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万引は殺人?作家・井上ひさしは薪割りで許された?

大好きな作家、井上ひさしが、
『ふふふ』(講談社文庫)という
エッセイ集で、
小学時代、田舎で英和辞典を
書店で万引きした経験を書いてる。 

大作家が、きちんとした媒体で、
本の万引きを白状する、
というのは実に勇気がいったでしょう。

そして、また、
そこの書店のおばさんがいい。

ひさし少年は、ある日、
衝動的に、英和辞典をセーターの
下にいれてしまう。

店を出る前、店主のおばさんに
呼び止められ、バレてしまう。

おじさんは警察を呼ぼうとするが、
おばさんは、警察はいいからと、
ひさし少年を裏庭に連れていく。
生きた心地がしなかったそう。

裏庭の前で、おばさんは、
書店のお金の仕組みを話しだす。

500円の辞典。
400円(8割)で仕入れて、
100円(2割)が儲けになる。

でも万引きされたら、
400円が損になる。

同じ辞典を最低4冊売上げても
損益はやっとゼロに…。

こんな小さな本屋で
家族を食べさせるには、
毎月、辞典を50冊以上
売らないと、
生計はたてられない。

でも、あなたのような少年が
毎日一冊ずつ万引きしたら
うちはいつか一家で餓死するのよ。

一冊なら罪は軽いけど、
万引きは緩慢な意味で「殺人」だと、
おばさんは井上ひさし少年に諭した。

万引きは立派な「殺人」なんです。

書店のおばさんは、
それから急に庭の薪割りを、
井上少年に言いつける。

井上さんは夢中で、必死で、
恐怖や罪悪感で薪割りをしました。

しばらくしたら、
おばさんが現れ、
薪割りは一回700円が相場だから、
万引しようとした辞典と
それから現金200円をくれたとか。

一度めの罪は許す大人。
「育てる」という視野の大人。

井上ひさしさんは、
自身のこんな体験を
エッセイに書きました。

すごい勇気。

そして、万引きは
緩慢な殺人と同じですよと、
読んだ人みんなに深いところで
理解ができるように書いている。

これは教科書に入れたら
いいのになあ、 
いやあ、無理かあ。

背筋が伸びる名エッセイ。
胸襟をただす名エッセイ。

『ふふふ』は
短いエッセイが45本の
読みやすく、でも深い本です。

そういえば、
井上ひさしのモットーは、
「ふかいことをおもしろく」。 

「難しいことをやさしく、
やさしいことを深く、
ふかいことをおもしろく」でした。

現存する作家、漫画家、映画監督、
シナリオライターで、
「深さ」と「面白さ」と 
「やさしさ」を
常々、兼ね備えようと
自分に鞭打ってくれる人は、
本当に少ない大事業です。

井上ひさし少年に 
薪割りをさせた本屋のおばさん。
そんな人に、わたしはなりたい!

わたしは自分の罪深い体験で、
井上さんみたいな、
深くて面白くてやさしい話を
する力はまだまだ…。

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