。なんかストレス発散できる……。超楽しい。ライブも独特なノリじゃない?
ア:独特わかる笑。唯一無二感ね。
タ:ほんとそれね。V系は唯一無二感が強め。
私:他の世界にはないのが好き?
タ:うん。それはある。非日常感というか。好きな格好してても許されるし。ひたすら楽しいよね。
ア:間違いない。バンギャって、そういうもんだしね。この集まり自体が唯一無二のコミュニティ。
私:もともとバンギャになる前からアイデンティティというか、個性を強調したかった?
ミ:目立つの好きって感じ?
ア:あ、でも私は女子高だったけど、目立つタイプじゃなかった笑。むしろ陰キャ寄りだったけど量産型にはなりたくなかったって感じ。
私:バンギャハマる前は病みがちだった?
ミ:それはそう。当時の私メンヘラだったなぁ~って思う。
タ:うん。メンヘラだった~。けっこう年中死にたいと思ってた。
私:なるほど。じゃあ本題なんですけど、世間がバンギャに抱くイメージってこの3つがあると思ってて……。皆さん的にどうですか?
1.恰好が奇抜
ア:錬金(笑)。ウケる。
ミ:でもまぁ、今の恰好を観てもらえればって感じ。私は推しになりた過ぎて、好きすぎて服選ぶし。バンギャ専門のショップとかで買うから自然とこうなる。
ハ:ピアスとかボディステッチとかはやりがち(笑)。でも全員が変な恰好ってか、奇抜な恰好?してるわけじゃないよね。
タ:あ~でも私は推しにハマる前からけっこうピアス開けてた。
私:ピアスは不意に開けたくなるもの?
タ:うん。それはある。でも結構病んでるときにするかも。ボディステッチも。
ハ・ミ・ア:分かる。
2.なんかボロボロ
ア:確かにマッチョは見たことない(笑)。てか普通に生きててマッチョ見なくね?
タ:太ってる人はたまにいる(笑)。バンギャって痩せてるか太ってるか、みたいな(笑)。あんまり普通の体系の人はいない。
私:四人ともめっちゃ細いですよね。ダイエットとかしてるんですか?
タ:てか、太るの嫌じゃない?普通に。
ミ:沼りたくない(醜くなりたくない)のはある。
ハ:食べすぎたら、普通に家帰って吐くかな(笑)。
私:眼帯とか包帯とかはどうですか?
ア:かわいいし、普通にイベントなくてもやる。「病みかわ」はバンギャだったらみんな好き。
私:「病みかわ」の良さを教えてください。
ミ:なんだろ。考えたことなかった(笑)。
私:なんか助けてあげたくなる感じ? か弱い感じですか?
ミ:あ~、たぶんそんな感じ。守ってあげたさ。
ア:病んでる子って、かわいいじゃん? 推しもそんな感じで好き。V系のバンドマンって基本みんな病んでるから(笑)。私が推さなきゃっていう使命感(笑)。
3.連帯感が強く孤独を嫌う**
ハ:う~ん、微妙。どっちかっていうと、孤独な人が多いと思う。で、病む。みたいな(笑)。
ミ:分かる。ぼっちは嫌だけど、ぼっちになりがち。あ、でもライブ中のチームワークはやばい。
タ:たぶんみんなバンギャのコミュニティにしか心開けない。親とかに言ってもひかれるし。でも孤独は嫌だよね。それで病むことはある。
私:なるほど。ぶっちゃけて総括してもいいですか? バンギャってメンヘラ率高いんですか?
ア:間違いなくメンヘラ多い(笑)。あとキャバ嬢も多い(笑)。
私:どうしてでしょう。ちなみに皆さんはどんな時に病みますか?
ア:キャバやってるときは病む。将来のこととか。「大丈夫かあたし」ってなる(笑)。
ミ:分かるわそれ。あと家帰って1人のときとかやばい。
ハ:みんなと別れて家帰ったときは病みがちだよね。で、暇だしピアス開ける、みたいな(笑)。
タ:あたしは肌荒れしたときとか。「死んだー」ってなるけど。
ミ:あ~それもある。太った時とか、自己嫌悪半端ない。マジで吐けるものなくなるまで吐く(笑)。あと、イベントでバンドに貢ぎすぎて金なくなったときとか。
ア:それホント分かる。またやっちゃったって感じ。
私:逆に快感を覚えるときは?
タ:それは本命と絡めるときじゃね? チェキとか撮ったときとか。
ミ:本命のためにお金使うときは快感。でも家帰ったら病むっていうね(笑)。
ア:あ、バンギャってホス狂(ホスト狂い)になる人多いんだけど、たぶん推しにお金使うときに快感を覚えるのは近い。
私:なるほど。みなさん上がれるものなら上がりたい?
ア:まだいいかなぁー、って思う。
タ:あたしはマジでそろそろ上がりたい!
ミ:けど上がれないんでしょ?
タ:うん(笑)。
私:なるほど。やっぱバンギャって中毒性ありますよね~。ありがとうございました。
鶏が先か、卵が先か→メンヘラが先でバンギャが後?
本人たちに聞いて分かったのは、先述した「奇抜・ボロボロ」は、まぁほぼ事実だろうということ。しかし「孤独を嫌う」は半分正解で、おそらく孤独な自分は好きなのだろう、ということ。
また無意識下で「メンヘラであり続けたい」と自覚しているということも事実だろう。彼女たちのテンションがMAXになったのは、ラストの「どんなときに病む?」という話題になったとき。「私は病んでいる」と宣言することに快感を覚えている印象を受けた。
これは紛れもなく祝いであり呪いだ。自らを自分たらしめているのは「メンヘラだから」。メンヘラであり続けないと。誰からもかまってもらえなくなるという不安がある。祝い・呪いを解いてしまうと、何者でもなくなる、という自覚ははっきりとあるのだろう。
ただ「メンヘラである」という宣言にそこまでマイナスイメージを持っている様子ではなかった。昔、2ちゃんねるでメンタルヘルス板が流行ったころは、メンヘラ=「危ないやつ」というイメージだったが、いまではかなりフランクな言葉になっているのだろう。
では「鶏が先か、卵が先か」である。話を聞いていると、高校時代から4人ともバンギャになる前からメンヘラだったと自覚しているようだった。今回の件だけで言うと、メンヘラが先でバンギャが後である。ではV系の何にメンヘラセンサーが反応しているのか。
1つは「美しさや危うさ」だろう。彼女らには「外見のコンプレックス」がある。半分拒食症のようになっているのも、ニキビができて病むのも、何より美しいものに惹かれてV系に熱中するのも、やっぱり「美しいものに固執する」というマインドがベースにあるのだろう。
2つ目が「自己承認」だろう。もともと「病めば周りが心配してくれる」という歪んだ成功体験がある。そこにバンドマンという美しい存在から認められる、というさらなる成功体験が発生し、虜になってしまう。さらに貢ぐことで存在を認められる。なので貢ぐ。そして病む。ピアスやボディステッチはこの場合、武装ではない。むしろ「病んでいる証」。自傷に近い。
3つ目が「バンドマン自体の弱さや危うさ」。センサーが反応する対象としてはこれが最も大きい。バンドマン自体がメンヘラであり、メンヘラを存分にアピールする世界観や楽曲、歌詞などが特徴である。するともともとメンヘラだったバンギャは、まるで鯉にエサをやるように集まるわけである。
「祝い」でも「呪い」でもあり、良くも悪くもある
バンギャがメンヘラであるという事実がある。そしてこれは「呪い」であるが「祝い」でもある。彼女たちはつらい時間もあるが、バンギャというコミュニティに入ったから出会えた友人もいるだろうし、ある程度の快感も得ている。決してネガティブな要素だけではない。むしろ望んだ結果を手にしているのでめちゃくちゃポジティブである。
「バンギャ=メンヘラ」のステレオタイプは、今回の調査に限っていえば、正解であり、なんならバンギャ自身もそのステレオタイプを自覚することによって祝い・呪いが深まっているような印象だった。
今後「呪い」や「祝い」を解くか否かは彼女ら自身の決断であるが、少なくとも私の前で話をしていた彼女たちは、とても生き生きとしていた。なので、まぁ別に気が済むまでバンギャを続けてもいいのではないかな、と。
次回予告
次回は「アイドルはなぜ前髪をつくるのか」について。実際に知り合いの地下アイドルにインタビューをしながら進めていく。アレまったく崩れないけど、アラビックヤマトでも使ってんのアレ。
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