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美食とエネルギーと〜エネルギーをめぐる旅/古舘恒介

JXに勤務されている古舘恒介さんが、ライフワークである人間とエネルギーとの関わりについて著した一冊.
忖度抜きで、自分が生涯で読んで視点が変わった・視野が広がったという観点からはベスト3に入る一冊です.

本書を読んでいる最中にテレビでグルメ番組を見、なんとなくですがエネルギーと食との関係性で考える部分があったので簡単にまとめておきたいと思います.

古舘さんは本書の中で、火の利用もエネルギー革命の一つと捉えています.
日本史の教科書などではただ単に、人類が火を使うようになったと言う一文で記載されることが多いですよね。
自分も、なんとなく、夜が漆黒の闇じゃなくなったんだなー、とか、煮炊きができるようになったんだなーくらいの解像度で捉えていました。

でも、火の利用が人間にもたらしたもので一番大きいのは、栄養の摂取が容易になり、頭脳活動にエネルギーを割けるようになったことに尽きます。
牛や馬をはじめとした草食動物の胃腸の長さや食事のスタイルを見ていてもそれがよくわかります。胃が4つあったり、反芻したり。
それくらい、エネルギーを投下しないと食物から必要な栄養素を抽出できなかった、とも言えます。

他の生物と比較したときに人間の消化器官の長さは短いようですが、その身体的特徴には火の利用が大きく関わっていたと言うことですね。


で、この栄養の摂取という観点から食事を考えてみると、皆さんもご存知の通り、飽食の時代と言われるだけあって身の回りには食べきれないほどの食品が溢れています。
昨今、フードロス対策をどうするなんて議論もなされていますが、必要な栄養素を摂取することが課題であった時代から、溢れた食品をどうするかという時代に移ったとも言えるかもしれません。

その食事に使う食材。
本書の中でも触れられていますし、小中学校の理科の授業でも習ったことですが、この世の中には食物連鎖なるものがあり、上の階層の方が個体数が少ないという構造になっています。
植物が光合成によって生み出した栄養を草食動物が摂取し、その草食動物を肉食動物が食べるという流れですね。
一番下の層である植物に一定のエネルギーが投下されるという前提に立つと、上の階層に行くほど、生存に多くのエネルギーが必要という理解になります。

目を転じてエネルギー問題という観点から食事を考えてみると、SDGs、エネルギーの消費を抑えるという観点からは、なるべく下の階層から効率的に栄養素を摂取するというのが解の一つになりうることがわかります。
輸送に関わるエネルギーはとりあえず単純化のために置いておきます。

牛のゲップが温暖化に影響してる、なんて話もありますが、そういった各種固有の事情は無視したとしても、ただ食べる・食べられるという関係からも食肉を単位量作るのに用いる植物や穀物量は数倍、数十倍になります。
牛肉1kgを作るのにとうもろこし11kgが消費されるということが本書には書かれてました。肉というタンパク源と主に炭水化物であるとうもろこしを同じ土俵で議論することはできませんが、もう少しエネルギー消費の少ないカロリー源から栄養を摂取するという観点も大事な気がします。

俯瞰してみると、少し現代の流れとは逆行することかもしれません。
丁寧に、言い換えると多くのエネルギーを投下してより美味しい食肉なり植物なりを作り出し、消費者に提供する。
ある種の芸術とも称される美食は、それはそれで突き詰める価値があることは否定するつもりは毛頭ありません。自分も美味しいものは大好きです。

ただ、一方でインスタントに食べられる美味しいものに慣れすぎてしまうことで、エネルギーの投下量の多い食材の食事じゃないと満足できないという人が増えてしまうことは、なんとなく今の潮流と逆行してはいないか、と少し心配になったりするのです。

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