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【ルポ】人はなぜ、貧困に惹かれてしまうのか?

人はなぜ、貧しさに惹かれるのか?

大学時代のサークルの後輩が、
東京の貧民街、山谷(さんや)に 
潜伏取材に行くんだと、
高らかに宣言して、
その翌日に姿を消した。

あれは、東京が
バブルの絶頂期だったから、
彼は敢えて、反対のベクトルを
突き止めたくて、
山谷を目指したにちがいない。

ただ、そのまま、宣言通りに、
山谷に潜伏したとして、
その後、彼の噂を聞いた事は
惜しいことにまだない。

あるいは、私が知らないだけで、
なんらかの形で、
ジャーナリストや大学の研究者に
なっているのかもしれませんね。

彼は山谷で何を見つけただろうか?
彼の山谷への並々ならぬ思いに
賛同した私は、
止めることをしなかった。
そのことにずっと、
責任感を感じてきました。

ところで、
貧民街に潜伏して記録し、
書物を著すことは、
昔からありました。

ジャーナリストで作家の
ジョージ・オーウェルが書いた
『パリ・ロンドンどん底生活』。

作家ジャック・ロンドンが書いた
『どん底の人びとーーロンドン』。

哲学者シモーヌ・ヴェイユの
『工場日記』。彼女はもともと
病弱だったから、劣悪な毎日は
苦痛おおき日々だった。

ところで、日本はどうでしょうか?

明治中期には、
何冊かの記録ルポルタージュが
発表されています。

『最暗黒の東京』松原岩五郎
『日本の下層社会』横山源之助。 
どちらも岩波文庫でした。

明治中期といえば、
資本家が急に増え、
成金が増える一方、
貧困層ができていった時期
なのでしょう。
その格差が許せなかったのか。

どちらも、作者自ら、
貧民街に入り、暮らし、共に生きる
という点では、
オーウェルやロンドンと
よく似た手法ですね。

ただ、最近は、貧しさを
記録しようとするのは、
ジャーナリストというよりは、
社会学者がメインになってきた。

社会学者・上間陽子の
『裸足で逃げる 
沖縄の夜の街の少女たち』は
深いインタビューで何人もの
少女を追っていくルポでした。

上間陽子が自身を書いた
『海をあげる』も名作でした。
社会学者というより、
作家になれそうな才能の持ち主です。

また、『東京貧困女子』という
書籍がありまして、
マンガ化、ドラマ化されている。
こちらは、男性ライター
中村淳彦氏が描いた本。
女子を取材対象にしてきた
ベテランライターだ。

貧困者は、男性だって、
同じくらいいるでしょうに、
女子に話題が集まるのは、
また、何か理由がありそう。

それから、戦前の潜伏ルポと
近年のインタビュー研究では、
はっきり違いがありますね。

自ら貧民街にまじり、
一緒に暮らしていくか、
学者としてインタビューを
繰り返すかに分かれることです。

私はアナログ人間だから、
自ら潜伏して著した本に
軍配を上げたくなります。

私に出来るかなあ?
臆病な私には出来ないでしょう。
だからこそ、
そこまでして根気よく
記録した作家たちに
敬意を覚えるんでしょうね。

あの時の後輩は今、
何をしているのだろう?

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