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【文豪】太宰治もやっぱりわからない!?

「太宰治がわからない」
そろそろそんな記事を書きたい
と思い始めてから、
どうも筆がのりません。

「わからない」の裏には
「わかりたいのに…」という
気持ちが籠もるものですが、
正直、太宰治には
わかりたい謎めいた魅力がない、
そんな気がするんです。

だって、太宰は作品の中で、
無防備な位、自分をさんざん
さらけ出しているからです。

もちろん、そうやって太宰が
作品内にさらけ出した自画像には
虚実ともに混じってるでしょう。

泣き虫、
強がり、
見栄、
虚栄心、
正直さ、
天性の嘘つき、
おんな好き、  
フェミニスト、
わかられたがり屋、
対人恐怖症、
甘えん坊、
ストイックさ、
繊細さ、
大胆さ、
羞恥心、
行動力、
やさしさ、
いじめっ子体質、
上流階級らしさ、
上流階級への後ろめたさ、
伝統への反抗心、
目上への従順さ、、、、

まだまだ太宰の性格を挙げようと
思えば、いくらでも挙げられそう。

こんなにも自分自身を
わかられたがった作家も
いないでしょうね。

だから、
太宰には、今さら分かりたいことは
余りないんです…。

それもそのはずです。
私は18歳からずっと太宰に
親しんできました。
腐れ縁の「悪友」です。
親友ではありません(笑)が、
かれこれ、36年の付き合いです。

恐ろしいほどのあの文才は
近代日本文学で、ダントツに
一番ではないかしら?

でも、なぜあんなに様々な感情を
書き分けられるのか?
それは先ほど書き出したような、
何十人もの人間が
太宰ひとりの中に棲んでいるから、
でしょうか?

いや、何十レベルではない、
100人はいるでしょうか?
もはや怪人百面相ですね。

なぜそんなにもたくさんの
人間が棲み着いたのか?
きっとそれは、太宰が
その場その場で、
様々な人格になろうとしてきた
せいかもしれません。

良い子、良い人、立派な人に
思われたいがために…!?

今日は私はちっとも
太宰の作品や文学について
話をしていませんね(汗)。

たしかに、太宰治は
誤解されやすいかもしれません。
私も18才でハマりだした頃は、
「誤解」していました。
若くして太宰にハマる人は
たいてい、まずは
誤解から始まります。

『人間失格』や『斜陽』、
『ヴィヨンの妻』などに出ている 
超ネガティブ思考で、
次々と不幸を招き寄せる
あまりに自意識過剰な男を発見した時、
“これは私だ”
“ここに書かれてるのは私だ”
“太宰だけは私の味方だ”
“太宰だけは私をわかってくれる”
そう思ってしまうのでした。
それが、太宰が仕掛けた罠だと
気がつくのは、
中年を過ぎた頃でしょうか?
 
この「◯◯さんだけは私を
わかってくれる」という錯覚は
読書体験の中でも、
極上の愉快な体験です。

漫画なら、大島弓子先生も、
こうした錯覚を起こしてくれる
魔性の作品を書いてくれました。

でも、太宰は、
自意識に縛られた私を
解放してくれた訳ではありません。

太宰の作品には、
触れるといつか死にたくなるという
猛毒が含まれています。
気をつけて読まねばなりません。
でも、18才や20才で
それがわからず、
快感に溺れて太宰病に罹かる人は
やはり後をたちません。

太宰病の免疫ワクチンを
いつか編み出してみたいものです。

でも、小説を書いていく時、
書き手はいつも、
「こう書いたら読者は
どう感じていくのか?」という
感覚を大事に掴みながら
読者を置いてきぼりにしないよう
しっかり最後まで
エスコートしていきますよね!
それが書き手の使命であり、
マナーだから。

…という書き手の前提に立って
改めて『人間失格』を書いている
真っ最中の太宰を
思い描いてみてください。
まあ、たちの悪いイタズラっこの
ような仕掛け人として、
太宰は「こう書いたら読者は、
『これは私だ!』と喜ぶだろう」
うふふ、と、
遥か上空、遥か高い俯瞰視で
読者を振り回しながら
執筆していたにちがいありません。

太宰は“私の最大の理解者だ”
なんて、とんでもない!
高みの見物人だったのです(笑)。
『人間失格』を読んで、
ただただ懺悔するように
ベタに自分の一生を素直に
書いた人物などではありません。

太宰が文章が上手すぎるがために、
誰もが最初は騙されてしまう。

そうして、
もう二度とこんな不毛な作品を書く 
作家とは付き合わないぞ、
という生真面目な人は言う。
一方で、太宰治サイコー!と
ハマっていく人もたくさんいる。

太宰ほど、好きな人と嫌いな人、
キッパリわかれる作家もいませんね。

ただ、時どき、思い出すんです。
三島由紀夫が言っていたように、
太宰がもう少し健康に気をつけ、
体にしっかり筋肉をつけていたら、
太宰が抱く文学的テーマも、
もう少し変化したでしょうし、
自殺などしないで済んだでしょうと。

うん?筋肉をまといすぎた三島も
結局は、自決しているぞ。

あちゃあ。
これじゃ、三島の太宰への皮肉も
うかうか信じたりできないか?

太宰治よ。
あなたは、日本近代文学最上の
文才があったことは確かだし、
読者の心をしっかと攫んで離さない
天才だったけど、
もっと健康管理を心がけ、
生活習慣病にも気をつけ、
早寝早起きを習慣として、
酒や薬をひかえていたならば、
あなたはもっと違う作家に
なっていたのでしょうか?

ああ、やっぱり太宰治はわからない。

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