記号トーエ

深夜は睡るに限ること 800字~1,000字くらいの文章を練習として投稿しています 全…

記号トーエ

深夜は睡るに限ること 800字~1,000字くらいの文章を練習として投稿しています 全ては創作です

最近の記事

無知の上に孤独

わたしは一人っ子なので親が死んだら完全なる一人、孤独死パターンになる可能性が高めです。プライドが高いので生涯を共にできるパートナーを作れるわけもなく友好な人付き合いが出来る精神力も乏しく、親戚との繋がりは断ちたいレベルに嫌悪しているので何も考えることの無くなった暇な休日やふと嫌な夢を見た後などは死んだあとの自身の処理について考えます。 僅かな期間ですが葬儀関係の職に就いていたことがあるため、選択肢は広がりました。ですが、そもそも人を呼んでの葬儀を行うことは考えていないためホー

    • 107 季節外れのにおい

       冬も半袖と裸足って、どんなハラスメントだよって。  先生の前で愚痴ったら何にでも共感してもらえるはずだった。 「もう雪降ってんすよ。それが、半袖に袴っすよ。どっからでも冷えるって」  学級日誌を渡すついで、ちょっとだけ話せたらいいなぁと口笛を吹きながら廊下を歩いてきた。最近気になっているバンドとか、YouTubeで見た動画でおすすめのやつとか。そっちを話しておけば良かった。先生は咳払いをした後「ハラスメント」と小声で繰り返した。好きなことを話している時と反対の声色だった。一

      • 106 パーキング

         パーカーの右ポケットに入れっぱなしにしていた鍵を投げつけた。当てるつもりだった。迫力など全くないまま、コンクリートの上にカシャンと鳴って落ちる。 「赤ちゃんかよ」  感謝の言葉は無いようだ。こちらを睨むこともせず、ユリカはあっさりとパーキングに向かった。かっこつけんな。背中にぶつけるつもりだった恨み言も、右手に引っ掛けられたキーホルダーを見ているうちにタイミングを逃した。ヒールの音が軽自動車のドア音に消え、すぐにエンジン音に変わった。もう会わなくなるのか。あれが手元に無い自

        • 105 参列の心配

           あいつを消すには私が死ぬしかないと気付いたのは最近だった。今まで縁切りをしに神社に行ったり妙なおまじないを実行したり、占い師に見てもらったりしたのが全部無駄だったのかと思うとへこんだ。使った金も安くは無いからだ。唯一事情を知っているシマノにはまだこの気付きを話していない。言ったらきっと止められてしまう。泣きながら「お前が死ぬ必要はない」なんて私が欲しい言葉をくれるかもしれない。そう考えると胸のあたりが傷ではなく痛むようだが、悲劇のヒロインに施されてきた魔法の様な洗脳は今日ま

        無知の上に孤独

          104 漠然とした

           タマキの家の表札は壊れたままだ。去年は父親が直してくれるとか言っていたくせに、結局そのままらしい。チャイムを鳴らすまでもなく、ラインに既読がついた。少しして、バタバタと足音がする。玄関が内から開く。ミントグリーンのハーフパンツから白い足が伸びていて、裸足でここまで来ていることに気付く。せめてサンダルを履け。まるっこいフレームの眼鏡をした女がにやにやと「どうぞぉ」と言った。  二階の彼女の部屋は、ちゃんと足の踏み場があって、スナック菓子のにおいも甘ったるい香水のにおいも無くな

          104 漠然とした

          103 シーシャ

           新しくなった市立図書館の三階には、こぢんまりした会議室とトイレ、殺風景な市内を見下ろす展望デッキにつながるドアだけがあった。廊下の先を中ヒールの音が響いている。ネズミ色の床に真新しい跡が出来る。まだ何のにおいもしない部屋を鹿野さんはどんどん進んでいった。捻られた回数も少ないだろうドアノブを開けた彼女の背を追って、自身も外へ踏み出した。靴の底が新しい地面に触れる。デッキは妙に甘いにおいがした。 「甘いっすね」 「シーシャだ」 「この辺に店ありましたっけ?」 「いや、あそこ」

          103 シーシャ

          楽園への夢うつつ

           死んでいたのかもしれないと思う程、穏やかな朝がある。カーテンを開けているわけではないのに隙間から一直線に入り込んでくるただ優しいだけの日の光と、うっすらと冷たい顔に当たる空気。休日の何も予定が入っていない早朝に、文字通り空っぽの自身を感じられるからかもしれない。布団に横たわった四肢は、微動だにせずぼうっと天井を見つめることになる。コンタクトをつけていないぼやけきった視界が伝えてくる光景に情報は無い。消音モードのアイフォンが横たわっている。いっそ死後の世界ならこの後やるべきこ

          楽園への夢うつつ

          102 ラウワンのクレーンゲーム

           何の為にやっているのか分からないまま、また五百円玉が溶けた。目の前に鎮座している巨大な熊のぬいぐるみはこちらに瞳を向けているものの視線は一向に合わない。まるで最近の有海みたいだ。  好きなアイドルグループについて熱く語っていたかと思えば突然「ごめん」と言って口をつぐむ。視線をスマホから正面に移し彼女の様子をチラチラと伺ってみても笑みは無く、むしろ口角は徐々に下がっていった。その間ずっと視線は学食の白い机に落とされていて、俺は一人で電車に乗っている様な気分に陥る。ざわついた車

          102 ラウワンのクレーンゲーム

          久しぶりに再開しました。 毎日では無いですが、書ける時書いていこうと思います。

          久しぶりに再開しました。 毎日では無いですが、書ける時書いていこうと思います。

          101 血豆

           また増えたと言われそうだ。チャームポイントでもなんでもない黒い点を視界に捉えても消えるわけは無く、かといって広がることも無かった。今日見た邦画に出てきた男女の台詞をなんとなく思い出す。必然的に行為も思い出す。俳優はどちらも有名な方で、特別ファンではないけれどアンチでもなかった。高すぎず低すぎず、聞き取りやすい声は不快ではなかった。奇麗な顔をしている。脚本も演出も声のトーンも小道具も、嫌味ではなかった。ただ、わたしの気持ちが高揚することはないらしかった。むしろ嫌な動悸がしてい

          Time waits for no one.

          ウェブメディア「かがみよかがみ」にてエッセイを掲載していただきました。ありがたいです。 お時間ありましたらぜひ読んでみてください。​ 夏っぽいこと何一つ出来ないうちにもう終わったみたいですが、 夏の曲はいつ聴いたって最高です。野崎りこんさんは天才です。 まだ暑かったり寒かったりするので皆さまお身体どうかご自愛ください SFを読むのは好きですが頭が悪すぎて一生書けないだろうと思っているので、尊敬します。最近何のジャンルにしても読書が出来ていないので時間を作る努力をしな

          Time waits for no one.

          なんでもないかなしみはどうしたらいいの

          ウェブメディア「かがみよかがみ」にてエッセイを掲載していただきました。ありがたいです。 読んでいただけたら嬉しいですが、人によってはあまり気分の良くなる文章ではないかと思うので、無理そうな時は他の方のエッセイを読んでみて下さい。 このエッセイを書いている前後、長澤知之さんの『宙ぶらの歌』をよく聴いていました。ぜひ聴いてほしいです。 生きるのに上手も下手も無いのでしょうが、圧倒的に後者だと思っています。甘えに甘えた挙句まだ文句を言ってそれでも許されようとしている滑稽さを、

          なんでもないかなしみはどうしたらいいの

          100 たぶん合法のグミ

           グミの袋を引っ張ったらむっとした顔でようやくこちらを向いた。袋の中から甘ったるい様々なフルーツが混じったにおいがしてきた。手の中に収まった袋を取り返そうとして失敗した彼女の、大して可愛くも無い頬の膨らませは一体どこの誰の影響なのか。知っていて、それを当事者に尋ねることは出来ない。黒いリュックには分かるけど聴いたことない、フェスによく出るアーティストのキーホルダーが付いていた。グミを盗られて不貞腐れたのか公園のパンダを模した遊具にまたがって一心不乱に揺れはじめる。女性アイドル

          100 たぶん合法のグミ

          99 爪を噛む

           休み時間に伸びた爪を噛む。ぎざぎざと不格好なままでは恥ずかしいから、更に噛み進めて形を整える。ただ、それをして残るものといえば負荷をかけて欠けた歯と噛みすぎて深爪になった指先だけだ。休憩室の隅っこで噛んだ爪をティッシュに吐き出す姿は、誰に見られることは無くとも汚い。元から地味な顔が更に歪んでいくようだ。表から男女の笑う声が聞こえている。職場のテレビで流れているバラエティ番組が苦手だ。特に男性芸人の言葉が、私を突き刺す。自分に言われているわけじゃないのに、責められている様な気

          99 爪を噛む

          98 酔いとグロー

           体内の水分が奪われていく。反対に、アルコールがひたひたと蝕んでいく。市民プールの偽物の水色がプールサイドに漏れ出る映像が脳内に浮かんでいた。この瞬間を逃すまいとスギサワさんにラインを送る。酔った勢いでなんとでもなる文章は、明日起き上がって見返したら大層な代物だろう。何もかも許されたかのように生温い空気と呆けた視界が私を取り囲む。周囲にはもちろん人間が居て、話し声だって聞こえているのに深海の中一人で沈み込んでいくような心地よい孤独を感じるのだ。しかし、アルコールが偉いのは自分

          98 酔いとグロー

          97 屋上前階段とアイス

           禁止されているわけではないのだ。しかし、施錠されている屋上への扉に続く階段を上っている時私は少しだけ緊張する。短いスカートとワイシャツの背だけ見えているかなりんはコンビニ袋を揺らしながら口笛を吹いていた。新曲って言ってたっけな。アイドルに興味の無い私には、彼女がカラオケで歌っていた曲という認識しかない。グループ名に数字が入るアイドルの、全員の顔と名前が一致して更に自分の好きな子を探しあてられるなんてある種才能ではないのか。私はいまいちピンとこなかった。上履きが段差を進む音は

          97 屋上前階段とアイス