【幸福の進化】幸せの形はどんどんタフになってきた?
山のあなたの空遠く
『幸い』住むと人のいふ
山のあなたになお遠く
幸い住むと人のいふ。
……『山のあなた』カール・ブッセ
『海潮音』より。
このポエムは、幸福について
繊細なイメージが湧きますね。
若い時は好きな訳詩でした。
明治時代、上田敏という翻訳家が
出したヨーロッパの訳詩の一つ。
ボードレール、ヴェルレーヌら
言葉の美しさや響き、レトリックを
大切にした人たちの詩を集めた
『海潮音』という作品集の、
有名な詩の一つです。
今も新潮文庫で出ていますね。
上田敏の翻訳力の素晴らしさから、
戦前戦後まで親しまれてきました。
幸せは山向こうに住んでる…
なんともセンチメンタルな儚さ。
ところが、高度成長期以降、
日本が元気な時代になると、
渋澤龍彦や寺山修司ら、
新しい価値観は若い我々で作るんだ、
こんな古ぼけた気持ちで
幸せなんかにはなれないよ、
と批判されだしました。
「幸福」はさ迷うように
あてなく探すものじゃない、
自分の力で逞しく、
自分の脚でひたすら見つけるものだ、
そんな発想が出始めたんです。
それは70年代。
バブル期「ポジティブシンキング」
今の「ポジティブ思考」の
走りだったかもしれません。
時代と共に、
幸福感も変わるんですね。
今では、もっと幸せ探しは
変わってきたようです。
タフな形になってきたんです。
幸せはすぐに形にしたい、
自分の力で、手と脚で作りたい!
今や、幸福とは、
探すどころか、
自分のガッツとスキルで
作り上げる時代になってきたかな?
「山のあなたの空遠く」なんて…
悠長なポエムはもう流行らないような。
でも、今のダイレクトな幸福感が
すっかり忘れてる事もあるようです。
それは言葉の美しさ、音の響き、
つまりレトリック(修辞、形容)が
おそまつになりつつあると、、、。
言葉自体はいつになっても、
いや、時代がスピーディに
なればなるほど、
言葉の響きや美しさは失わず、
大事に留めていたいものですね。