【18.水曜映画れびゅ~】"Sound of Metal"~聞こえるということ~
※本記事では、聴覚障害者についての映画のレビューをします。それに伴い、障害者の方々を傷つける、意図しない表現・記述が、もしかしたらあるかもしれません。その際は、遠慮せずにコメント等でご指摘をお願いいたします。
”Sound of Metal”は、昨年から配信されているAmazonプライムオリジナル映画。
今年の米アカデミー賞では作品賞・主演男優賞を含む6部門でノミネートされています。
あらすじ
失う恐怖、そして受け入れる勇気
大音量・大音響のなかで活動するミュージシャンにとって、聴覚に問題を抱えることは常に隣り合わせの可能性だといえるでしょう。
一方でそれはアーティスト生命が絶たれる致命傷でもあり、その関係性は表裏一体です。
当事者にとっては受け入れがたい現実であり、「一生音楽ができないかもしれない」という絶大なる恐怖に襲われるのかもしれません。
2018年に公開され大ヒットした『アリー/ スター誕生』でも、そういった節が見受けられました。
ブラッドリー・クーパー演じるジャクソンは、長年ロックの大音響のなかで演奏した結果として聴覚機能に問題を抱えていました。
それにも関わらずその現実と向き合うことを避けて酒とドラッグに逃げ、最終的に劇中で描かれたのは悲劇的なラストでした。
そして本作の主人公ルーベンも聴力を失うことを激しく拒み、何とか回復する手段を模索しようとします。
しかし…
劇中に登場するドクターの言葉です。
この言葉がルーベンに重くのしかかりました。
紹介された聴覚障害者の自助グループで生活を共にすることになります。
そこでの生活によって、ルーベンは次第に聴力を失うことを受け入れていきます。
「聴力が元に戻ることはない」ことから逃げるのではなく、勇気をもってその現実を受け入れることによって新しい一歩を踏み出せる。
そんな強いメッセージ性を感じました。
イヤフォン推奨
ストーリーに加えて本作の魅力は、そのサウンド。
ルーベンの耳を起点としたサウンドで展開していく場面が多く、聴こえる音が非常に籠ったノイズのように表されていました。
映画を通してそのような疑似体験をオーディエンスにしてもらうことこそが、本作の一番のねらいなのかもしれません。
実際にそのサウンドの評価は高く、先日発表のあった英国アカデミー賞ではサウンド賞(以前の音響編集賞と録音賞)を受賞し、また米アカデミー賞でも同カテゴリー最有力候補と言えるでしょう。
Amazonプライムに加入しておられてこれからご覧になられる方は、テレビで鑑賞されるよりPCなどでイヤホンを付けてご鑑賞になられることを強くお勧めします。
「配信映画ならでは」のサウンドの楽しみ方ができると思います。
聞こえるということ
さて最後に触れておきたいのが、本作の邦題『サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-』について。
私は基本的にあれこれ付け足す邦題という文化が嫌いなのですが、今回の邦題は結構気に入ってます。
この副題「聞こえるということ」に、鑑賞後にジワジワ考えさせられます。
聴覚障害者の自助グループでの生活の結果、聴覚障害者として生きることを徐々に受け入れいたように見えたルーベン。
しかし音楽への未練を拭いきれず、物語の最後に大きな決断をします。
そのラストシーンを見た後に、この副題のすばらしさが皆さんもわかるのではないでしょうか?
前回記事と、次回記事
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次回の記事では、今年度のアカデミー作品賞ノミネート作品"The Trial of Chicago 7"(2020)について語っています。