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【三島由紀夫】今から三島を読むなら、新潮文庫?中公文庫?

もしも今から三島由紀夫を
読み始めたい、となると、
9割の人は、書店の
新潮文庫の前に立つでしょう。
代表的な小説が多いから。
『金閣寺』
『仮面の告白』
『午後の曳航』
『禁色』
『憂国・花ざかりの森』などなど、
純文学の名作が揃っています。

一方、角川文庫は、
三島由紀夫に限り、
娯楽小説やエッセイが揃っている。
『夏子の冒険』
『複雑な彼』
『不道徳教育講座』など。

ちくま文庫は、
『命売ります』
『三島由紀夫のレター教室』
『新恋愛講座』などなど、
ひと癖も二癖もある
娯楽小説やエッセイを取り揃えた。

そこまではいい。
新潮文庫に負けないよう
差別化を図ったに違いない。

というか、純文学作品は
ほとんど新潮から出ているから
上記のように娯楽小説メインに
するしかなかったのでしょう。

さて、ここからが本題です。

三島由紀夫の中公文庫は
なぜか、とても整然とした傾向を
持っています。
『作家論』
『文章読本』
『私の遍歴時代・太陽と鉄』
『小説読本』
『古典文学読本』
『戦後日記』
『荒野』
『谷崎潤一郎・川端康成』
こんな論考や比較文学が並びます。
小説は『荒野』の中に数編
入っているだけ。

とりわけ、
『私の遍歴時代・太陽と鉄』
『小説読本』『古典文学読本』
『作家論』はレベルの高い
論考が詰まった本たちです。

とりわけ、
作家を目指している人には、
特に『小説読本』
『作家論』
それから
『私の遍歴時代・太陽と鉄』は、
ぜひ読んでみて欲しい本です。

『小説読本』は
実用的な小説講座です。
凡百な小説講座にはない
三島由紀夫の実践的な小説指南です。
抽象的な指南とは訳が違います。

ちなみに、
私が個人的に好きなのは、
『私の遍歴時代・太陽と鉄道』です。

「私の遍歴時代」は青春時代の
三島由紀夫の自伝的論考です。
「太陽と鉄」は上記とは反対に、
亡くなる前に書いた遺書的な論考。
なぜ三島は作家になったか?は
「私の遍歴時代」に詳しく書かれ
なぜ三島は自決に至っていくのかは
「太陽と鉄」に詳しく書いてあります。

さて、もう一つ、
取り上げたいのは、
三島由紀夫の『作家論』です。
ここで三島は、当然ながら
自分が敬愛してきた作家たちを
取り上げています。

冒頭では、森鴎外について。
続いて、尾崎紅葉、泉鏡花、
谷崎潤一郎、
内田百閒、牧野信一、稲垣足穂、
川端康成、
尾崎一雄、外村繁、上林暁、
林房雄、 
武田麟太郎、島木健作、
そうして最後は、円地文子について
批評的な分析をしています。

優秀な作家は、
時に優秀な批評家でもあります。

森鴎外や谷崎潤一郎、川端康成は
三島が手本にしてきた大作家だし、
泉鏡花は大ファンだったから、
取り上げるのも分かります。
でも、他の作家で、
たとえば、
内田百閒や林房雄、上林暁らも
取り上げてあることは意外でした。
文学的な嗜好も志向も全く違います。

それに、今となっては、
ほとんど歴史人物になりつつある、
島木健作や武田麟太郎、牧野信一、
外村繁らも、
三島は熟読していたということは
なんだか、不思議な気がします。

三島文学は、
谷崎と川端で出来ていると
勝手に思い込んでいたのは、
私の偏見でした。

ここに出てくる、
牧野信一は岩波文庫にあるので
学生時代に読んでたり、
稲垣足穂はカリスマ的に
独自の世界観がある人だから、
新潮文庫や河出文庫で
読んだりできましたが、
武田麟太郎や島木健作、尾崎一雄
林房雄となると、
図書館に行くしかない。
林房雄や尾崎一雄は、
一度も読んだことがないですので、
いつかは読んでみたいですが、
なかなかそこまで手が回りません。
あ、円地文子さんは、
最近、また中公文庫で
小説が復刊されていましたね。

とにかく、三島由紀夫なのに、
小説は入れないで、
貴重な論考ばかり集めた
中公文庫のラインナップは、
尊敬にあたいします。凄いです。
三島を理解する上でとても助かります。
新潮文庫の三島だけでは
片手落ちになるからです。

三島由紀夫といえば、
新潮文庫?ではなく、
中公文庫だと私は思いたい。
(笑)。
 

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