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【文学とテロ】戦後文学最大のタブー、風流夢譚事件をご存知ですか?

たった一本の筆から
戦後日本文学最大のテロ事件が
起きたことがありました。
死者も出ました。
きっかけは「風流夢譚」という短編。
ずっと絶版にされていました。
(今はやっと電子書籍化されました)

書いたのは深沢七郎。
「楢山節考」で華々しく
デビューしたばかりの異色作家。
雑誌「中央公論」に深沢が
1960年(昭和35年)書いた短編の中身は
街が騒然とする中、
昭和天皇の妃が公園で急に
左翼から喧嘩に巻き込まれたり
当時の皇太子夫妻、
今の上皇夫妻が突然、なぜか
殺害されるという悪夢を見る、
そんな男の話を書いたのです。

これが雑誌に掲載されると
世相がざわつく中、
右翼思想に被れた少年が
翌1961年、中央公論の社長宅を
襲って、夫人を負傷させ、
家政婦さんを殺してしまいました。
社長は家には不在で助かり、
深沢七郎は姿をくらますも、
宮内庁や新聞各社を巻き込み、
事件が収まるには何年もかかりました。

…と、これだけでは肝心なことが
伝わらないかもしれません。
1960年前後は、日米安保闘争で
左翼が日本中で拳を挙げ、
革命騒ぎをしていた時期です。

その共産主義運動の沸騰に対し、
右翼も黙ってはいませんでした。
60年には社会党の浅沼書記長が
演説中にやはり右翼?思想に被れた
少年に刺殺されたばかり。
左翼側も岸首相を襲う事件を、
起こしていました。

そんな物騒な世の中で、
皇室の人物が街で左翼的な市民に
絡まれる奇妙な小説とは
あまりに刺激的過ぎだったのか?
実際に雑誌発売前に原稿を見た
三島由紀夫は、これは危険だと
言ったらしい。

革命も反革命もどっちも
荒唐無稽な営みだよという、
至ってクールな骨子や主張も、
当時は通じなかったのです!

いや、どうでしょうか?
実は今もフィクションでは、
皇室を登場させたり、しかも
侮辱されたり殺害される場面を
書くような作家はいませんね。
英国王室は、随分コメディに
されたりしていますが…。

風流夢譚事件は実は今もなお、
皇室をむやみに作品に登場させない
という暗黙のルールを生んでしまい、
今も受け継がれているのです。

作家・深沢七郎は何年間も、
逃亡し、流浪の身となりました。
そんな作家が奇しくも
事件以前に出した日記エッセイが
『言わなければよかったのに日記』。
筆が起こした災いとはいえ、
代償はあまりに大き過ぎたような。
まるで予言していたのかな…。
この作家は本当とらえどころのない
食えない男でした。







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